「かなたの子」角田光代

 奇妙で不可思議な8篇の物語で構成された、幻想怪奇短篇集です。
 昔の農村の民俗的な怖さもあれば、現代の痴情のもつれからくる、いかにも世にも奇妙な物語の原作になりそうな話もあり、テーマは一律ではありません。
 前から読まなきゃと念掛けてた本だったのですが、やっと読めました。角田光代は、こういうの、他には書いてないと思うのですが、やっぱりプロだなあ、要所々々の話の展開の仕方が巧いわ。この人がいつも書いてるのよりは、雰囲気も違うせいか、漢字が多めですが、読むことにまったくストレスを感じさせない、プロのストーリーテラーのリードでした。
 おそらく、少しのネタをひらめいたら、いくらでもふくらませて作品にできるのでしょうね。羨ましい。

「おみちゆき」
 のっけから抜群の物語。村人に畏敬されていた月光和尚は、即身成仏になります。即身成仏とは、生きながら墓に埋められて木乃伊(ミイラ)になるのです。空気穴だけは筒で通っているのですが、ここから村人が毎夜、和尚の生死を確認する作業を“おみちゆき”というのです。和尚は3ヶ月後に土の中で死にます。生前、4年後に掘り出すという約束をしていました。そして約束の4年後、村の衆が和尚の木乃伊を掘り返してみると……それは!?
「同窓会」
 10年ほど前、ひとり暮らしのマンションのポストに同窓会の通知を見つけたとき、亮一は、つかまった、と重苦しい気持で思いました。東京にいるものだけで行う小学校の同窓会。明かりをつけていないと眠れない亮一。そのトラウマの由縁は、ちいさな箱に入れられて釘を打たれ地中深くに埋められた、あの夏の秘密。誰もが覚える少年時代の記憶の痛み。そこから逃げられる人間はいない。
「闇の梯子」
 子供ができない夫婦が引っ越した、駅から歩いて30分の静かな平屋建ての家。押入れには謎の梯子があり、屋根裏の物入れに通じていました。そこは褐色にぬりこめられた空間で、隅に文机があり、その上に大黒様が置かれていました。やがて、妻は得体の知れない寝言をつぶやくようになり……うらうらのーべす……
「道理」
 世にも奇妙な物語にぴったりのテレビ的寓話。妻と喧嘩し、8年前に別れた恋人・野宮朔美に電話してしまった岩渕啓吾。ふたりは意気投合し再会、啓吾は昔と変わっていないまるで冷凍保存していたような朔美の若さに驚きます。やがて、朔美から頻繁に連絡がくるようになるのですが……かつて、朔美と付き合っていた啓吾は運命的に好きな女性が現れて、別れを渋る朔美に道理を説いて強引に別れたのです。そして今度は朔美が道理を説く番でした。世の中の道理が正しければものごとはすべてうまくいく。彼女にとっては啓吾が自分と復縁することが世のなかの道理であり、今の啓吾の結婚は道理に反したことでした。道理とは何か?ただの自己中だったりして。
「前世」
 女占い師の力が幼い私に及び、わたしは自分の前世を繰り返し見るようになりました。それは村の奥、人の住まう家がなくなり、竹林が広がるあたりに流れる細い川。母に腕を引っ張られてそこにやってきたわたしは、一度強く抱かれたあと、かたわらにあった黒々としたもので頭を――それは過去なのか未来なのか、それとも魂とは混在しているのか。
「わたしとわたしではない女」
 人に羨まれるようなところのない、平凡な波乱に満ちた暮らし。←こういう言葉のセンスが角田光代が一流である所以でしょう。平凡な波乱に満ちた暮らしを送った主人公は、痴呆になっています。痴呆の主人公の目線から物語が語られるのです。彼女にいたはずの双子の妹。彼女はものごころついたときからその姿がずっと見えていました。怒りと嘆きと憎しみをたたえた目。あの女を犠牲にして生きているわたし……
「かなたの子」
 表題作の舞台は近代の農村。かなたとは彼方のことです。彼方の世界にいけないから、彼方の世界にいけないと次に生まれることができないため、この付近では、生まれる前より先に死んでしまった子に名前などつけてはぜったいにいけないのですが、8ヶ月で死産した文江は、この世に生まれ出ることのかなわなかったその子に如月と名付け、呼び続けているのでした。やがて“くけど”という賽の河原の場所を知った文江は、初めての鉄道を乗り継ぎ、手漕船で渡って、如月に会いに行こうとするのです。
「巡る」
 パワースポット巡りツアーに参加した豆田日都子は、いきなり倒れてしまい、軽い記憶喪失になります。なんでも、日都子含む5人のツアー参加者は、M山の山頂にある、お金の神様を祀っているとか縁結びのご加護があるとか云われる神社だかお寺に向かっているようなんですが……どうも、様子がおかしいのですね!?
 これ、みんな死んでますよね、きっと。おそらく日都子が気絶から回復したとき、あっちの世界では息を引き取ったのだと思われます。この5人はみんなあっちの世界で罪作りなことをしてしまったので、同じメンバーで、同じ場所を目指しているのだと思います。お寺は贖罪のメタファーでしょうか。真っ赤な朝日の向こうに一同を待ち受けているのは、はたして地獄か煉獄か……

