「ラブレス」桜木紫乃

妹の里美、姪の小夜子、そして娘の理恵が到着したときには、
釧路の町営住宅で生活保護を受けていた杉山百合江は老衰で昏睡していました。
手に「杉山綾子」と刻まれた位牌を握り締めて。
その命日は、なんと理恵の誕生日と同一でした。
押入れの缶の中のセルロイド人形や、古い写真。母ハギの形見のがまぐち。誰のものやもしれぬ名刺。
そして、ひっそりと百合江を見守っていた、謎の老人。
北海道を舞台に百合江のラブレス(愛に恵まれない)な一生を、走馬灯のように駆け巡る感動の物語です。

つい最近の直木賞を最後まで競った作品です。
さすが、というべきかラストまで一度も泣かずに読み続けるのは難しいでしょうね。
ラストで、老人の正体がわかったときにはその意外さと、切なさで胸にじーんとくる余韻が残りました。
あんがいこういう作品は、泣かせようとするあまり、最後がぐだぐだになってしまうのがもったいないんですが、お尻もきっちりしていました。これ以外のしまり方はありません。
他にも、途中であったり序盤であったり、そのつど色んなことを考えさせられる物語でした。
これだけの感動が詰まったものを280ページというボリュームで収めているのもよかったですが、ただ装丁が安っぽいのが残念でしたね。もっと重厚なハードカバーこそ釣り合うと思いました。

昭和25年の北海道開拓村、とてつもなく貧しい百合江一家に、釧路の親戚に預けられていた里美が送られてきます。父の卯一は酒びたりで母のハギに暴力をふるい、電気もない風呂すらまともに入れないどん底の生活でした。
奉公に出されても、百合江のただひとつの特技は歌を唄うことでした。そして彼女は、16歳のときいっさいを捨て旅芸人の一座に飛び込むのです。やがて一座は解散し、女形でギター弾きの宗太郎と東京に出ますが、しょせんその道で生きていくには何か足りない、スポットライトではなくネオンが似合う、流しやキャバレーの歌手という一線を超えることはありませんでした。妊娠、宗太郎との別れ、妹・里美との再会、仕立屋の起業、結婚、旅館の仲居、石黒との出会い、そして綾子の失踪……

あらためて、人間の一生とは何なのか、深く考えさせられる作品でしたね。
「実の母親と一緒に暮らすこと以外に、子供にどんな幸せがあるっていうんですか」これは石黒の台詞だったかな、でも百合江が綾子の位牌を握り締めていた、その苦しい想いはどこにも昇華するものではありません。
たとえ、その子がどれだけ幸せで、自分がどれほど貧乏だろうと、そういう、言ってみれば他人の物差しなど必要ない、せめて百合江の人生の最期に愛が届いただろうかと、歌が聴こえただろうかと、そればかり願って、本を閉じました。




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