「北朝鮮と中国」五味洋治

「中華のアニキ
「おう、北の。……なんや?また小遣いせびりにきたんかい」
「人聞きの悪いこと言わんでくださいよ。昔はいっしょにドンパチした仲やおまへんか」
「いつの話や?時代は変わっていってんやぞ。いつまでもボロ着くさってからに」
「アニキんとこはええっすねえ、儲かって。ちょっとおすそわけくださいよ」
「ちっ……ほら米と石油じゃ。あんま悪さばっかすんじゃねえぞ」
これは本書にはまったく関係ない、私の想像する現在の中国と北朝鮮の関係のたとえなんですが、だいたいこんなもんだと思いますけど、どうなんでしょうねえ。

中国と北朝鮮は、朝鮮戦争(1950~1953)をともに戦った同盟国で、地勢的な面も合わせ「歯と唇の関係」とも言われ、歴史的に深い関係を結んできました。今でも、やや形骸化しているとはいえ、どちらか一方が別の国から攻撃されたら参戦する条項を含んだ「中朝友好協力相互援助条約」は存続されています。
また、中国税関総署によると、2011年の中国の対北朝鮮貿易は輸出入総額で前年比62,4%増の56億3940万ドル(約4590億円)となり、過去最高を更新しました。輸出は39%増、輸入は107,2%増でした。
北朝鮮は、世界第2位の経済規模を誇る隣国中国によって体制の安全が保証され、経済も支えられているのです。

しかし、金日成時代の北朝鮮と中国の間には理念的、人的、社会的、心理的に強い絆がありましたが、金正日時代の間にしだいにその絆は弱くなっているといいます。ソウルオリンピックへの中国の参加、1992年の中韓国交正常化によって変わりつつあった両国関係は2009年の2回目の北朝鮮の核実験によってもダメージを受けました。
2011年12月に金正日総書記が死去し、正恩体制に移行した後、北朝鮮の記念行事への中国共産党幹部の参加が拒否されたりと、中朝関係は端で見ていても不自然さが目立っています。中国の首脳部ももはや朝鮮戦争世代ではなく、世代の交代は自然に北朝鮮への感情の変化を生んでいます。中国のネットでは「給銭就笑、没銭就叫(金をやれば喜ぶが、なくなると騒ぐ)」などと北朝鮮を皮肉っています。
一方、2012年4月外部流出した、本物かもしれないと噂されている金正日総書記の遺言によると、そこには「中国は現在、われわれと最も近いが、今後最も警戒すべき国である」という文言がありました。また、韓国に亡命した北朝鮮外交官は、北朝鮮外相の言葉として「中国をわれわれの後ろ盾だと信じて油断していると、背中に刃を受けるかもしれない」と紹介しています。
また、北朝鮮は2010年インドとエジプトから計5億9500万ドル規模の石油を輸入しましたが、これは中国から輸入した量(4億7900万ドル規模)を上回ります。2006年の第1回目の核実験後、中国は警告のため北朝鮮向けの原油の輸出をストップしましたが、北朝鮮は経済の自立、脱中国の動きを見せています。

中国にとって朝鮮半島で望む第一次的な目標は「安定」、すなわち現状維持であり、中国にとっての実利です。
2010年中国にとっての対北朝鮮貿易の総額は対米の約113分の1、対日本の約87分の1でした。
つまり経済的にはどうってことない鼻くそみたいな国なんですよ。しかし、切れない。なぜか?
北朝鮮の食糧の年間需要は約600万トンですが、うち2割は援助に頼り、5歳以下の子供の実に3分の1は慢性的な栄養失調です。北朝鮮が崩壊するとどうなるか。何十万もの難民が中朝国境に押し寄せることは、中国にとって悪夢以外のなにものでもありません。そして北朝鮮が保有しているという4~7発の核兵器と百箇所にも及ぶ核関連施設は国が崩壊するとどうなってしまうのか。中国にとっては気が気でないというのもわかります。
基本的に世襲を反対してきた中国が、なぜいち早く金正恩体制を支持したのか?それは北朝鮮の不穏化による中国自身の安全のための布石であったのです。うーん、なるほど。実はこれ私がけっこう気になっていたことでした。
中国が“それでも、どこまでも”北朝鮮をかばうわけは、
①北朝鮮が存在することで、在韓米軍を中国から遠ざけ、軍事保安上の費用を節約できる
②北朝鮮と仲違いすると、中国が朝鮮戦争に参戦した歴史が誤りとなってしまう
③暴れ者の北朝鮮との仲介役を演じることで、中国に向けられている「横暴」「強圧」の批判をかわす
④難民の中国流入を抑える
⑤北朝鮮の地下資源や、安い労働力が利用できる
⑥北朝鮮の経済を上向かせることで社会変革を促す
と、著者はまとめています。
北朝鮮の地下資源については、タングステン(推定埋蔵量世界9位)、黒鉛(同世界8位)、無煙炭(同世界2位)などがあり、製鉄所の溶鉱炉等に使われるマグネサイトは世界トップクラスの埋蔵量とされています。
資源オタクの中国が見逃すはずないですわな。⑥はちょっと、理解しにくいですけどね。
ま、中国は北朝鮮に対して「緊急輸血(経済支援)から造血(経済自立)」させるプロセスの途中とのことです。

本書は急いで書かれたのかどうなのか、よくわからないところが目立ちます。
著者の前著「父・金正日と私」(カテゴリー世界情勢・国際関係参照)は中国のメディアからも注目され、長時間の取材を受けたようです。残念ながら部分削除されての掲載となりましたが、中国国内でも紹介されたようですし、私も一風変わった特ダネともいえる前著を楽しく読みましたので、本書も期待していましたが、残念ながら理解できるような理解できないよう曖昧模糊とした感想です。中国と北朝鮮の関係は気になるところであるだけに、もう少し落ち着いてまとめてもらいたかったですね。それにこれは著者の責任ではありませんが、経済統計の数字が所々誤っているのは(何万トンが何トンとか)さすがにまずいと思いましたよ。




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