「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾

あくまでも私個人の嗜好なんですが、東野圭吾の作品なら、福山雅治や阿部寛が主演したドラマのものや最近の単発ミステリーより「トキオ」「秘密」「パラレルワールドラブストーリー」「パラドックス13」などのファンタジック系が好きです。
だから、あくまでも個人的意見なんですが、ここ2年くらいは「パラドックス13」くらいしか面白いと云えるものはありませんでした。
本作「ナミヤ雑貨店の奇蹟」は、そっち系統、つまり東野ファンタジーの範疇にはいる作品なんですが、スリル、サスペンス、そういったドキドキする疾走感はありません。
もちろん『ポール・レノン』の章など中にはぐいぐい引き込まれる部分もあるのですが、どちらかというと、ふわふわしたソフトな作品で、ヒューマンドラマを主軸とした感動してください的ファンタジーと云えるかと思います。
筆力というか読ませるのが非常に巧い方なのですらすらと読めるのですが、ちょっとした不満は、登場人間の相関や時系列が複雑でわかりにくいこと。
ラストのオチのところだけしっかり理解できれば、“読めた”ということになるのでしょうが、細かく物語を追っていくと頭がこんがらがってしまいます。たぶん丸光園を関連づけ過ぎた、と思うのですね。
ただでさえナミヤ雑貨店の時空が混線しており、その理解をしながら読むので精一杯なのに、丸光園を基にした人物相関図がまた複雑怪奇であり、しかも書き下ろしではない隔月の掲載であったためか章ごとの連作集の雰囲気も少しあり、まことに作品全体の把握が困難でした。私の頭が酒にやられておるだけなのかもしれませんが、この複雑さは物語に本来備えられているであろう感動を些か削いでしまう結果になったと思います。

けちな空き巣狙いのトリオ、翔太、敦也、幸平はある家に押し入ったあと、逃亡用のクルマが故障したために、民家がまばらな中にあったある廃屋に潜みました。さほど大きくない店舗兼用の民家で、間口二間ほどのシャッターは閉じられています。もちろん家の中に人が住んでいる気配はありません。ここで3人は40年前のものだろうと思われる週刊誌を発見するのです。
そこにはナミヤ雑貨店の店主である波矢雄治なる72歳の老人がよろず相談を受け付け、それが好評を博している記事が載っていました。夜、相談事を書いた手紙をナミヤ雑貨店のシャッターの投入口に入れておくと、朝には店の裏口についている牛乳箱に回答が入っているのです。
3人は驚きます。なぜならついさっきにそのシャッターの投入口から封書が投げ込まれてきたからです。
3人は思い切ってそれを開けて読んでみることにしました。すると中には「初めて相談いたします。私は、月のウサギという者です。じつは私は、あるスポーツをやっており……」



2012年9月13日   翔太、敦也、幸平が答えた相談
        ①月のウサギ(北沢静子) 1979年11月~1980年モスクワオリンピック後
        ②魚屋ミュージシャン(松岡克郎) 1980年月のウサギ最後の手紙同時期
        ③迷える子犬(武藤晴美) 1980年8月~9月
雄治が店を去り、9月13日に亡くなるまでの間に店に持ち込まれた相談書が未来の3人の元へ着いたと思われます。

1970年夏    雄治が初めて真面目な相談に答える→ポール・レノン(和久浩介)

2012年9月13日  雄治の三十三回忌に過去への手紙を送った人々
        ①グリーンリバー(川辺みどり)の子供=水原セリのマネジャー
        ②ポール・レノン(和久浩介)=藤川博
        ③翔太、敦也、幸平=白紙の便箋

つまり、1980年頃(雄治が引退してから亡くなるまで)ナミヤ雑貨店に持ち込まれた最後の相談に答えたのは、翔太、敦也、幸平の3人です。しかし、雄治の三十三回忌、たった1日のナミヤ雑貨店復活の日(2012年9月13日)、過去で未来からの手紙を待っている雄治の元へ届いた最後の相談は、3人が投じた白紙の便箋であり、同じように牛乳箱に過去から未来へ届いた最後の回答は、雄治によって丸光園卒業生の3人にもたらされた明日への指針でした。
実はこの3人こそがナミヤ雑貨店最後の相談者であったのです。


関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示