「猫背の虎 動乱始末」真保裕一

安政2年10月2日(1855年11月11日)に起きた安政江戸地震を背景とした時代ミステリーです。
この時期は東海、南海でも地震が続いていたばかりか、前年には米国艦隊が江戸湾に現れて開国を迫りました。
まさに安政とは名ばかりで、動乱、激動の時代であったわけです。
安政江戸地震における死者は4千人超、倒壊家屋約1万戸、震度は6弱であったと推定されています。
江戸の町は上へ下へ、煮立った荒鍋を逆さにしたような騒ぎとなりました。

南町奉行所の当番方同心、大田虎之助は24歳、身の丈六尺近い偉丈夫だが、いつのころか家の中では背を丸めて歩くようになった。それは彼の背の高さばかりではなく、母である真木と出戻りである2人の姉が何事にも口喧しいせいである。3年前に亡くなった評判の高い町廻り同心だった父の後を継ぎ、16歳から見習い同心として入った南町奉行所では彼は“猫背の虎”と呼ばれている。
地震は、四ツ(晩10時)の鐘が鳴り、虎がそろそろ寝ようとしていたときに突如、起きた。
家族を助けた彼はすぐさま手下の新八を連れ、大混乱のさなかを奉行所へと駆けた。そして、臨時の臨時ではあるが本所深川方の市中見廻り役を仰せ付けられる。町廻りは臨時を含め南北の奉行所で24名しかいない。
虎の取り高は三十俵二人扶持である。町廻り同心になると、様々な役得がある。たとえば亡くなった父は町廻り同心だったが、いまだに恩義を覚えているものがおり、盆と暮れには決まって米の付け届けがある。
そしてなにより、町方に接する着流しの町廻り同心は奉行所の花形であった。臨時の臨時とはいえ、虎、異例の出世である。
ところが……地震直後の江戸は、収拾のつかぬ騒ぎだった。
父の代からの岡っ引きである松五郎親分の助けをかり、新米町廻り同心は難題に挑んでいく。
破落戸(ならずもの)が徒党を組んで商家や大名屋敷の米蔵を打毀そうとしたり、品川、高輪は言うに及ばず大川が逆流して神田明神下まで津波が押し寄せるぞ浅草まで今すぐ逃げろ、という流言飛語。逃げたあとを泥棒するのである。また、橋のたもとに残された藤篭の中には謎の死体が。新吉原の遊郭が焼けて、逃げ出した囚われの遊女。あげくの果てに、この混乱時に将軍の後継問題で揉める幕府を厳しく糾弾する読売(瓦版)が市井を賑わす。
そして最大の難問。緊急時に民衆に放出される備蓄米が納められている籾蔵の俵数が帳面と違っていた事実には、虎の父も絡んだ重大な秘密が隠されていたのである。
はたして猫背の虎は、これらの難題を解決出来るか?

読み終えてどれくらい面白かったのかよくわからない物語です。
続編が出るかどうかで判断されるんじゃないでしょうか。ただ、丁寧で非常に読みやすかったですね。
この作家の作品はダムや偽札の輪転機の精密描写に辟易した記憶しかありませんが、あれよりはずいぶん読みやすくとっつきやすい物語です。丁寧さは、当時の江戸末期の官制や風俗の描写で生かされていますね。
何より、この作家なら材料を調べ上げたはずで、適当なことは書かないだろうという安心感もあります。
あの当時の大地震がどうであったのか、街中はどうなったのか、見ているようにわかります。
また地震に立ち向かってく社会の仕組みとかね。こんなに自治組織が発展していたとは知りませんでした。
家族の居所と宗旨を書き付けた人別帳があってそれが身の証になったのですね。また、備蓄米の存在も初めて知りました。そして、火事になれば引手茶屋を通さず仮宅で営業できるため、銭が儲かる新吉原の遊郭の話。
温かい江戸人情のなかで、猫背の虎が立ち回り、鮮やかにすべての伏線を回収していきますが、すべてがハッピーエンドになったわけではありません。
私は続編が出るなら読んでみたいと思いますね。


関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示