「幸村去影」津本陽

 クライマックスである大阪夏の陣の戦闘シーンが圧巻。
 幸村率いる西軍大坂方の寡兵が死力を揮って東軍を圧倒し、家康旗本本陣へ斬り込む様はまるで映画を観ているかのような迫力がありました。凄かったですわ。
 幸村だけでなく、相対した伊達政宗や松平忠直などの東軍の生々しき負け様も臨場感に華を添えました。
 最初の読み始めはなんとなく盛り上がりに欠け、考えてみればそれが当たり前なのですが、登場する戦国武将たちが方言で喋るので読みにくく、面白いとは思えなかったのですが、すべてはラストの戦闘シーンの前振りであったと思えば納得です。幸村や家康が標準語で喋るわけないですものね。~だらとか~ずらとか~だべが本当なのです。これも慣れれば問題ありません。逆にリアリティが増してのめり込みました。

 主人公は、戦国最強の武将、真田幸村左衛門佐。
 徳川家に敗北のみじめな経験を2度もさせた、“家康の天敵”元信濃上田城主真田昌幸の次男です。
 一度目は、天正13年(1585)の上田合戦。騙されて城の中に誘い込まれ、わずかな時のあいだに、真田勢の倍以上である7千余の徳川勢は半数が死傷し、歯の根もあわないほど恐怖して退いた、と云われています。
 二度目は、有名ですよね、関が原の合戦の前に徳川秀忠軍が上田城で真田軍に惨敗し、天王山に間に合いませんでした。真田昌幸は戦の天賦の才があり、幸村も父の影響を多分に受けていたと思われます。
 また、ひょっとしたら昌幸の家康嫌いの感情までも受け継いでいたのかもしれません。
 関ヶ原以後、昌幸・幸村父子は紀州高野山麓の九度山村へ流罪蟄居となります。
 家康もまたこの真田親子が気色悪かったのでしょうか、当初の目論見通り短期間での赦免は叶わず、この間に昌幸は亡くなりました。そして48歳になった幸村もまた、わびしい生活に身も心も腐りかかっているときに、大坂城からの豊臣秀頼の使者を迎えたのです。九度山村に入って14年が経っていました。

 慶長19年(1614)の大阪冬の陣。関ヶ原から14年。
 家康に没収された西軍諸大名の領地は622万石に及び、その後取り潰された大名は36家にもなります。
 まもなく74歳になり、自分の死後の徳川家が心配な家康は最後の仕上げをしようとしていました。
 いまだ信望の高い大坂65万石・豊臣家を滅亡させようというのです。
 徳川軍30万に対し、大坂方は10万。しかも、大坂城に集まったのは、日雇い人夫のような者ばかりでむさくるしいかぎりであると世上で噂されていました。しかも1万人は徳川家に内通していたとも書かれています。
 毛利勝永、長宗我部盛親、明石全登、後藤又兵衛とともに大坂五人衆と呼ばれ、その中でも最も信望が高かったのが真田幸村です。
 幸村は、大坂城の一箇所だけ弱い場所に“真田丸”という出城を築き、7千人を率いて勇戦しました。
 真田丸は百間(約180メートル)四方を囲う塀、柵には一軒につき銃眼6箇所を設け、鉄砲三挺を備えていました。合計1200挺になります。状況に応じ、兵が左右に移動して射撃できるよう、塀の中途に幅七尺の武者走りと呼ぶ通路がありました。
 赤ビロード地に白六連銭が目立つ真田の旌旗が翻り、真田丸は東軍の兵士を万人以上屠ったと云われています。
 
 冬の陣で思わぬ損害を出した東軍は、大坂方と講和しました。
 しかし家康は世情に甘い城方を騙し、大坂城の惣構え、二の丸、三の丸を取り壊し、総堀を埋めました。こうなると、いかに難攻不落の大坂城といえど裸城です。籠城しても持ちません、戦うなら野戦しかないのです。
 こうして大阪夏の陣は、野戦決戦を覚悟して始まりました。
 東軍は16万。対する大坂方は、冬の陣では盛り上がりましたが、うらぶれた生活はつづけたくない、侍として華々しい働きをして最期を迎えたいと思っても、敗北は疑いをいれない(絶対に大坂が負ける)という形勢があきらかになってくると腰が浮き上がって逃げる牢人が相次ぎました。最終、5万ほどだったようです。
 幸村の率いる兵も7千いたのが3千になりました。しかし、この3千、5万はすべて死兵です。
 もうええやんけ、ここで死のう、家康の首をとるまでやったろやんけ、という心境にどうやったらなれるのでしょうか。幸村もすごいですけど、彼や又兵衛に最後まで付き合った名も無き牢人たちもまた凄い、本作の主役は彼らじゃないかとも思えるくらいの戦いぶりでした。
 幸村に痛い目に遭わされた伊達政宗は奥羽に覇をとなえた猛将ですが、二度と真田隊とは合戦をしないと心に決めたそうです。その他にもこのときの幸村の鬼神のごとき奮戦ぶりは島津家久をはじめ全国の諸将が書き残しているのです。そこには本陣に切り込まれて逃げた徳川の旗本隊への侮蔑も含まれているようですが・・・
 赤備えですから、真っ赤の真田隊を見たら怖かったでしょうねえ。関ヶ原から14年も戦がなく、代替わりをして戦いを知らない兵士の方が多かったでしょうから。
 切羽詰まった家康は二度ほど腹を切ろうとしたと書かれています。それを止めようとした武将も結局は逃げた(笑)
 本当に、真田幸村は戦国一強かったのかもしれませんねえ。

 「おのれ、三河の狸めが、息の根とめて、あの世へゆかせようぞ。真田の武名を後世に轟かせてくれる!」
 
 
 
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