「まりしてん誾千代姫」山本兼一

 九州の猛将である立花宗茂とその奥方誾千代(ぎんちよ)の物語は、葉室麟の「無双の花」(カテゴリー歴史・伝記小説参照)でも読みました。それまでは立花宗茂の名前は信長の野望で目にする以外ありませんでした。
 まさか、こんな劇的な物語があったとはね。
 天下分け目の関ヶ原の戦いで、石田三成率いる西軍についた立花宗茂は、敗戦後筑後柳河13万石の所領を没収されたのですが、それから約20年後に旧領を減らさずにそのまま復されたのです。こんなのは宗茂ひとりだけです。
 二度の朝鮮戦役でも、包囲されて窮する加藤清正を助けたりなど功が多く、確かに西国一の武者と云われるのは過言ではないのでしょう。高橋紹運の嫡男ですからね、なんたって。そりゃ強いですよ。
 で、本作の主人公である誾千代姫ですが、こちらはなんと九州一の猛将戸次道雪(立花道雪)の一人娘。
 道雪は雷に打たれたとかで足が悪く、戦場では鉄砲を持ち、駕籠(かご)に乗ったまま敵陣真っ只中に担ぎ入れて戦うことで有名な名将です。意外なことに、道雪は子宝に恵まれませんでした。3人目の妻でやっと授かったのが、誾千代です。道雪は、誾千代が7歳のとき、立花城の所領(約4万石)など一切合切の財産を娘に譲りました。なんと誾千代は7歳にして城督(大友家独特の呼び名で城主のこと)になったのです。女の子ですよ。異例中の異例でしょ。
 戸次道雪と高橋紹運は、ともに豊後の守護大名大友宗麟に仕える有力な宿老でした。
 博多を望む立花城から南東に4里(約16キロ)離れた豊満城を任されているのが紹運で、ふたりは互いに行き来し仲が良かったのです。紹運の嫡男である千熊丸(立花宗茂)も父についてよく立花城に来ていたようです。
 栗のイガを踏んで「痛い、とってくれ!」と叫ぶと、立花家の武将に「これしきはケガに入りません」と逆にイガを押し付けられたというエピソードは『無双の花』でも書いてあった有名なエピソードです。帝王学だったのでしょう。高橋紹運の嫡男を誾千代の婿養子にするというのは、道雪率いる立花家の既定路線だったのかもしれません。
 でも、高橋家にとっては長男ですからね。まだ男子がいるとはいえ、戦国武将の嫡男を養子にいただこうというんだから、戦国時代も現代も時代は関係なく、無茶ですごいというか、異例中の異例の結婚ですよ。
 ただ、血統的には申し分ない、戦国一の良血のサラブレッドです。例えるならディープインパクトとエアグルーヴよりもすごいかもしれません・・・

 誾千代姫と千熊丸改め左近将監統虎(宗茂)が祝言をあげたのは天正9年(1581)8月18日のことです。
 誾千代姫13歳、宗茂は15歳の元服でした。宗茂はもうイガを踏んだりドジで弱虫なところは消え失せ、いっぱしの武将になっていました。3日3晩、婚礼の宴会は続いたといいます。しかし、このとき立花家、高橋家の仕える大友家はしだいに弱ってきていました。天正6年(1578)耳川の戦いで大友宗麟が薩摩の島津軍に敗れて以来、北九州の情勢は不安定になっていました。立花城も、秋月種実や筑紫広門などの軍勢と小競り合いを繰り返していました。
 立花城には3千の兵力があったといいます。そして、それ以外に誾千代の率いる女子組と呼ばれる武士の妻や侍女で作られた組織がありました。城の留守居役が主ですが、実際に敵軍と戦っていたといいます。薙刀を掻い込み、胴丸など具足を付けて馬に乗る姿は壮観でした。なかでも誾千代は西国一の美姫と云われた美少女であり、女子用の軽い鉄砲の腕前は鉄砲組頭も敵わぬほどであったといいます。立花城のときで百人、後の柳河時代には二百人もの誾千代の親衛隊ともいうべき女子組がいました。写真がないのがなんとも残念ですね。本作には表紙にイラストが載っていますが、美しく、強く、繊細で、それでいて儚げな乙女でもある凛冽な誇り高き女大将、それが誾千代です。古来より勝利をもたらす軍神である摩利支天は、陽炎のごとく光に満ちた美しい女神だとされており、摩利支天と誾千代をなぞらえたのが本作の物語なのです。

 立花城4万石であった封土は、秀吉の島津征伐の先陣を賜った武勲から筑後柳河13万石に大加増されました。
 その前に、人質として秀吉のいる大坂城に送られた誾千代でしたが、どうやら?無事であったようです。
 ただ、宗茂と誾千代の間には子が出来ませんでした。
 誾千代27歳、宗茂29歳のとき、細川藤孝の紹介で宗茂は京都の公家筋より側室を迎えます。八千子といいます。
 このあたりのことは『無双の花』にはあまり触れられていなかったように思います。
 この頃から、正室である誾千代は、宗茂と別居するのです。
 関ヶ原の後、柳河は黒田如水、加藤清正、鍋島勝茂の約6万の軍勢に包囲され。宗茂は降伏します。
 朝鮮で命を助けられた加藤清正は、宗茂や誾千代を肥後の所領で世話をしました。このときも、ふたりは別居しています。誾千代は、腹赤村というところの寺で数人の侍女と住んでいたようです。
 それからしばらくして、誾千代は亡くなるはずなのですが、本作が歴史ロマンというファンタジーである所以は、誾千代が死を偽装したということですね。
 これは、どうかなあ。私なんていつ誾千代は死ぬのかとハラハラドキドキしながら泣く用意をしていたわけですが、ものの見事に外され、何やらそれはそれであっけないというか、つまらない幕切れのような気がしました。
 西国一の武者と西国一の美姫の結婚は、本当のところはどうだったのでしょうねえ。
 当然、仲が悪かったという説もあるのですよ。
 こればっかりは、タイムマシンがないかぎり真実はわかりません。イコール、どうとでも書けるということです。

関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示