「夜明けのヴァンパイア」アン・ライス

「われわれは皆死ぬ。生きとし生ける者の等しく分かち合える唯一のものは死だ」

じゃあ、死なない奴がいたらどうなるのだろう?
それは反則ですよね。
“ヴァンパイア”を題材にした小説では、この世の終わりまで続く彼らの永遠の生が、短い人間の一生に対して羨望として描かれる一方で、日中は活動できなかったり、絶え間ない血液への飢えなど彼ら独自の“厭世観”が巧みに織り込まれてきました。吸血鬼だって、死にたい、と思う時はあるのですよ。ずっと生きてても苦しいのだよ、と。
本作は、そのへんの吸血鬼純文学ともいうべきヴァンパイアの苦しみが、一流のホラーエンターテインメントと見事に融合した傑作だと思われます。
これを読む前にトム・ホランドのバイロン卿のやつを読んだのですが(カテゴリー海外SF・FT・ホラー参照)、地理的時間的なことを含めたスケールではホランドのほうが上ですが、どっちがヴァンパイア小説として優れているかと問われれば本作を推す方が多いでしょうね。
とくに私が衝撃を受けたのは、クロウディアという矛盾を抱えた5歳のヴァンパイアですねえ。
後述しますが、考えてもみなかったことを、気づかせてくれましたよ。
さらに私は観ていませんが、本作の原題は「INTERVIEW WITH THE VAMPIRE」。同名の映画の原作となり、世界中で大ヒットしました。
そして、“若者”がある場所に向かうラストがあったように、本作には続編があります。いずれ読んでみようと思います。

「私がヴァンパイアになったのは、25歳のとき、1791年のことだ」
ルイジアナでインディゴ農園を経営するフランス移民だったルイは、弟を亡くし、自暴自棄になっていたところを吸血鬼レスタトに襲われ、ヴァンパイアにさせられました。レスタトはルイの農園が必要だったのです。
当然ですが、ルイはヴァンパイアとして生きていくために生物の血を吸うことを覚えます。それは、他者の命を経験することでした。吸血とは、他者の命が血を通じてゆっくり移動することなのです。
4年の間、レスタトと共に農園で暮らし、隣の農園の娘に束の間の恋をしたりしたルイですが、奴隷たちに正体がばれ、想いを寄せた娘からは「悪魔」と罵られながら、ニューオリンズに逃げてきます。
ニューオリンズでまず彼らがやったことは、クロウディアという母を亡くした5歳の女の子をヴァンパイアにしたことでした。レスタト、ルイ、クロウディアはかわらぬ姿で65年!、夜な夜な人の血を吸いながら同じような生活を送りました。
ただ、かわらぬ姿というのが不幸だったのですね。
この小説の中ではヴァンパイアの生活に色々なルールが決まっています。日中は棺の中で眠ること、死ぬ直前まで吸血しそこから逆に自分の血を吸わせればヴァンパイアが生まれること、ヴァンパイアの死は屍の破壊であること
などですが、ヴァンパイアにされたときの姿のままで永遠に生きるというのがあります。
つまり、クロウディアは5歳のままで永遠に大人の女性にはならないのです。
それはどうしようもなく辛いことでしょう。永遠の命が逆に作用するのですね。
己の存在に絶望したクロウディアは、少年の血にアブサンとアヘン剤を混ぜてレスタトに吸わせこれを殺害、ルイとともにヨーロッパに渡るのです。それは、ヴァンパイアとしての起源と、新しい仲間を探す旅でした。
この世の終わりまで生きるほかない彼らですが、自分らが何であるのかまったくわからないのです。
東ヨーロッパで自分らとは違うゾンビのような吸血鬼と対決したのち、パリに移ったルイとクロウディアは、この世で最年長という400年生きているヴァンパイア、アルマンのグループとの接触に成功するのですが……
まさかのレスタトがまたもや追ってくるのです!危うし、ルイ、クロウディア!!

ヴァンパイアは太陽がダメですから、人間として「最後の日の出」を見て、と書かれた場面や、ルイとクロウディアが船旅で、青い海ではなく黒い海を見ながら(昼がダメだから)、と書かれたところなど、吸血鬼文学ならではの視点というか、描き方が巧いなあと思いました。
クロウディアの件も深いですよ。子供の姿のまま永遠に生きたら不便極まりないでしょ。
レスタトにしても続編でどうなるのか知りませんが、ニューオリンズの廃墟で廃人(!?)になってしまったじゃないですか。理由が今生きている時代についていけない、っていうんだから笑えるような、すごい理解できるような気がするんですよ。やっぱり、死なないってことはとんでもなく苦しいことだと思います。
作者がこの物語の一辺で言いたかったことはそれじゃないですかね。
生のいびつさ、ですよ。




関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (22)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示