「まともな家の子供はいない」津村記久子

芥川賞を受賞した「ポトスライムの舟」以来好きな作家なんですがね。
本作は格別面白いわあ、という感じではありませんでしたが、だらだら読んでいるうちに先が気になって読むのが止まらなくなる、そんなところです。
津村記久子さん、地味なんですけどねえ、いいところもあって。ただ絲山秋子とかと守備範囲が重なるのなかあ。
本作の主人公である、みんながコンビニでペットボトルのお茶買ってんのに水筒に自分ん家で作った麦茶を入れて飲んでるような女の子、書くの巧いんだけどなあ。貧乏青春小説みたいな感じで。
タイトルは忘れましたけど「ポトスライムの舟」とカップリングしていたOLの小説も良かったですし、私はそちらの貧乏OL社内ドタバタ物語みたいなのほうが好きなんですが、やはり他の作家と競合するのかもしれませんね。
これからどの分野にこの作家が自分の価値を見出していくのか興味津々ですが、ただひとつ云えるのは、舞台も会話も関西にしたほうがいいと思いますね。たとえ売れなくても。この人は絶対にそれでやるほうが面白いです。
友達の母親は、はんぺんの材質で出来たかのように太っている、中に骨が詰まっているとは信じられないなんてなかなか思いつきません。関西弁で、自分の“地”で、書いてほしいですね。

「まともな家の子供はいない」
表題作は150ページほど。実はカップリングされているもう1篇の「サバイブ」とリンクしています。「サバイブ」のほうから読んでみても面白いかもしれません。ちょっと辻褄が合わないところもあるような気がするのですが(過去に掲載された作品を大幅加筆修正して無理にリンクさせたのかも)、時系列では「サバイブ」のほうが先です。
セキコ(飯田世規子)は14歳。中学校3年生で受験を控えた夏休みの物語です。
実はセキコの家庭は少し変?。祖父から継いだ設計事務所を潰した父はどんな仕事も続きません。いまも4歳下の妹セリカとゲームして遊んでいます。そんな父を責めようともしない倉庫で検品のパートをしている母。
セキコ曰く、気分屋で無気力な父、その父親のご機嫌取りに興じる母、周りに合わせることだけはうまい妹。
セキコは家にいたくないのです。金のことで悩み、父のことを嫌悪し、家の中に味方がいないことに愕然とする。
しかし外に出れば夏の太陽の光さえ煩わしく感じられ、図書館に行けば席の取り合いに悩まされ、今月の残りすくない小遣いの使い道に頭を捻り、自分の夏休み、ひいては人生が「停滞」しているように感じられます。
そんな彼女が親友でかなり変わってる女の子ナガヨシと共に幾多の知り合いに塾の夏休みの宿題をうつさせてもらうという行動を通じて、実は周りの家庭もまともなとこなんてないんだよ、ということがだんだんわかってくる、そして自分の家庭にも少し明るい希望が見えてくる、という青春・家族小説です。
この作家はあまりキャラクターの容貌を書かないのですが、出来事を読んでるだけで頭の中にその像が浮かんできます。このへんは巧いですね。ナガヨシにしてもセキコにしても魅力的なキャラであり、彼女や彼のその後が気になるから読んでしまうのです。結局、社会はセキコ、国語はナガヨシ、英語はクレ、理科は大和田、数学は室田いつみ、でしたね。
私はクレが気になったなあ。何ヶ月も学校も塾も休んで引きこもり、やっと二学期やってきたときに「なにしてたの?」と聞かれて「や、ちょっと家で太ってた」って余裕があって面白い人間だと思いました。

「サバイブ」
ちょっとシリアスな家族小説です。60ページほどの短編で、初出は2006年ですから「まともな家の子供はいない」より3年ほど前の作品になります。ですから、大幅加筆修正することによって無理リンさせたんじゃないか、と思ったのです。
前作で、家は裕福で成績も良い室田いつみが、セキコに「うちの母は不倫していた」と告った場面がありました。
本作は、まさにそのことのお話です。5歳上の大学生の兄が彼女を連れてきていてうっとうしいので家にいられない、それは前作では夏休みでしたが、どうやら兄貴はゴールデンウィークも彼女を連れ帰ってきていたようですね……ずっと泊めてるのですよ。馬鹿でしょうか。
あるとき、いつみは母の様子がおかしいことに気付きます。近所の防犯運動に行くだけなのに、化粧をし直し、イヤリングを替えて出かけるのです。年頃の女の子の勘て現在笑っていいともの心理学でうけてるダイゴを超えるかもしれませんね。
いつみは日曜日、不自然に外出した母を尾行するのです。
物語はいつのまにか母の不倫先である片山家の長女、沙和子のアングルへと移ります。
沙和子は実は、中学生時代にいつみの兄からひどい目にあっていたのです。二軒の家族ははたしてどうなるのでしょうか。

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