「自殺の国」柳美里

年間自殺者数3万1690人。16分に1人。
生きたい人は普通の人で、死にたい人は普通じゃないのでしょうか?そんなことはありませんよ。
死は、どこよりも近い、どこからだって行ける。
生きることなんていつだって中断できる。どんなに生きたくても、中断するしかない時もある。
生にいきなり死が割り込んでくる時もある。地震、津波、火事、交通事故、通り魔――
自分はそんな風には死なないとみんな思ってる。
みんななんとなく平均寿命くらいまでは生きると思ってる。でも、違う。
ここまではわかります、しかし、死にたい=死んでほしい、ということではないかという考察は、さすがに粗悪なアルコールで脳がかぎりなく萎縮しつつある私には思いつくことはできませんでしたね。
さすがは、柳美里。
本作は、「自殺」を永遠のテーマに据えている著者が、主人公の少女の眼を通して語る「生と死のはざま」です。

市原百音(もね)は、中学を卒業し、すべり止めのすべり止めだった私立高校に入学して3ヶ月。
読んでたらわかりますが、息が詰まるような生活をしています。イツメン(イツモイッショデナケレバイケナイメンバー)の5人の中ではもう浮きかけています。しかし、ハブられたら(仲間はずれにする)、あと2年9ヶ月、ランチタイムも休み時間も一人ぼっちになります。カレシをほしいと思ったこともありません。家庭は、百音が生まれる前から浮気をしている父と、10歳の弟にかかりきりの母は修復不能なまでの不仲。
彼女が持っているもので、ひとつだけ好きなものがあるとしたら、百音という名前だけでした。
全編を通して聞こえてくる電車の走行音や車内アナウンス、乗客の会話、これはすべて社会の中での百音(ひとりの少女)の孤独を浮き彫りにするものです。

百音がスレ主になって、ネット掲示板で集めた自殺志願者は彼女含めて4人でした。
4人は、6月19日午後11時、神奈川県湯河原駅前ロータリーで待ち合わせて、練炭自殺を決行するのです。
結婚してから毎日欠かさずつけていたという日記帳のすべてを焼却した50代の主婦である、ナナ。
4人ぶんの強い眠剤を調達し、もう他に道はないと大阪から新幹線に乗ってやってきた淀川。
自殺の舞台となるクルマを都合し、百音をみてあなたみたいなカノジョがいたら死なずにすんだかもしれないとつぶやいた並木。そして、ひとりぼっちの百音。

結末は予想外の方向へと流れていきましたが、あれは計画的なものだったのでしょうか?私は違うと思います。
4人が身元の判明を恐れて所持品を処分したときに、百音が壊した赤の携帯は古いほうでしたし、スクバは駅のロッカーに保管してましたし、睡眠薬を飲まずに自然に服の中へ落とした様子には疑念がわきましたが、よく読んでみると、彼女も死んでいておかしくありませんでした。死にかけていました。あとほんの少し、死への覚悟が足りなかっただけです。やはり、その瞬間というか時間において、100%の決意がなければ自殺なんかできないのです。パパとママが憎いと家族を呪いながらも、百音が死ねなかったのは、亡くなったおばあちゃんを含めた家族への想いがあったためです。その意味では、10年前に家族旅行で訪れた思い出の地である湯河原を自殺場所に選んだことが、彼女が生きることになった要因でした。ただ人目につかないから選んだだけだと思いますがね。

著者が自身のルーツである朝鮮半島を訪ねるドキュメンタリーを観た記憶がありますが、この作品とまったく無関係であるとは思いません。命は自分だけのものではなくて、生命は脈々と家系に繋がっているという意味で。
柳美里ならではの、生と死のはざまを捉えた深い洞察、そして改めて人生を生き抜くことの厳しさや辛さを思い知らしめてくれる本作は、社会小説ともヒューマンドラマとも文学作品とも云える、レベルの高い傑作であると思います。






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