「よだかの片想い」島本理生

 顔に生まれつきアザがある女の子、アイコ。
 彼女の左目の下から頬にかけて青く広がる大きなアザ。
 人は彼女の顔かたちよりもまずアザに気を取られる。
 おしゃれすることもやめ、ひっそりとうつむきがちに送った学校生活。
 物理部で心を癒し、やがて彼女は国立大学の理学部物理学科に合格する。
 それでも4年間を他の子たちのように恋や遊びに使うことなく、勉強ばかりしていた。
 大学院に進み、自分はこのまま孵化せずに一生研究室にいるのかもしれないと思っていた。
 転機は出版社に勤める中学校時代の友人がもたらした。
 顔にアザやケガのある人たちのルポルタージュ「顔が私に教えてくれたこと」にアイコの記事が載り、表紙のモデルになったのだ。本は話題になり、やがて映画に。
 そしてアイコは対談インタビューで映画監督の飛坂に出会う。
 飛坂はアザを経由せずに直接アイコの目を見た。
 飛坂の話は緊張しているアイコを笑わせ、和ませた。大半の男の人はアイコの自信を奪ったり、気を遣いすぎて疲れるだけの存在だった。この人だったら、“私の左側”を否定しないんじゃないか。
 飲み会で飛坂は、アザを見られたくないため席を右にずれようか迷うアイコの左にさりげなく座った。
 初めて二人で会ったときに、アイコはアンティークな手鏡をプレゼントされた。
 「私、鏡、嫌いです」「そうだと思った」高価で美しい手鏡は、アイコの意固地な心の扉を開けた。
 アイコは恋をした。
 偶然が重なっただけで、本来ならなんの接点もなく住む世界もまるで違う人に。
 「先に言っておく。僕がアイコさんを幸せにしてあげることはできないと思う」
 「大丈夫、私、頑丈ですから。あなたが好きです」

 最後のほうで、アイコがアザをレーザー治療で治そうか悩むところがあるんです。
 でも彼女は、アザが顔からなくなったと仮定して、新しく出会う人たちをどんな目で見ればいいのだろう、と考えるんです。アイコは、物心ついて自分の顔のアザを自分で意識しだしたときからずっと、アザを通して他人を見ていたのです。なぜなら、他人がアイコを見る時に最初に目が行くのはアザですからね。アイコのアザを認識してから他人は行動を起こす。すなわち、アイコはアザを通してその他人の人間性を見ていた、ということです。
 だから、レーザーでアザがなくなったら、新しく出会う人間が、もしも自分にアザがあったら近づいてきただろうか、自分に優しくしただろうかと考えてしまうのです。
 このへんは、さすが島本理生、話のもって行き方がうまいと思いました。
 
 よだか、というのは宮沢賢治の『よだかの星』からきています。みんなに嫌われる不細工な鳥のことです。
 実際、どうですか。最近はレーザーでほとんど治るらしいですが、同級生にもいましたね、私の場合は。
 それにアイコの研究室のミュウ先輩みたいに、火傷や事故で後天的に外見が変わってしまう場合もあります。
 「人を外見で判断するな」は言い換えれば「人は外見で判断するものだ」ということです。
 ビジネスならともかく、恋愛となると、外見のハンディは大きいものがありますよね。
 でもね、だからこそ好きになってくれたらホンモノだ、とも云えるわけでしょう?
 容姿端麗で百点満点スタートの恋愛は減点していくしかありませんよ。
 どんな美人でも、鼻毛が風にそよいでいたことは絶対にありますから。知らずに鼻からちょうちんが出てたり。
 外見が美しいからこそ、そういうなんでもないことが取り返しのつかないダメージになったりするものです。
 結局、大したことないんですよ、外見なんて。その人らしさが直結していればね。真摯に生きていれば外見は幸せの結実に関係ありません。人間が嫌われるのは性格です。

 片想いほど幸せな恋愛はないとも云います。
 「あなたを好きになって本当に良かった」アイコのこのセリフを読んだとき、私もこの本を読んで本当に良かったと思いました。アイコは絶対に幸せになりますよ。
 またヒラノトシユキさんのカバーイラスト、アイコの顔だと思いますが、とても優しい雰囲気が醸しだされていて素敵でした。いい本だったと思います。
 
 

 
 
 
 
関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示