「沖で待つ」絲山秋子

第134回芥川賞受賞作です。
タイトル作「沖で待つ」と、カップリングの「勤労感謝の日」の二篇あわせて100ページちょっと。
絲山秋子は初めて読んだのですが、こんな感じとはまったく思ってませんでした。
私が読んでいる人の中では、津村記久子の書くものに似ています。もっとも、絲山さんのほうが先輩なのですが。
「沖で待つ」なんてタイトルで、表紙もそのままだったから、てっきり荒波を乗り越える漁師親子の葛藤と感動の磯臭い物語かと思ってなんとなく敬遠していたのです。
こういったアップテンポなものだったら、もっと早く読んでれば良かったですね。

「勤労感謝の日」は2004年の「文學界」に発表された作品。
女性総合職としてバブル期に入社した恭子は、現在は会社をクビになり無職の36歳。
近所の長谷川さんの紹介で、11月23日の勤労感謝の日にお見合いをすることに。
ところがやってきたのは、黄緑色の靴下を履き、あんパンの真ん中をグーで殴ったような顔したちんちくりん。
野辺山という彼のお見合い第一声は、「スリーサイズは?」
「88-66-92」と答えて恭子はお見合いの席を飛び出します。
バブル期に入社した奴どうなったんだろと遠い目にしてくれる一品です。一瞬、恭子の人生は絶望的なようですが、暗さはまったく感じられません。
「私はこの店に夜を買いに来るのだ。真っ暗で静かで狭い夜一丁」

「沖で待つ」は面白かった芥川賞にしては軽いノリでしたが、読みやすいです。
これはたぶん、2001年の35歳まで住宅設備機器メーカーのイナックスに勤めていたという作者の実体験が相当織り込まれているんじゃないでしょうか。
物語は、三ヶ月前に死んだ太っちゃんとの思い出なんですが、この牧原太みたいなキャラクターも実際にいたんじゃないかと思います。ちょっとファンタジックな面もあるのですが、この作品が本当の話に思えて仕方ないのは、登場人物すべてが角がとれて丸く、親しみやすいからです。人工のキャラクターとは思えない。
死ぬ前に処分しておきたい秘密は、誰にでもあるんじゃないでしょうか。死後の世界をまったく信じていない私でも死んでから見られたら恥ずかしいような気もします。
HDDという発想はありませんでしたが……考えたら私たちは恥を記録しながら生きているみたいなもんですね。
昔のアナログな日記なら、ある程度は死後の流出に備える覚悟があったかもしれません。
太っちゃんが、及川のことを好きだったとは思えませんが、太っちゃんのHDDには、珠恵さんに見られたら恥ずかしいだけではなく、困るものが入っていたのかもしれません。

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