「夢幻花」東野圭吾

 秋山梨乃は21歳の大学生。オリンピックを目指していた元水泳選手である。
 たった3ヶ月の間に、従兄の鳥井尚人と祖父の秋山周治が亡くなった。
 人気アマチュアバンドのメンバーでプロを目指していた尚人は、変わったところもなく、遺書もないまま飛び降り自殺し、ひとり暮らしで花の栽培を心の支えにしていた祖父の周治は、梨乃が電話で来訪を告げた直後に自宅で何者かに殺害された。
 祖父の育てた花をブログにしていた梨乃が、祖父が亡くなる直前に育てていて殺害されたときに盗まれた名称不明の黄色い花をアップしたとたん、ある人物から画像の削除と情報提供、面会を求められる。男の名は蒲生要介、37歳。世界中の植物学の情報を収集している会社の代表であるとのことだった。要介は、祖父が殺害された状況を詳しく知りたがった。
 蒲生蒼太は24歳、東京出身、関西の大学で原子力工学を研究している大学院生。
 3年前に亡くなった父とも、10歳以上歳の離れた兄の要介とも折り合いが悪く、実家から離れた関西の大学を選んだ蒼太だったが、原子力工学は口にだすのも憚られるほどタブーとなってしまい、進路に迷っている。
 蒼太は帰省した折、自宅の前でスタイル抜群の若い女の子を見かける。彼女は秋山梨乃だった。
 兄の要介に会いに来たらしい梨乃の話を聞いて、蒼太はびっくりする。兄の要介は警察庁の役人である。植物関係の会社の話なんて聞いたことがなかった。兄を問い詰めても「おまえには関係ない」とけんもほろろである。
 秋山周治の殺人事件には、どうやら『謎の黄色い花』が関わり、その周辺には警察庁のキャリアも動く深い闇が広がっているらしい。
 梨乃の携帯に残っていたその黄色い花を見て、蒼太はアサガオではないか、と思う。
 かつて江戸時代には存在したが今は絶滅したという、幻の黄色いアサガオ。
 秋山周治の前職は、自然界には存在しない新種の花の開発だったという。
 彼は何を見つけ、何のために殺されたのか。事件の真相は花にある。
 そして2人は、黄色いアサガオが禁断の花「ムゲンバナ」と呼ばれ忌避されていたことを知った。
 一生懸命自分が信じた道を進んできたはずなのに、いつのまにか迷子になっている蒼太と梨乃の追う謎は、やがて10年前の蒼太の短い恋に繋がり、そして東京オリンピック間近の1962年に起きた忌まわしい「MM事件」へと50年の時を超えて翻っていくのだが――

 本作を読んでまずみんなするだろうこと、それは“黄色いアサガオ 江戸時代 存在”などのワードで検索にかけることじゃないですか。その結果を見て驚くと同時に不思議な気持ちにもなりました。なんで絶滅したんでしょ?
 本作を読んで、なるほどなあと。
 オチをそこにもっていくとは思いませんでした。江戸時代には存在していたという黄色いアサガオ。今はありません。
 花の色というのは色素で決まります。アサガオの色は青、紫、暗い赤、明るい赤、これらの組み合わせによります。基本的に黄色い色素はありません。稀に色素に関わる遺伝子に欠陥が生じた白いアサガオに黄色っぽいクリーム色の花弁が見られる時がありますが、濃い黄色にはなりません。濃い黄色を実現させるには、カロチノイド系の色素が不可欠なのだそうです。ですから、昔はこの色素を持つ遺伝子が存在した、ということになります。それがどうして絶滅してしまったのか不明だそうです、ミステリアスですなぁ。
 そうしたすこぶる興味を惹かれる実話を土台として、蒼太と伊庭孝美の儚い恋の切なさという東野圭吾得意のノスタルジーも描かれているのですが、少しバタバタと展開が忙しすぎたかな、と。まだまだ腰を据えてじっくりいい作品を書き上げるという環境にはないようですね、仕方ないですが。でもさすがと思える部分もありました。よって、可。

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この記事へのコメント

- 藍色 - 2014年05月08日 15:52:23

作品によって当たり外れがあるというのが定説。
でも、このところずっと当たりのような気がしますね。
話の展開など、十分楽しく読めました。次も期待しています。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

Re - 焼酎太郎 - 2014年05月08日 18:25:57

そうですか?
私にとってはハズレまくりのような気が・・・

コメントありがとうございました☆

トラックバック

粋な提案 - 2014年05月08日 15:40

「夢幻花」東野圭吾

「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない」と著者自らが語る会心作!黄色いアサガオだけは追いかけるな―。この世に存在しないはずの花をめぐり、驚愕の真相が明らかになる長編ミステリ。 著者のコメント 「アサガオに黄色い花はありません。しかし江戸時代には存在したのです。ではなぜ今は存在しないのか。 人工的によみがえらせることは不可能なのか。 そのように考えていくと、徐々にミステリの香りが立...

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