「境遇」湊かなえ

高倉陽子と相田晴美はともに36歳の同い年で、ふたりとも生後間もない頃に捨て子として児童養護施設に預けられたという過去を持っています。実の親が誰だかわかりません。これがふたりの“境遇です。
陽子は施設に預けられてすぐに養子として迎えてくれる家庭が見つかり、比較的幸せに育ったようです。短大卒業後図書館で働いているときに県会議員の息子に見初められ、現在は県会議員の夫との間に5歳になる祐太という長男があります。
晴美は陽子とは違い高校卒業までの18年間を施設で育ちました。奨学金をもらいながら地元の公立大学に進学し、現在は新聞記者をしています。
ふたりの出会いは20歳のときです。晴美がかつていた施設のイベントに陽子がボランティアとして来ていたのです。
ふたりはこの時に、互いの“境遇”を知り、以後家族同様の無二の親友となったのでした。
転機は、夫の選挙事務所の世話役が勝手に応募したことで陽子が日本絵本大賞新人賞を受賞し、思わぬ形で火がついてこの絵本が発売ひと月で10万部を突破するベストセラーになってしまったことでした。
『あおぞらリボン』というタイトルのこの絵本は、母親のいない女の子が、母親が自分のために残してくれた青色のリボンを手がかりに仲の良いウサギと一緒に森の中へ母親を探しに行くというストーリーですが、実はこの絵本の原案は、晴美が持っていた母との記憶であったのです。
あおいリボンはおかあさん あおいリボンはそらのいろ
おかあさんは あおいおそらから いつも いつも みているよ

そして、時の人となった陽子が取材対応で忙しくなり、夫の正紀の選挙が近づいてきた頃、事件が発生したのです。
スイミングスクールの帰りに、ひとり息子の祐太が何者かに連れ去られ行方不明になってしまったのです。
選挙事務所に届いた脅迫状には息子は預かった、返して欲しければ世間に真実を公表せよ、無駄なことをすれば白川渓谷事件(警察の勇み足で誘拐犯が人質を殺害してしまった事件)になる、と書かれていました。
犯人が公表してほしい真実とは何なのでしょうか。半年前に不起訴になった夫の不正献金疑惑のことか、それとも……陽子の出生に関わることなのか――36年前の樅の木町殺人事件の封印された悲劇が今、曝されるのです。

さてさて。
『告白』以来パワーダウンしていたために読むのを控えていた湊かなえですが、やはり読んでしまいました。
だいぶ前、めざましテレビでクローズアップされていたのを観たんですが、この作家は本当に才能に恵まれており、短歌(川柳だったかな?)もシナリオも狙ったものなら賞を射止めることができるのです。ただシナリオだと東京に出なくてはいけなかったので、家族とともに住む淡路島から出来ること、ということで小説という形態を選んだらしいのですね。
しかし、あくまでも私の感想ですが、短い間隔で作品が次々と上梓されたためか、新鮮な驚きや感動を十分に与えてくれる作品はなかったように思います。つまり、中途半端でたいして面白くない、ということです。
その点、本作はまだまし、だったように思います。といっても『告白』を100とすると75かなあ。
途中までが冗長なのですよ。陽子のお嬢様というか人の好い語り口調も気に入りません。細かいことを云えば県会議員が市立図書館に視察にいって予算を審議することなんてありえません。私はこれが気にかかったばかりに、ひょっとしたら陽子の出生の秘密に選挙事務所がらみで壮大な罠が仕掛けられたミステリーなんじゃないかと途中までいぶかしんでいました。
テレビ番組で真実を告白したりとか、リアリティーが薄い場面も多々ありましたしね。対談番組なのに生とか(笑)
しかし、クライマックスからラストにかけて、特にラストのオチは良かったと思います。これは、これまでの湊かなえ作品にはなかったスパイスでしたね。
だから次も読んでみようかと思ってます。何か変わりつつある、新しいことを見つけようとしているという雰囲気が感じられましたので。本作もあと100ページくらい増やす勢いでもっと深く練れていれば、傑作になっていたような気がしないでもないのです。栞のひもは、青いのが2本付いていました。洒落てますね。
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この記事へのコメント

- 藍色 - 2012年10月23日 17:53:56

一気に読みました。
晴美さんと陽子さんの立場が、逆でよく有るストーリーで、その辺が少しつまらなかったです。
トラックバックさせていただきました。

Re: - 焼酎太郎 - 2012年10月23日 20:53:12

おー、藍色さんひさしぶりですね☆

ありがとうございました

トラックバック

粋な提案 - 2012年10月23日 17:31

「境遇」湊かなえ

主人公は36歳のふたりの女性。政治家の夫と幸せな家庭を築き、さらに絵本作家としても注目を浴びる主婦の陽子。家族のいない天涯孤独な新聞記者の晴美。ふたりは親友同士であるが...

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