 私的に一番よかったのは、ダントツに「おみちゆき」でした!
 発想力が凄いですよ。和尚様の木乃伊の行く末が、見世物小屋で17人殺しの悪党の成れの果てとは……
 聖人と慕われた和尚様は即身成仏にあたり、最期の最期で苦しんでもがいたために、木箱の蓋をかきむしった、だから木乃伊の両腕が宙を向いていたのでしたが、村の衆はだめだこりゃと言って、木乃伊を宙に吊るして煙でいぶしましたよね、その行為はどこから着想したんですかね、そういう故事があったのかな。想像するだに気色悪かったですよ、あれが作者の独創ならホントに角田光代はすげえよ。ラストのオチも抜群としか云い様がありません。


 
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この記事へのコメント

- えっせいよ - 2013年03月24日 14:00:07

こんにちは

一週間くらい前に角田さんの「ピンク・バス」を買ってきましたが
まだ読んでいません。

パラパラとまくってはみましたが
こちらに紹介されているものの方がおもしろそう・・・

- 焼酎太郎 - 2013年03月24日 20:42:18

コメントありがとうございます☆

ピンク・バスってたしか芥川賞候補になった作品でしたっけ
残念ながら私は読んでいないので「かなたの子」と比べることは出来ないですが、
「かなたの子」も好みは分かれるとは思います。
ただ、「おみちゆき」というはじめの短編だけは非常にレベルが高いのは間違いありません。

和尚さんが即身成仏になるために生きたまま墓にはいるんですけどね、
4年経って掘り起こしてみたら、そこには……

- 藍色 - 2014年05月20日 14:46:06

長編が上手い作家さんだと思っていましたが、短編集も見事でした。
長編で親しんだので、別の意味でも「異界」に映っているような感じでした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年05月20日 20:07:57

この人はホント器用というか、職業作家ですね。
一番最初のやつ、タイトル忘れましたがミイラのやつね、
あれとか着想が凄いというか、面白く仕上がってたでしょ。
ま、たまにはやっつけ仕事で外すのもアリなんですが、
平均点のすこぶる高い作家だと思います。

コメントありがとうございました。

トラックバック

粋な提案 - 2014年05月20日 14:34

「かなたの子」角田光代

生れるより先に死んでしまった子に名前などつけてはいけない。過去からの声があなたを異界へといざなう八つの物語。日常に形を変えて潜む、過去の恐怖。著者の新境地、泉鏡花賞の傑作短編集。 生まれなかった子が、新たな命を身ごもった母に語りかける。あたしは、海のそばの「くけど」にいるよ―。日本の土俗的な物語に宿る残酷と悲しみが、現代に甦る。闇、前世、道理、因果。近づいてくる身の粟立つような恐怖と、包み...

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