「零戦 老兵の回想」原田要

 私は零戦パイロットだった誇りを戦後も忘れたことはありませんでした。
 零戦という素晴らしい戦闘機に乗ることが出来、交戦国の兵士から怖れられる程の操縦技術を我々パイロットが身に付けていたことが誇りでした。何よりもその零戦を駆って、自分の儲けや欲得のためではなく、国のために自分の命を捧げて全身全霊を打ち込んで純粋に戦ったという満足感がありました。
 亡くなった戦友たちも皆平和を望んでいました。彼らは家族と故郷の安泰を願って、死にたくなかったけれど、二十歳前後の青春を捧げて逝ったのです。今の平和の元には、彼らの「日本を守る!」という強い想いがあることを、皆さんはよく心に刻んで、この一見何気ない日常が実は涙がでる程に有難いことに気付いて貰えたらと思います。


 原田要さんは、本書刊行時点で95歳ということなので、今現在97歳ですね。大正5年長野県生まれです。
 去年だったかなあ、テレビのミッドウェー海戦の特集でインタビューを拝見しました。第2航空戦隊空母『蒼龍』の戦闘機パイロットで小隊長ですから、もう泣く子も黙るバリバリのゼロファイター・パイロットです。昭和17年6月5日の運命のミッドウェーでは、一番最初に上空哨戒に上がり、敵の第一波、第二波の雷撃機50機に対して奮戦しました。帰したのは1機だけだそうです。そして蒼龍に着艦すると損傷がひどいために機体を捨てられ、新しい機体で飛び立ってまた戦い、蒼龍が大破したために飛龍に降りるとまた被弾のため零戦を捨てられ、友永丈市大尉率いる飛龍艦攻隊を見送った後、「原田、1機上がれるから飛べ!」と言われて三たび艦隊上空に飛び立つと、その瞬間、最後に残った飛龍が大破炎上したそうです。そのとき「これは日本は負けるかもしれない」と思ったと生々しく書かれています。
 このときは直掩の指揮官がおらず、零戦の無線システムが貧弱なために、雷撃機より遅れてきた敵の急降下爆撃機に気づきませんでした。燃料が切れるまで飛び、海上に不時着しますが、駆逐艦に救助されるまで4時間かかり、死を覚悟したそうです。実際、一緒に浮いていた同僚はピストルで自決したそうです。

 昭和8年に横須賀海兵団に入団した原田要は、当初は駆逐艦「潮」に乗り組んでいました。
 しだいにパイロットを志すようになりますが、当時はまだまだパイロットは狭き門で、危険なので父の許可も得られませんでした。少しでも空に近いということで航空兵器術練習生(整備)になりますが、やはり夢を捨てきれずに承諾書を偽造して操縦練習生の試験に合格します。150人が霞ヶ浦に入隊して卒業するときには26人になっていました。最後には手相と骨相で選抜したというんだから、運頼みみたいなところもありますが、このときの軍用機パイロットというのは、今でいうオリンピックの強化指定選手みたいなもんですよ。なりたいからといってなれるものではありません。実用機教育では雷撃王・村田重治少佐の教育を受けたという原田は、第35期操縦練習生をトップの成績で卒業、恩賜の銀時計を拝領しています。
 昭和12年10月に上海の12空に配属。南京攻略戦に参加した経験から、南京大虐殺はありえない、と明言しています。この前日に、アメリカの砲艦「パネー号」を誤爆。パネー号事件は日本が莫大な慰謝料をアメリカに支払って決着しましたが、直接のお咎めはなかったとはいえ(指揮官はど叱られていたらしい笑)、原田もそれが理由で内地に転属となりました。戦後、アメリカの取材を受けて原田は「パネー号は星条旗を掲げていなかったことは間違いない。私は戦闘機パイロットだから近くから見ている」と証言しました。
 内地では教官として大村、筑波、百里原、大分の航空隊を回って搭乗員の養成に心血を注ぎました。
 昭和16年9月、空母『蒼龍』に配属。訓練の基地で初めて零戦を見ました。
 同年兵である撃墜王・坂井三郎とは佐伯基地で一緒になり、よく空戦訓練をしたそうです。他にも岩本徹三や西澤廣義、角田和男の名前も本書には登場するので、マニアの方には興味深いかと思います。
 神風特攻の敷島隊・関行男大尉の技術指導教官もしていますし。
 真珠湾攻撃当日は、上空直掩任務でした。攻撃参加できず悔しくて眠れなかったそうです。しかし、敵の空母がいなかったと聞いて、これは後でどえらいことになるとさすが搭乗員たちは成功の裏で心配していたそうです。
 帰りのウェーキ島攻略作戦では、海軍の至宝と言われた水平爆撃の名人・金井昇機を守れず墜とされてしまい、零戦隊の指揮官だった藤田 怡与蔵中尉が蒼龍の柳本艦長からこっぴどく叱られているのを見たと書かれています。
 このあたりは同じニ航戦なので、最近読んだ「予科練一代」「奇蹟の雷撃隊」「空母雷撃隊」(カテゴリー海軍戦史・戦記参照)の雷撃三部作にだぶる内容ですし、見る角度が違うので大変参考になりました。
 しかも、今度は飛鷹に乗り込んだ原田要が墜とされたのは、隼鷹の艦攻隊が壊滅した昭和17年10月17日なんですよ。雷撃三部作で語られた運命のガダルカナル攻撃の日、原田は零戦で艦攻隊の5百メートル上空を掩護していました。零戦は飛鷹と隼鷹から9機ずつ。原田はしんがりに近い第3小隊長でした。
 いきなり雲の影に潜んでいた十数機のグラマンが急降下、一瞬のうちに前方2機の艦攻が火だるまになりました。反転してきた1機のグラマンに単機で向かっていった原田は正面から敵と打ち合い、相討ちになりました。
 このときのグラマンのパイロットとは戦後、偶然に出会いお互いに大変驚いたそうです。彼はジョー・フォスといい、アメリカ海兵隊の撃墜王となりましたが、このとき機体には原田の機銃弾で250もの穴が開いたそうです。
 一方の原田は、左腕に13ミリ機銃の攻撃による破片を受け、ヤシ林に不時着。
 近くに不時着した隼鷹艦攻隊の佐藤寿雄操縦員と一緒に海軍設営隊に救助されますが、左腕の傷にはウジが沸き、そのうえマラリアとデング熱に罹り、死線を彷徨いました。
 しかし、さすがは貴重な操縦員です、大事にされてますから優先的に救助の船に乗せられました。
 結局、このときの不時着のケガが元で、原田が最前線に戻ることはありませんでした。同じく助かった佐藤寿雄は特攻で逝ったそうです。秋水の搭乗員養成をしていた原田は終戦は千歳空で迎えました。その日、徹底抗戦を叫んだ厚木航空隊から若い予備士官が零戦で飛んできて煽ったそうですが、逆に説得したそうです。
 
