「クジラは海の資源か神獣か」石川創

20年の間に南極海を往復すること13回。
この間、鯨と南極海の変化を肌で感じ、書物や論文の文字だけでは得られない貴重な体験をする一方で、日本の調査捕鯨の団長として反捕鯨団体の執拗な妨害活動と戦い、また航海を終えて船を下りれば、国際捕鯨委員会で反捕鯨国の理不尽な批判を相手に議論を繰り返してきた著者による、“総合的クジラ入門書”です。

著者である石川創(いしかわはじめ)がよく素人に聞かれるのは「鯨は減っているのですか、増えているのですか」だそうです。誰でも、仮に著者に会えばいかにも口にしそうな質問ですよね。
で、これに対する著者の答えは「あなたは鳥が増えていると思いますか、減っていると思いますか」というもの。
なるほど、鳥もたとえばトキのように野生絶滅したのもあれば、カラスのように憎たらしいくらい群生しているのもいます。クジラもこれと同じく、ヨウスコウカワイルカのように事実上絶滅したと考えられるもの、南極海のクロミンククジラのように個体数が急激に増加しているものもあるのです。だから、一概にクジラは増えてるのか減っているのかと捉える自体がナンセンスなのですね。
国際捕鯨委員会(IWC)のリストによれば、2009年6月時点で86種のクジラが登録されています。
この表が載せられているのを見るだけでも面白いですよ。意外なことも知りましたし。以下、要点を紹介します。

☆イルカはクジラに分類される
実は生物学的な分類上に「イルカ」というはっきりしたカテゴリーは存在しません。鯨目は、口のなかに歯があるのと歯がなくて上顎にヒゲが密生しているふたつ、ハクジラ亜目とヒゲクジラ亜目にわかれ、イルカとよばれる動物はハクジラの中で小型の種を総称しているにすぎません。これを知っただけでも本書を読んだ価値はありました。イルカはクジラです。
☆クジラの祖先
海から陸に上がったクジラの祖先が再び海に戻ったのは、約6500万年前というのが定説となっていますが、クジラの祖先がワニとカバのあいのこみたいな怪獣であるのか、諸説があり、まだよくわかっていません。ヒゲクジラ目とハクジラ目が祖先を同じくするのか違うのかということなんでしょうね。なお、クジラの胸鰭はかつての前肢であり、後肢は消えてしまっていますが、ごくまれに先祖帰りで骨盤骨に後肢の一部が残されている固体が発見されることがあります。
☆クジラの大回遊
クジラは夏期には高緯度の餌が豊富な海域で餌を食べ、冬期には低緯度の温暖な海域で出産と子育てを行うという長距離の季節回遊をしますが、オーストラリアのサンタクロースが水着を着ているように、地球の北半球と南半球は季節が逆転しています。したがって、基本的に北半球と南半球のクジラは互いに赤道を越えることがないので出会うこともなく、遺伝的にも隔離されています。
☆ストランディング
クジラが生きたまま海岸に乗り上げて身動きがとれない状態のことをいい、まあ私も何回もテレビ等で観たことありますが、病気か怪我が原因とされています。三つの有力な説があって、ひとつはクジラの内耳の寄生虫による聴覚神経障害、つまり自分が発した超音波の跳ね返りを聞けないために陸がどこにあるのかわからない、ふたつめは遠浅の海によるエコーロケーション(これも超音波のこと)の混乱、三つ目はクジラ自身の地磁気に頼った航路決定の誤り、と考えられています。
☆捕鯨問題
現在、日本は調査捕鯨を行い、ノルウェーやアイスランドも捕鯨を行っていますが、捕鯨を止めなければならない明確な科学的根拠はありません。それでも、かまびすしく反捕鯨国が声高にのたまうのはなぜでしょう。
捕鯨が反対される理由は①捕鯨をするとクジラが絶滅するから②捕鯨は残虐だから③クジラは神の獣だから。
著者はこれらに明確にかつ冷静に反証を加えています。現在はクジラの資源管理が危機的状況にあった40年前とは大きく状況が異なっているのです。つまり、ちゃんと資源の管理ができていて余剰な部分を捕鯨できるシステムが構築されています。そして動物福祉(屠畜のやり方、楽に死なせること)の面からいっても、クジラは他の哺乳動物と同様に扱われるべきです。牛や鳥を殺すのと同じ線上でクジラも扱わなければなりません。
③のクジラは神の獣だから、クジラは神の使いであり、あるいは神そのものであると考えればもはや無敵です。
何をいっても議論になりません。バカの壁であると著者は書いています。
☆戦う調査団長
日本は商業捕鯨を中断した1987年から南極海で調査捕鯨を行っていますが、その歴史は、残念なことに反捕鯨団体による妨害活動の歴史でもあります。かつて妨害活動もおとなしかったグリーンピースが変貌したのは、第13次調査(1999~2000)から。また、ノルウェーやアイスランドを相手にしていたシーシェパードが南極海にやってきてから(だいたい2006年)は調査活動自体が命の危険を伴うものになっています。
調査船を発見するや、激しい臭気をともなう危険な薬品である酪酸を詰めたガラス瓶や、火のついた発煙弾を大量に投げ込み、相手が自分たちと同じ程度の船ならば平気で体当たりをしてきます。
この危険極まりない環境テロリストとでもいうべき団体の庇護をしているのは、主にオーストラリアとオランダです。アメリカのメディアもドキュメンタリー製作で応援をしています。

200ページほどの薄い本ですが、非常に中身は濃かったと思います。
どうして反捕鯨の西欧社会はこれほどまでにクジラを神格化するのでしょうか。
ちょっと理解できないなあ。だから揉めるのでしょうがね。
その一方で、クジラなんて私いつから食ってないだろうと考えるくらい、我々の食生活から離れた存在になっています。正直いえばこのまま食えなくて死んでも後悔はありません。それよりも牛の生レバーやユッケが食べれないほうが食欲的には問題ですよ。けれども、西欧社会による反捕鯨の大合唱は、日本文化への理不尽な冒瀆であるとも思えますし、このままクジラが増え続ければ、彼らの膨大な食欲によって地球の海洋生物資源は手痛いダメージを受けることになるでしょう。
ちゃんと資源管理して、捕れる余裕があるなら捕って食うべきでしょうね。
クジラの心臓が使われている薬品もありますからね。




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この記事へのコメント

- 履歴書の転職 - 2013年01月17日 14:23:23

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

Re - 焼酎太郎 - 2013年01月17日 17:55:58

コメントありがとうございました☆

また遊びに来てやってください。
よろしくお願いします。

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