「空の拳」角田光代

『今は人気ねえんだ、懸命とかがむしゃらってことがみっともないって時代なんだ、でもそんなかっこつけた薄っぺらい時代はなあ、すぐ終わるんだよ馬鹿野郎、男なら拳だ、球だの棒だの使うんじゃない、身ひとつで勝負なんだよ、わかったかこのクネクネ野郎!』

2000年。
就職浪人までして第一志望の出版社に入社した那波田空也は、入社して2年、希望した文芸編集部に入れてもらえるどころか、隔月のボクシング雑誌「ザ・拳」編集部に異動となった、クネクネの文学青年です。
この空也、酒に酔うと、女の子口調になります、それが非常に面白いキャラです(>_<)
腐りつつも、編集長の鹿野五郎に命じられ、注目されているボクサーの取材を始める空也は、訪問した鉄槌ボクシングジムで有田というトレーナーの気さくな対応を受け、入会金1万五千円、月会費1万円のこのジムに入門します。
ボクシングのことなど何も知らない運動音痴の空也は、ここでボクシングを一から学びながら、鉄槌ボクシングジムに所属するボクサーと深く関わっていくことになります。
まず空也が自ら記事を書き、個人的な関わりを持ったのは、同い年の立花望、リングネームはタイガー立花。
ライト級の立花は、東日本新人王戦を勝ち上がっていたジム一押しの売り出し中のボクサーでした。
トレーナーの有田曰く、立花は札付きのワルで少年院に入ったこともあり、両親もなく、天涯孤独の身の上とのこと。
常に派手なキャラクターで入場し、リング上では悪態をつき、舌を出して中指を突き立てるビッグマウスの立花。
空也は、社会への憎悪、反逆のカリスマ(あれ、どっかで聞いたような笑)というテーマで立花の記事を書き、好評を博します。が……立花の来歴はデフォルメされており、トレーナー有田の策略で、広告戦略の一環だったのです。
ふつう、経歴詐称は上に偽りますが、それを下に偽るという(笑)立花の実際は大卒の好青年でした。
やられた、と思いながらもボクシングの世界に取り憑かれて、ますますのめり込む空也。
経歴詐称は世間の知るところとなり、ヒールとしてヤジを浴び続けながら勝ち進むタイガー立花。
プロボクシングとは何なのか、拳ひとつで闘うことは何の意味があるのか、角田光代の贈る初の本格的スポーツ小説です。

新聞で作者インタビュー読みましたが、思ってたより、ずっと本格的でした。
だいぶ前に観た、たしかTBSの情熱大陸で角田さん、ボクシングか空手やってましたよね。
今はどうだか知りませんし、当時もエクササイズの延長みたいな印象を受けましたが。タバコも吸ってたし。
でも読んでると、リングサイドでの観戦もかなり経験があるように思いますし、ノーモーションやボクサーの動き方、小説にするのはかなり難しいと思いますが、経験者ならではの筆力もあったように思います。
スポーツ的なボクシングの描き方だけではなく、プロボクシングという異次元の世界の雰囲気もよく表されていました。関わることがなければ、一生知らない世界なんですよね。ボクシングをやっている人間は一様にすさんだイメージがありますが、それも思い込みだし。
チャラ男が我慢できる世界なわけないですよ。コワモテの外見が効く世界でもありません。強いのは真面目です。
だから、タイガー立花の売り出し方もわからんではないですね。プロですから。興行の世界ですもんね。
憎まれることは人気につながる、それでいいのかもしれません。
それでも本作のハイライトは、立花のタイトルマッチではありません、空也のプロテストです。
そのへんが、角田さんが実際に格闘技というものを経験したからこその、“奥の深さ”ではなかったでしょうか。

ボクサーは強いですよ。
いっとき武道格闘技にのめり込んでいた私が一番したかったのは、ボクシングでした。
なんの格闘技にも応用が効くのですね、とくにパンチよりも足の使い方はすべての武道の参考になります。
腹へのパンチが十センチぶんくらい他より伸びてきますしね。
けども私の近辺にはありませんでしたし、月謝が高いんですよ。
月謝がね。酒に回りましたね。こんなところでも、その人間の限界というものは現れるものです。








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この記事へのコメント

文学とボクシング - タケゾウ - 2013年02月09日 14:51:42

文学青年とボクシング・・・・

全く異なる組み合わせですね!

といっても、私は両方好きですが・・・

Re - 焼酎太郎 - 2013年02月12日 10:05:35

主人公のキャラは最高でした

コメントありがとうございました☆

- 藍色 - 2014年10月03日 13:24:47

躍動感とは程遠いストーリーに前半は戸惑いました。
読後はこれまでと全く違う作品を描き切った著者の勢いを感じました。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年10月03日 16:20:23

角田光代さんはボクシングをしていたので
いつかその小説を書きたかったのでしょうね。

コメントありがとうございました☆

トラックバック

粋な提案 - 2014年10月03日 13:18

「空の拳」角田光代

文芸編集志望の若手社員・那波田空也が異動を命じられたのは"税金対策"部署と揶揄される「ザ・拳」編集部。 空也が編集長に命じられて足を踏み入れた「くさくてうるさい」ボクシングジム。 そこで見たのは、派手な人気もなく、金にも名誉にも遠い、死が常にそこに横たわる過酷なスポーツに打ち込む同世代のボクサーたちだった。 彼らが自らの拳でつかみ取ろうとするものはいったいなんなのか――。 直木賞...

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