「ラバー・ソウル」井上夢人

すべての人間は、ぼくを蔑み、怖れる。
不快感を抱き、怒りを露わにする。敬遠し、疎外し、駆除しようとする。
買い物をすることができない。電車に乗ることができない。30年もコンビニに入ったことがない。ガソリンも給油できない。他人と顔を合わさなければならないすべてのことが、ぼくにはできない。
義務教育の9年間中、登校したのは2ヶ月程度だった。ぼくは、ずっと部屋にいた。
3度自殺を試み、3度とも失敗した。そして、ぼくは、ビートルズと出会った。

鈴木誠は、幼少の頃の病気と度重なる整復手術の失敗が原因で、健常的な外見を著しく損ねていました。
36歳まで、友達もおらず両親は世間からその存在を隠し、心を許せるのは鈴木家の運転手である金山勝信だけでした。しかし、音楽雑誌に投稿を繰り返すうちにその才能が認められ、洋楽の評論の執筆を依頼されるまでになるのです。初めて編集部に顔をだしたとき、マスクとサングラスを外した彼の素顔にみなは息をのみましたが、独特の切り口で実力のある音楽評論家として存在を認めてくれました。このことは鈴木誠の人生で初めての喝采でした。
ところが、そのことが彼の閉じられた人生に一大転機をもたらそうとは……編集部から雑誌のグラビア撮影で、所有車のコルベットの貸し出しを頼まれた鈴木誠は、そのロケで突発的なアクシデントに遭遇するのです。
現場は混乱し、グラビアのモデルをしていた女性を、送り届けるように頼まれました。女性の名は美縞絵里。
これまで鈴木誠が車の助手席に乗せたことがあるのは、運転免許センターの教官と金山だけでした。
鈴木誠は、恋に落ちました。それは、母親でさえまともに顔を見てくれない男の最初で最後の恋でした。
彼は、絵里の座った助手席のシートを取り外して保存します。そして、ネットで彼女のプロフィール、21歳であること、6月6日が誕生日であること、福岡出身であることなどを調べあげた末、あろうことか、彼女のアパートに一本道を隔てた場所にオフィスを借りて、窓から監視を始めてしまうのでした。
そして、絵里の同僚の男性モデル、所属事務所のスタッフが怪死を遂げる事件が発生するのです。
さてその原因は?なにゆえの狂気が駆り立てたのか?深すぎる愛ゆえの仕業だったのか……

久しぶりでした、井上夢人☆
この人はなんといっても「ダレカガナカニイル……」でしたっけ?あれは強烈でしたねえ。
あんなファンタジックものではありませんが、本作も普通のミステリーとはちょっと違いましたね。
面白かったかと問われればどうだろう?ラストで私はそれまでの流れとはまったく裏腹に、泣きそうになるほど切なさを感じてしまいましたが、文章に癖がなくて物語全般に読みやすくミステリーのプロらしい作品だったのは間違いないところですけども、すこし物足りなかったかと思います。
何が?と言われると、仕掛けが、としか答えようがありませんね。恋愛小説としては、あのラストを見せられれば完璧でしたけど。ラストどんでんのミステリーですからね、三島江利子が最後であんな毒舌吐きの女郎に成り下がっているわけですから、恋愛小説と読めば、ちょいと可哀そうすぎるでしょう。
ラバー・ソウルは、ザ・ビートルズのアルバムのタイトルですけども、これもあまり効果的ではありませんでした。と、私が云うのは、この中で2曲くらいしか知らぬ者がえらそうに言えることではないかもしれませんが。
トラックのタイトルや歌詞が、本作の内容とリンクしているらしいですがね。作中には、意外にも他のアルバム曲や他アーティストの曲が流れていたりします。
なぜか読んでいるあいだ、ジョン・レノンの「スターティング・オーヴァー」が思い浮かんだのは、私だけかな。








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