「遠野物語remix」柳田國男×京極夏彦

 民俗学者の柳田國男が明治43年に著した『遠野物語』を、京極夏彦が現代語に意訳したものです。
 remixというタイトルが示す通り、アレンジしたという言い方もできるでしょう。
 私は原典を読んでいないので、どこがどういう風に京極流に意訳されているのかわからないのですが、巻末に獅子踊りの歌詞がそのまま記されているのを見る限り、原語は平易なようでいてクセの強いものだと想像できます。
 山人、山神、河童、山姥、妖怪、マヨイガなど馴染みのあるちょっと不思議な物語が約120篇ほど収められていますが、話の内容はともかく、文章は読みやすいと思いますよ。また、それぞれの話には番号が振られていますが、バラバラなのは京極夏彦が順序立てて並び替えたのでしょうね。
 「願わくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」と柳田國男が書いてあるということも、これを読むまで知りませんでした。意味深だと思います。確かに私はひとつの怪談で戦慄しましたが、それは後述します。

 物語の舞台は、遠野郷と云われる地域で、現在の岩手県遠野市周辺です。「じぇじぇじぇ」の北三陸はもっと北ね。
 元々は、アイヌの言葉でトーは湖という意味らしいです。
 明治を迎えるまで仙台藩と南部藩の藩境にある行政都市であり、奥州交易の要衝でした。
 表紙と裏の見返しに、それぞれ明治期の遠野郷と現代の遠野市周辺の地図が載っていますが、周囲は深く険しい山でありながら、遠野町は山奥にあるとは思えない繁華な町であり、柳田國男曰く山中異界であったそうです。
 
 柳田國男は聞いて書くだけなので、話し手は遠野郷の人々ということになります。どこか聞き覚えのある話もあります。
 人に似た姿形でありながら人ではない山男、山女、大坊主やら、山神、神隠し。遠野郷の民家では、毎年大勢の娘や子供が攫われるそうです。攫うのは人ではなく攫われるのは女が多いそうで、攫われた女の話によると、子供を作らされて、産んでも産んでも夫はみな子を喰い尽くしてしまうのだそうです。どうして逃げれないのかというと、この“夫”の種族が異様に背が高く瞳の色が少しばかり凄いから、というのですが、これはいったい何者でしょう?
 耶蘇教が秘密裏に信仰されており、遠野郷でも信心して磔になった人があるというお話もあるので、どこかの外国人だったという可能性もあるだろうし、山賊だったかもしれないし、本当に物の怪だったかもしれません。
 不思議なのは、これだけ山でたくさん怖い目にあったという話が多いのに、みんなどんどん山に入っていることですね。危険という認識がなかったのか、山に入らなければ生活が立ち行かなかったのか・・・
 河童の話で、女が河童の子を産んだというものがありました。気味悪い子が生まれた、と。これは無頭症だったかもしれません。昔の人ならバケモノが生まれた、河童の子だと思い込んでも不思議はないでしょう。
 その他にも、狼やサルの経立(ふったき)、座敷童衆(ざしきわらし)という名の一種の神が住んでいる家、山中にある不思議な家で、行き合った人に幸運を授けるために現れるマヨイガ、などいずれもちょっぴり怖くて不思議なものでした。特に私が感じたのは、生き方の良し悪しに関係なく、山で不可思議な経験をして死んでしまったりすること。これは、どれだけ頑張って生きても運が悪けりゃ死んじゃうんだよという皮肉めいた教訓なのでしょうか。雪深い遠野の環境は厳しかったことでしょう。人々は物の怪や神様を語ることで、運命や自然に対する諦めの精神を子孫に伝えたのかもしれません。

 私が戦慄したというか、一番怖かったのは、71ページの話。
 あるとき、屋敷で見慣れない男を見た。女房のもとに忍び込んだ間男かと思って後を追うと、玄関の戸は三寸しか開いていないのにその隙間からふっと男は中に掻き消えた。そんなバカなと思って周りを見渡しても、影も形もない。少し怖くなって、ふとした拍子に上を向くと、玄関の上に男がぴたりと張り付いて、こっちを見下ろしていた、という話です。
 これ、何が怖いかって、人間は真上が弱点というか見えない構造になっているんですよ。
 シャンプーしていて、時々ふと気配を感じるときありませんか。あのとき、だいたい後ろを振り向いて「だろ、何もいるはずないよな」って再びジャブジャブしますが、そのとき真上を向いたら何か見えるかもしれません。
 天井に何かが張り付いているかもしれません。
 コレデドンドハレ。


 
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ケノーベル エージェント - 2013年07月14日 08:47

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