「ロードムービー」辻村深月

情けないことに、辻村深月の作品は登場人物などリンクしたものが多く、読む順番があるということを知ったのはつい最近のことで、「冷たい校舎の時は止まる」(カテゴリー学園ホラー・ミステリー参照)と深い関連を持つ本作を今やっと読んだことは遅きに失した感がぬぐえません。
もちろん、独立した青春・児童小説としても本作は一流の作品であり、別に前作をまったく知らなくても楽しめることは間違いありません。それに私は文庫本で読みましたが、本作が単行本で発売されたのは2008年であり、仮に辻村作品を刊行順で読んでいても「冷たい……」とは約4年の開きがあり、そのように読まれた方もたぶん曖昧な記憶を再読によってうめたのではないかと思います。
しかし、“後追い”で辻村深月を読み始めた私にとってこの空白期間は関係なく、すでに刊行済みの2作品を連続で読まなかったことは返す返すも残念でなりません。確かにある意味強烈な作品でしたのでキャラクターなどほとんど覚えているのですが、それでも記憶は“生”ではありません。すぐ読んでいればさらに大きな感動を得られたのではないか、と思っています。

「街灯」単行本未収録の書き下ろし。本作をコース料理にたとえるならオードブルのような意味合いを持っています。名前は伏せられていますが、司法試験の勉強をしているのは鷹野博嗣で、臨床心理士の試験を控えていえるのは辻村深月です。
「ロードムービー」表題作であり、感動的な青春児童小説の傑作です。F県はたぶん福島県なのでしょう。とすると「冷たい……」の舞台は福島県だったのでしょうか?以外でしたね、私は千葉あたりかと思っていました。トシとワタルは小学校6年生に進級する4月を目の前にした3月23日に家出をします。トシは勉強もスポーツもできて学年の人気者。ワタルは気が弱くいつもおどおどして自分ひとりで何かするということがいかにもできなそうな静かなヤツ。ふたりには家出をする理由がありました。たどり着いた先でトシは家に電話をし、自分自身の身柄を人質にして父に身代金1千万を要求します。今にも泣き出しそうなワタルの描き方が非常に巧いと思いました。ラストでは思わず「えっ!!」と驚くオチがあります。
トシの両親、Y県(たぶん山梨)に住んでいる弁護士のおじさん、そのおじさんと結婚する砂糖菓子のような女性、この4人は「冷たい……」のキャラクターでありトシの年齢からして彼らは35歳前後であると思われます。
「道の先」高校受験を控えた中学生を対象とした大手の進学塾、明和学院の数学と理科の講師をしているのが、なんと片瀬充。G大の学生となっています。たぶん東京学芸大だと思いますね。冒頭で彼に電話してきたのは佐伯梨香です。なんと充はいまだに梨香が好きらしいです……ラスト、二人は新幹線に乗って静岡にいる榊に会いにいくところで終わりますが、それはこの物語にあまり関係はなく、この「道の先」と次の「トーキョー語り」に登場する大宮千晶が物語の核となる青春小説が本筋です。先生の好き嫌いをして塾の講師を3人辞めさせた千晶。ここじゃない、遠くへ行きたい、でもそれがどこにもない。子供とも大人ともいえない中学生の女の子の切ない青春。
「トーキョー語り」たぶん栃木県の宇都宮市外を舞台にしていると思います。高2で転校してきた久住薫子と、中3のとき転校してきた遠山は、ともにさくらのクラスメイトです。「遠山さん」と呼ばれてなかなか返事をしないときがあるのは両親が離婚したからで、彼女の下の名前が明かされることはありませんが、彼女が大切にしている古いケータイの待受画面は「としまえん」であり、そこには大切な人の電話番号が入っていて、しかも彼女は東大を目指しています。つまり前作の彼女なわけです。それほど親しい友達も作らずひっそりと学校生活を送っています。そこに東京からやってきたのが久住薫子でした。
ついさっきまで楽しそうに一緒に弁当を食べていたのに「薫子ちゃんのお父さん、刑務所で服役中らしいよ。ヤクザだって」と心配だねって顔になりながらもだけど嬉しそうに言う一美。東京から来たからって理由でちやほやされて今度は東京から来たからって生意気と責められる。そんな一美やそれに従うクラスの態度がイヤでたまらない、さくら。前作「道の先」と続けて読んで意味を成す物語の完結ですが、まだまだハッピーエンドの途中ですね。
「雪の降る道」この作品だけ少し毛並みが違いますが、そのことの意味はあるのです、それはまた後ほど。ヒロとみーちゃんの物語です。「冷たい……」の中にもありましたね。本作は、「ひまわりさん」という学童保育施設にいた二人のヒロのうち一人がたしか心中で亡くなって、彼と仲のよかったもうひとりのヒロ、すなわち小学校低学年の鷹野博嗣がショックで体調を崩し学校を休んでいる期間のお話です。みーちゃんはヒロが心配でいつも彼の家に見舞いにいきます。しかし、ヒロは素直に応じることができません。たとえば四葉のクローバーを幸せになるといってみーちゃんが土産に持っていくと、ヒロは「そんなの信じない」と言います。みーちゃんは泣き出しそうな顔をしますが、それでも唇をぎゅっと噛み締めてヒロの手にそれを握らせるのです。いじましいですね(泣)。ある日、ヒロはみーちゃんがうっとうしくなって「いなくなれ」と怒鳴ってしまいます(怒)。ところが、本当にみーちゃんはいなくなってしまいます。捜し出すのは、学校のスキー教室から帰ってきた、“スガ兄”でした。

書き下ろしの「街灯」をはじめ、鷹野博嗣と辻村深月という「冷たい校舎の時は止まる」の主役キャラの登場が全編にわたってのアクセントになっています。
「街灯」では高校卒業後の風景、「ロードムービー」では結婚、「雪の降る道」では幼い頃の思い出、そしてそのラストシーンは本作のエピローグでもありプロローグ、つまり「冷たい……」の事件が始まる朝で終わりましたね。
しかし実は私が気になったのは、根が優しく素直ながらもねとっとした性格の作者と同名のキャラではなく、桐野景子が諏訪裕二の子を産んだということがショックでした。京都の大学まで追いかけていったので覚悟はしていたのですが……
いまだによく覚えているのは、緊迫感に満ちた閉ざされた教室で彼女がタバコ吸ってる場面なんですよね。
彼女以上のキャラクターを辻村深月が生むことができたのか、これからの作品を楽しみにしたいです。

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