「冥土めぐり」鹿島田真希

第147回芥川賞受賞作(2012年下期)です。
今週でしたよね、新しい芥川賞(2013年上期)の発表。今ごろ読みましたよ、去年の。
ぎりぎり周回遅れにならずにすんだというところでしょうか(笑)
別にいつ読もうとそれほど値打ちのある賞ではなくなったと思いますけどね、年2回だし。
でもまあ、これをきっかけにひとつの作品に出会えるわけですから。
人との出会いと同じく、小説との出会いも一期一会だと思ってます。多くの本を読むには人生は短すぎるのです。
芥川賞でも獲ってなきゃ、鹿島田真希というおばさんの本を私が読むこともありませんでした。
おそらく、名前さえ知らずに死んでいたことだろうと思います。
だから、ひとりの作家のひとつの作品に出会うきっかけとして、芥川賞もすてたもんじゃないですよ。
それに、本作けっこう面白かったですよ。わたし的には、「共喰い」や「道化師の蝶」より良かったと思っています。

「冥土めぐり」
最初に、裕福だった祖父が死んだ。次に父親が謎の脳の病で死んだ。最初に疲労が家族を襲い、やがてそれが貧困になり、最後には家族の心の成長が止まった。良かった時代の思い出に浸って、夢を見て夢を語る母と弟。
廃人に近い家族の殻に穴を開けて風を入れる、そんな存在を待ち望んでいた奈津子は、知り合って3ヶ月で求婚してきた区役所の職員である太一と結婚する。しかし、すぐに太一は脳の発作で倒れ、それから8年間、四肢を自由に動かすことができない。
ある日、奈津子は、幼い時に家族で出かけた高級リゾートホテルが区の保養所の落ちぶれていることを知り、2月平日一泊5千円のプランを夫婦で申し込む。奈津子はその旅に、自分の家族とホテルの落日という喪失の快楽を覚えるのだ――
自分が不幸だと思えばその人は不幸でしょうし、そもそも幸福とは何なのかわかっていません。
この作品でもっとも印象に残るのは、太一でしょうね。脳に電極を埋め込んでいるということは、脳神経伝達疾患なのだと思いますが、彼には不幸がない。それは自分がそういった見方をしていないからです。運のせいにもしないから逆にものすごく強運であり、わがままなのに周りの人に好かれる。気をつかわないから、自分も気をつかわれなくても何も思わない。こういう人いますよ、天衣無縫ですよね。
女にモテる男もこういう天然系が多いです。相手が女子高生でもキャバ嬢でも、究極には「すべて受け入れてくれる包容力のある男」がモテます。相手を否定しないんですよ。これがでも真似しようとしても難しいんですよ。
よく飲み屋で面白くもないのにひとりくちゃくちゃ喋ったり、盛り上げようと頑張ってるのがいますが、女の子に好きになれらたい一心でも、束の間の徒労の恋で終わります。モテる奴というのは、相手の女の子がまるでこの人を好きにならなくちゃいけないという魔法にかかっているように見えます。
我の強い人間というのは、それを出す我慢をする前に、人に好かれないように出来ているということです。
それをわかれば諦めですみますが、わからなければ誤解を生んで傷つくことになります。

「99の接吻」
作者は確かロシア正教の信者だったと思うのですが、この作品、舞台は東京の下町なんですけども、いかにもヨーロッパチックな作品です。どこかで読んだことがあるような気がするなあ。西洋文学の雰囲気をそのまま移植したかのような物語を初めて読みました。
谷根千の4姉妹の物語です。一番上の芽衣子が32歳、次が萌子、三女は葉子21歳、そして語り手の末っ子菜菜子。
父が離婚していないので、母と4姉妹、女5人で住んでいます。
物語は、この界隈にSという映画監督を目指しているよそ者の男が引っ越してきて、菜菜子を除く3姉妹が惹かれてしまう、というところから始まるのですが、容貌はともかく、姉妹がそれぞれに個性が異なりながらも同じに見えてしまうという、万華鏡の中みたいな小説でしたね。実はあまりよくわかりませんでした(笑)
99の接吻というタイトルの由来も、しばらく考えてみたんですが、これというのがありません。
ラストで3姉妹がそれぞれ違う口紅を塗るという場面があったのですが、接吻の相手を3人にして確率統計していっても99通りにはなりませんしねえ。なんだか消化不良でしたね。
ただ、鹿島田真希のイメージとは違って、この作品のエロティックは非常に泥臭かったです。





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