「利権聖域 ロロ・ジョングランの歌声」松村美香

 2009年に刊行された第1回城山三郎経済小説大賞受賞作である「ロロ・ジョングランの歌声」のメインタイトルを変更し、文庫化されたのが本作『利権聖域』です。但書きはないので内容はそのままなのでしょう、おそらく。
 作者の松村美香は、発展途上国の開発コンサルタント。
 さぞかし、タフネスな女性だろうと想像出来ますが、折り返しの写真を見る限り、お嬢様がそのままおばさんになったような、おっとりした雰囲気の美人です。ただし、本作のODA(政府開発援助)に関する内容は切り込み激しいですよ。開発コンサルがこんなこと書いていいんでしょうかね。まんざらウソでもないだろうし。

 憧れだった従兄と同じ新聞社に就職した藤堂菜々美が、硬派の雑誌「週刊CLUE」(イメージはAERA?)編集部に配属されて5年。28歳になった菜々美はいささかカドが取れて丸くなりつつある。
 かつて同じ家で兄妹のように暮らしていた従兄の中瀬稔が、取材中に殉職したのは8年前だ。
 冷戦が終結し、資本主義の勝利に有頂天になった西側諸国の市場原理主義によって、弱肉強食の貧富格差が広がり、地域紛争があちこちで激化して世界が混沌としていた1998年12月。ひとりインドネシアに赴任した稔は嵐のような変革に巻き込まれた。経済危機、暴動、政権交代、東ティモール独立運動・・・そして彼は取材中に東ティモールの首都ディリ郊外で射殺された。菜々美が大学2年生のときである。
 あれから8年、菜々美は2006年に発生した中部ジャワ地震の取材でインドネシアを訪れる。
 そして、立ち寄った支局でかつての外報部のエース記者だった稔の痕跡を見つけてしまうのだ。
 それは、中部ジャワのジョグジャカルタにあるプランバナン寺院、別名ロロ・ジョングラン寺院で恋人と思われる女性と撮った写真だった。伝承では、かつてこの地を治めていた王の娘であるロロ・ジョングランは、父を殺した敵の将軍の求愛を断り石にされた。以来、ここを恋人同士で訪れると、悲劇の姫であるロロ・ジョングランの嫉妬によって必ず破局するという。なぜ、稔はここに女性を伴って訪れたのだろうか?
 さらに、菜々美は写真の女性を知っていた。地震の被災者を取材しているときにあったNGOの日本人女性だった。名前を歳田礼子という看護師の資格を持った見栄えの良いこの女性は、「自分の自己満足のために偽善者となって支援活動をしている」と皮肉を込めてあからさまに言い、記者やライターを嫌った。
 8年前の従兄の死にはどのような謎があったのか。菜々美はその死の真相を追求する決心を固める。
 そこには、日本の開発援助の裏面史ともいうべき、国際関係の利権が絡んだ闇が広がっていた・・・

 日本のボランティアの歴史は1965年の官製ボランティア、青年海外協力隊の設立に遡るそうです。
 参加した若者たちは純真な気持ちだったでしょうが、実はODAを含めた「経済侵略の先遣隊」という見方もあったようです。日本において民間のボランティアが設立されるのは1970年代後半で、やがてこれらNGOは海外の実情を日本国内の社会にはっきり伝える存在となっていきます。その中にはODAの資金は軍事独裁政権を支え、一部は賄賂として特権階級に流れているというスッパ抜きもありました。
 「ODA事業を日本企業が受注して利益をだすのは倫理に反する」なんて私も聞いた覚えがあります。久米宏の番組でしょうかね、おそらく。1990年代、日本は円高の影響もあって世界一のODA供与国になり、NGOへの資金協力も始めるようになりました。阪神・淡路大震災をきっかけに国民のボランティア意識も高まり、1998年にはNPO法案が施行されました。ところが、21世紀に入ると、長引く不況でODA不要論もささやかれるようになりました。「こっちにも金がないのになんで助けてやらなあかんの?」という感じですな。1991年以来10年連続世界一だった日本のODA拠出額は減り続け、2007年には世界第5位にまで落ち、現在も減り続けています。

 時代変わればなんとやら、と云いますか・・・
 最近、首相がアフリカの援助を本気でやる、と息巻いていましたよね。
 ずいぶん前は日本のODA事業を日本のゼネコンが受注するのはどうなんだ?と思っていましたが、じゃあ韓国や中国の企業が受注すれば、はたしてどう思いますか???日本のお金で中国の企業が工事をして現地にありがたがられるんですよ。納得行かないでしょ。日本のゼネコンが受注して工事すればいいじゃないですか。
 本作を読んで、いったいあの頃の私たちは何を考えていたのか、思いあがりも甚だしい馬鹿だったと思うのです。日本が一番だという驕りがあったのですよ、きっと。後ろからの足音が聞こえなかったのですね。
 
 さて、本作の小説としての評価ですが、あとがきで高杉良が褒めちぎるほどのものではありません。
 まず、作者の専門であるODAの闇含めた国際経済に関する部分と、稔の死にまつわるミステリーの部分が融合しきれていません。話がうますぎるというか、東ティモールで偶然に義理の姉弟が出会って、しかも恋に落ちるなんてストーリーも甚だ陳腐だと云わざるをえません。
 もっと、こう、ODAを芯に据えて、余計なヒューマンストーリーは抜きで、硬派にサスペンス風に堅苦しくやっていればと思いました。金と恋の話は水と油だと思いますよ。次作の『利権鉱脈』には期待しています。

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