「七つの海を照らす星」七河迦南

 小さな岬によって区切られた七つの入江、このささやかな小さい海を見下ろす山の上に立つ『七海学園』。
 しかし七海学園は学園といっても学校ではない。児童福祉法に基づく児童養護施設である。
 親の死亡や離婚、虐待など、家庭で暮らせない事情のある、2歳から高校3年生までの子供が生活している。
 主人公の北沢春菜は、24歳、七海学園に勤めて2年目の保育士。1年新人、2年中堅、3年ベテラン、4年退職、と言われるほどの厳しい職場である児童養護施設で、まだ2年目とはいえ甘えたことは言っていられない。学園を取り巻く様々な問題や謎に体当たりで取り組んでいく。
 そんな春菜が信頼する相談相手は、大学の友人である野中佳音と、もうひとりは児童福祉司の海王さん。
 児童福祉司は児童相談所に勤務する県の職員だが、保護者の事情に合わせて面接や家庭訪問をするため、多くの公務員と違って夜間休日の出勤や緊急対応も多く、児童虐待のケースなどでは保護した子どもの親から激しい攻撃を受け、保護しなければ地域の関係者から責められるという、責任ばかり重くて給料は同じの過酷な仕事である。
 児童養護施設と児相(児童相談所)は切っても切れない関係だ。その子どもに入所が必要かどうか、どこの施設が適当であるかは、県の行政機関である児相が判断し、入所するどの子にも担当する児童福祉司が付いている。
 海王は、元は学校の先生をしていて、それから仕事を転々とし、児童相談所で20年近くも児童福祉司をしている。
 「いやあ、あの子は本当にいい子ですねえ」が口癖の海王は、聞き上手でどんな子どもとも心から接することが出来る。そして春菜の持ち込んだ謎もすぐに見抜いてしまうばかりではなく、その後にどうしたらいいのか、そこまで考えている。大きな人である。

 七海学園を巡る七つの物語で構成された連作ミステリー。2008年の第18回鮎川哲也賞受賞作です。
 やっと文庫本になりました。作者の七河迦南は何者ともわからぬ?覆面作家であると言われています。
 名前のNanakawa kananはローマ字の回文だし、男性か女性かも不明であるとか。私の勘では男だと思いますが。
 七つの物語ですが、最後の七つ目はそれまでの六つの物語に仕込まれた伏線のネタバレとなっています。
 七海学園には七不思議(六不思議)があって、それぞれ「蘇った先輩」「捕まえられない廃屋の幽霊」「血文字の文子」「非常階段で消えた幻の新入生」「開かずの門の浮姫」「トンネルで囁く暗闇の天使」(亜紀談)となっており、連作の短編の中に織り込めれているのですが、けっして基幹というわけではありません。それぞれのお話には、独自のミステリーがあったりします。たとえば第2話の「滅びの指輪」のオチは傑作でした。
 ただ難癖ですが、児童福祉法などの難解なシステムが頻繁に語られる割には、それぞれのミステリーはふんわりとした優しいものであり、なにかこう、作品の一貫した雰囲気というのが感じられません。軽いのか重いのか、ということですね。ま、いいか。続編があるのでとりあえずそっちも読んでから考えてみます。

「今は亡き星の光も」
 一昨年に隣県の施設から措置変更されて入ってきた中二の葉子は、学園のルールを守らず職員の言うことも聞かない扱いにくい子どもで、皆が手を焼いている。子どもたちの噂では、葉子には先の施設で一緒だった先輩が取り憑いているという。そして本人もその話を否定するわけではなかった。自分の病気や弱さと闘い、強くありたいと願い続けた女の子の物語。
「滅びの指輪」
 18歳の最上級生である浅田優姫には、戸籍がなかった。彼女は、春菜が職員になってすぐ担当した子どもであり、成績優秀、生活態度もまったく問題はない。専門学校への進学を希望する優姫の銀行口座に突然振り込まれた謎の大金の理由とは?ラストよし読後の余韻も爽やかな良作。現在は、以前に戸籍がなくては唯一出来なかった正式の婚姻も認められるようになってきているようです。
「血文字の短冊」
 春菜が大学の友人である野中佳音と七海でだべっているシーンからスタート。中1の沙羅は週末に迎えに来てくれる模範的な父親がいる。しかしその父に再婚の話が持ち上がり、再婚相手の女性となかなか打ち解けることが出来ない沙羅。そしてある日、父が電話で「私は沙羅が嫌いだ」と言っているのを聞いてしまうのだが・・・
「夏期転住」
 昔、七海学園は夏期に隣のN県の山荘で合宿をしていた。12年前の8月、学園OBである俊樹は、夏期転住の山荘で小松崎直という女の子と出会ったという。同じOBである美香との結婚を控えてその出来事が忘れられない俊樹。
 遠い夏の日、幻の転入生、少女は行き止まりの非常階段で姿を消し、その記憶はただ一人、少年の胸にしか残されていない。
「裏庭」
 高3の塔ノ沢加奈子は、学園の裏庭にある“開かずの門”から入ってくる少女を見たという。
 同じように空想と現実が入り交じった妙な話を学園中にまき散らしている中2の亜紀も、開かずの門の上から覗く白い手を見たという。この門の閂はけっして手の届かない高い位置にあるというのに・・・
 県内十数箇所ある児童養護施設対抗のイベントが、学園間の恋愛沙汰で中止になるかもしれないという問題と同時進行する。
「暗闇の天使」
 女の子6人で通るといけないトンネルがある。暗闇の中からいないはずの7人目の女の子が囁きかけてくるのだ。気弱な小6の舞は、トンネルを通行中、地震に遭い、天使の声を聞いたという。そればかりではなく、彼女はある日、天使そのものの姿をトンネルで見た。謎を解決するため子どもたちと6人でトンネルに入った春菜は、いるはずのない少女の囁き声を聞いてしまう。
「七つの海を照らす星」
 この半年の出来事を、春菜と佳音、それに海王を含めて振り返る。ところが・・・佳音と海王は初対面ではなかったのだ!?不思議なことは不思議なまま残しておくとされたエピソードや、春菜の間違った推理などが正され、すべてが統べられる驚愕の真相が明らかになる。

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