 ミッドウェー上空で激闘を繰り広げ、海上に不時着したときの時間のまま止まってしまった原田の腕時計は、同じくミッドウェー海戦時に被っていた飛行帽と共に、2007年、アメリカ国立太平洋博物館に寄贈されました。


 
 
 
 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

- sakurai ryo - 2013年12月17日 23:37:06

自分もこの本を読んで感動しました。

原田氏の『わが誇りの零戦』という本(続編?)が出ています。

動画もあります。


http://www.youtube.com/watch?v=SNRwqy0DE5A

Re - 焼酎太郎 - 2013年12月18日 13:48:23

sakurai ryo様
拙ブログにお越しいただき、ありがとうございます。

原田要氏は、数少ない歴戦の海軍戦闘機パイロットの生き残りであり、
群がる敵の火線を目の当たりにしたその貴重な証言は、後世に永らく伝えていくべきものでしょう。

私としては、米軍海兵隊の撃墜王相手に劣位の反航戦から機銃弾を撃ち込み続けた、
昭和17年10月のガダルカナル上空戦が、強く印象に残っています。

また、ご紹介いただいた動画を観てみます。
コメントありがとうございました☆

原田要さんに栄光あれっ。 - ましろ - 2015年03月01日 04:00:20

いやあ…偉大な方で本当の国宝ですよ!原田要さんは何の欲望もなく、ただ我々子孫のために命を投げ出して戦われたサムライです。本人は優しくて謙虚な典型的な日本人ですけど当時の零戦パイロットは1500人の中から数名が選ばれました。しかも空母の蒼竜搭乗員といえば本物の超一流ですからね。宇宙飛行士みたいなものなんだから…お年を召されても優しくて人柄が出てますし本物の超一流の方ですよ。我々日本人はこんな偉大な方々の奮迅の働きに感謝して平和を噛み締めないといけませんよ。原田要さんも平和を何より大切に考えておられますし、陛下も何より平和を大切に考えておられます。我々も平和を本気で考えて国に感謝して少しでも貢献しましょうよ。釈迦の仰る利他の気持ちを少しは持ちたいものです。

Re - 焼酎太郎 - 2015年03月02日 09:06:12

ましろ様
弊ブログにお越しいただき、誠にありがとうございます。
私は、日本を滅亡の縁にまで追い込んだかの戦争について、勉強している途中です。
戦争は悪です。してよい戦争はありません。
しかしながら、戦った個人の方の戦記には、国のために戦った人間としての光があります。
無駄になくなった命はないと思っています。

コメントありがとうございました☆

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