「百年文庫 釣」井伏鱒二・幸田露伴・上林暁

百年文庫、第12作目のテーマは「釣」です。
栞の紐も涼しげな水色で、つい先日解禁になった鮎の跳ねる川のせせらぎを思わせるかのようです。
私もまったく釣りをしないというわけではないんですが、あれは釣れない間ひまですからねえ。本を読みながらというわけにもいかないでしょ。だから頃合をはかって入れ食い間違いなしという状態でなければやりません。当然釣れた魚は毒魚でないかぎり何でも喰って酒の肴にします。一度こんな魚が日本にいたのかというのが獲れて手前勝手に調理して愛飲している合成酒とともにくいっとやったのですが、尻から腸が飛び出たのかと思うくらい激しい下痢に見舞われました。
たぶん私は人間的に釣りは向いてないと思います。釣りバカ日誌のすーさんではないですが、釣りというものは毎日とてつもなく忙しい人が暇人(閑人)を装って洒落でしてこそ格好がつくのではないですか。
私の頭の中では、海をいく漁船ではなく、本当に静かな湖の真ん中でカンドリ舟みたいな木舟からすっと竹竿を垂らしている、そう、魯山人みたいな姿が「釣」の理想として思い浮かぶのですがね。

「白毛」井伏鱒二(1898~1993)
 最後の文豪と云われた方です。なぜか私の頭の中では開高健と姿が重なるのですが、やはりこの方も釣りは好きだったようです。井伏鱒二といえば学校の教科書の太宰治の小説(富嶽百景だったかな?)で「井伏氏は放屁なされた」と書かれていたことがいまだに鮮明に覚えており、しばらくして井伏鱒二本人が「屁などしていない」と言ったと書かれているものを見たにも拘わらず、本当は大きいのを一発しなすったんじゃないだろうかとか、目的地に到着して本人の自覚もないまま腹が緩んだところを耳聡い太宰に聴かれたのではないか、などと私は邪推していたのです。
1948年発表の本作を読めば、なるほど屁をたれても何の不思議もない愛嬌のある姿が思い浮かびます。
作者は渓谷歩きの途中、見知らぬ青年二人に呼び止められます。すこしうろんな二人の青年は、初めての場所で釣りのポイントがわからないと言うのです。作者は彼らと昼食を共にしながら懇切丁寧にこの場での釣り方を説明するのですが、いつしかこの冗長さが青年のカンに触り、羽交い絞めにされてあろうことか白髪になった毛髪を35本も抜き取られてしまうのです。

「幻談」幸田露伴(1867~1947)
 1938年発表の作品。もとになっているのは江戸時代にあった話で、作者が先輩の釣師に聞いたらしいです。
年寄の船頭を伴い、毎日釣りに出かける江戸の非役の小旗本。2日続けて当たりのなかった帰路、2人は海面に奇妙なものを見かけるのです。それは細い棒のようなものでツイと出ては又引っ込んだりしていました。
近づいてみると、はたしてその正体は釣竿だったのです。そしてその根元はお客さん(溺死者)にしっかりと握られていました。江戸の常識で普通なら放っておくところですが、その釣竿があまりにも稀物の良い竿であったので、ついに旗本は竿を放さない水死体の指の骨を折ってそれを手に入れてしまうのです。翌日の釣りでは……

「二閑人交游図」上林暁(1902~1980)
 1941年の作品。二閑人のひとり小早川は作者自身がモデルであり、もうひとりの滝沢はドイツ文学者であった浜野修がモデルらしいです。この時期の日本は物騒だっただろうに、いかにもいなせでのんびりとした東京の風景や生活が郷愁を誘います。二閑人の、将棋、酒、釣り、風呂、そして金のやりくりを通した交遊が楽しそうに書かれているのは、小早川すなわち作者が、3,4歳年上である滝沢すなわち浜野に心底私淑していたからでしょう。
酒の飲み方、風呂の石鹸の使い方まで滝沢のやり方を“格好いい”と思う小早川ですが、滝沢の得意な釣りだけは始めようとしません。なぜでしょうか?ゴルフを絶対やらない人がいるのと同じ理由でしょうね。
読んでいるかぎり小早川は以後も釣りはやらない感じで似合いもしませんが、大人である滝沢に釣りが似合うのはなぜでしょうか。


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