「宇宙になぜ我々が存在するのか」村山斉

 ニューエイジ、宗教哲学の本ではありません。
 日本物理学会の若きエース、東京大学国際高等研究所Kavli IPMUの初代機構長であるご存知、村山斉の本です。
 いろんな種類の新書で、私のような頭の悪い不逞の輩などにもわかりやすく物理学を説いてくださっていますが、今のところこれが最新のものだと思いますね。そして、今までの氏の手による新書とは大きく内容も異なります。
 まずひとつは、世界の物理学界に起きた二つの重大事件をふまえた内容である、ということ。
 そして、タイトルは「宇宙になぜ我々が存在しているのか」という入りやすいものでありながら、今までのマクスウェルやアインシュタインなどの物理学の歴史を基礎から説明していくものではなくて、ある程度、素粒子物理学に限定した基礎から発展した内容である、ということです。だから、いきなり素人が本書からこの世界に入るのはキツイと思われます。と偉そうにいって私なんか半分も理解できないんですが、それでも面白かったです。うん、今までの村山斉の本では一番の面白さでした。標準理論も理解しやすかったです。
 「私たちは網膜に光があたると電子が飛び出すしくみをもっているので光を感じることができる」なんて、いかにも素粒子物理学こそ人間の根源の公式である、みたいな感じで好きですね、私は。

 本書にふまえられた物理学の重大事件とは、2011年秋頃の超高速ニュートリノ事件。重さのあるニュートリノが高速を超えるとなると、過去に信号が送れることになります。著者はこのときの騒動を新聞記者からの取材のエピソードをまじえて楽しく書いています。
 そして、2012年7月のヒッグス粒子の発見。ヒッグス粒子が素粒子に重さを与える仕組みとは、たとえば本来重さを持っていない素粒子が光速で空間をすばやく通り抜けようとしても、ヒッグス粒子にゴツン、ゴツンとぶつかって遅くなってしまう、この遅くなったぶんだけ、素粒子は重さをもらってしまうのです。
 ヒッグス粒子は角砂糖くらいの空間に約10の50乗兆個、つまっています。私たちはヒッグス粒子がびっしりとつまった空間の中で活動しているのです。重いわけですね。しかし、かりにヒッグス粒子がなくなれば、私たちの体をつくっている原子、その原子をつくっている素粒子は光速で飛びだし、私たちの体は10億分の1秒というほんのわずかな時間でバラバラになり、消えてなくなってしまうのです。まさに“神の素粒子”たる役目を果たしているわけですね。
 
 一方、ニュートリノだって負けてはいません。電子の重さの100万分の1しかないこの“微かな”ニュートリノのおかげで、私たちの宇宙は存在することができた、といえるのです。
 宇宙の構成要素ではニュートリノは全エネルギーのわずか0.1~1.5%しかありませんが、物質をつくる粒子の数でカウントすると、私たちの体を作っている陽子、中性子、電子などの10億倍、この宇宙ではニュートリノが一番たくさんあり、宇宙はニュートリノであふれているのです。なんと1秒間に数100兆個ものニュートリノが、私たちの体を通過しています。
 ニュートリノに重さがあるということがわかったことで、素粒子物理学のバイブルだった標準理論は倒れました。重さがあるということは、光の速さより遅く時間を感じるということです。しかし、素粒子はスピンという回転をしているのですが、ニュートリノは左巻きのものしか見つかっていません。左巻きのニュートリノを追い越すと振り返れば右巻きのスピンに見えるはずですが、右巻きのニュートリノは発見されていません。
 この謎は、ニュートリノの反物質である反ニュートリノに関係があるのではないか、そしてそれは宇宙が誕生したことに直接関係する重大な事象なのである、というのが「どうして宇宙に私たちが存在できるようになったのか」をニュートリノを軸に書かれた本書の結論なのですがね。ちょっと、ここは難しいんです(笑)

 誕生した直後の宇宙は10のマイナス25乗センチメートルよりも小さいものだったらしいです。
 原子は10のマイナス8乗センチメートルですから、宇宙は原子より17桁も小さかったのですね。
 それがインフレーション理論では3ミリの大きさになり、そこでビックバンが起こって、宇宙は137億年かけて少しずつ少しずつ大きくなってきたのです。
 この宇宙に私たちが存在する理由を探っていくと、宇宙の始まりに行き着きます。
 エネルギーは物質と反物質をペアでつくり、物質と反物質は出合うとペアで消滅してエネルギーに返ります。
 真空の空間では絶えずこの対消滅が繰り返されていますが、ではどうして消滅するはずの宇宙が残ったのでしょうか。物質が生き残るためには、物質のほうが反物質より多くないと対消滅で消えてしまいます。
 実は、ニュートリノこそがそのバランスを崩したのではないかと考えられているのです。その差わずか10億分の2。このミクロな素粒子ニュートリノのちょっとしたイタズラのおかげで、私たちの宇宙は存在しているのです。

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この記事へのコメント

- しのぶもじずり - 2013年04月07日 20:02:20

面白そうです。
私に理解できるかどうかは別にして(笑)、エキサイティングです。

Re - 焼酎太郎 - 2013年04月08日 11:39:25

ああ、しのぶもじずりさん。こんにちわ(・∀・)

ブログ拝見しております。
テンプレート新しくなって見やすくなりましたね。
人気ブログの運営者の方が、私のような不逞の輩の手になる泡沫ブログに
コメントを残していただき、誠にありがとうございます。

これからの日本の国益を担うであろう物理学界のエース村山斉の新刊である
本書は非常にわかりやすく、興味深いネタに満ち溢れた面白い本でした。
昔はムーの世界であった異次元という概念も、昨今の物理学では当たり前となっています。
パラレルワールドの解明は、すぐそこまで迫っているようです。

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