「たんぽぽ娘」ロバート・F・ヤング

 河出書房の奇想コレクションという海外SFの短編を集めたシリーズの一冊。
 作者のロバート・F・ヤングは、1915年ニューヨーク生まれ、1986年に死去。
 太平洋戦争に従軍しており、終戦後の日本にも憲兵として進駐していた過去をもつ人で、作品にもそのへんの影響が感じられます。宇宙戦争で“カミカゼ”と呼ばれる突撃型のミサイルが登場したりとか。普通は無人のミサイルなんですが、なかなか敵艦に当たらないので、主人公が司令官から有人のカミカゼとして任命されて出撃するという作品がありました。
 あとがきで何百というヤングの作品群から本書への選抜を担当した編者は、SFの中のロマンスをこの作家の特徴として挙げていましたが、確かにそれも思いますけど、私は現代のSF作品に遜色しないSFの中の物語性を、この作品群を読む上での歓びとして挙げたいと思います。
 オチというか、“ひねり”がさりげなく効いているので、読後感が非常にいいのですね。
 SFというとっつきにくい物語を読んでいくうちに、いつのまにか知らずにのめり込ませてくれる物語性がある、とまあ、ありきたりに感想を云えばこんなとこでしょうか。

「特別急行がおくれた日」
 夜も昼も不定であり、2つの駅を行き来するだけのOゲージ宇宙。3本のレール、窓を覗きこむでっかい小人、鉄道模型の世界。
「河を下る旅」
 河を筏で下る途中に出会った男女。仮象の世界には彼ら以外の人間はおらず、実は現実の世界では自殺してふたりとも死にかけている。一緒に旅をするうちに新しい人生観が芽生え、生きていることって楽しい!と思ってしまう。
 あわててこの世界から抜けだそうとするのだが・・・どうしてふたりがその場で出会ったのか、その理由を考えると楽しい。ありきたりだが、非常に楽しい作品。
「エミリーと不滅の詩人たち」
 作品を朗唱する詩人そのままのアンドロイドが展示されている博物館。エミリーは彼らが展示されている詩人の間を担当する補助学芸員である。しかし、不人気であるこの展示室は、やがて20世紀のクルマを展示する“クルマの間”へと変えられ、エミリーの愛する詩人たちはあわれガラクタになろうとするのだが・・・
「神風」
 宇宙戦争のカミカゼ。作者は3年半太平洋戦争に従軍した。
「たんぽぽ娘」
 作者の代表作とも云われる表題作は、ノスタルジックで不可思議で、味わいのある作品となっている。
 240年後の23世紀からタイムマシンでやってきたというたんぽぽ色の髪をした美しい少女。
 丘の上で短いひとときを繰り返すうちに主人公の中年男性は、この少女に恋をしてしまう。
 彼女の正体は・・・?私の決められた未来は、彼女のかけがえのない過去。時空観念が素晴らしい。
「荒寥の地より」
 隠居をするため建築中である家の土地から出てきた謎の真鍮の箱。それは、1930年、主人公が子どもだったころに家にやって来た渡りの労働者のものだった・・・彼はどこから来たのか、その謎が明らかになる。
「主従問題」
 1000人の人間が荷物をたたんで急に引っ越してしまった町。彼らが転住した場所とは、突如開いた異次元の扉の向こうだった!?犬のふるまいに徹する先住者たちの、ラストが秀逸。どちらが召使い?
「第一次火星ミッション」
 マリナー4号以前に、ブリキの煙突で火星に旅した3人の少年。夢か現実か、それとも・・・
「失われし時のかたみ」
 過去の遺物が集積された部屋に入った主人公。そこにはこれまでの人生で出会った人たちのミニチュアの人形や、過去の出来事が聞けるジュークボックスがあった。最後に現れた主人公自身のフィギュアのタイが乱れ、シャツがなぜに乱れていたのかその理由がわかると、部屋を去っていく主人公のせいせいした挙措と相まって、味わいのある作品となっている。
「最後の地球人、愛を求めて彷徨す」
 世界中の人間が自覚もないまま、目に見えぬ異星の寄生生物に取り憑かれた世界。極地圏にいたために被害を免れた主人公は、いまやただ一人の地球人である。意味深なラスト。私は、彼もまた取り憑かれてしまったと見ます。
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」
 26世紀からの時間旅行には、エネルギーを要するために、500年、500マイルおきにエレルギー補給機をその時空の人間にわからないように隠してある。しかし、わずかな確率で当時の人間がそれを見つけてしまったなら・・・モチーフは眠れる森の美女。どうして彼女は眠っていたのか、それは時間が止まっていたのだ!?
「スターファインダー」
 惑星アルテア4の軌道上には、宇宙クジラという金属でできた生物の改造物が飛んでいる。
 主人公は、この宇宙クジラの神経節を切除して宇宙船にする職に就いている。彼は以前に宇宙クジラの放射線に侵され一時失明したこともありクジラを毛嫌いしていた。ところがある日、主人公の頭に意味もなく象形文字が浮かんだ。それは神経節が壊されたクジラの断末魔のテレパシーだった。
「ジャンヌの弓」
 SFとファンタジーと冒険、ロマンスそしてハッピーエンド、私好みのエンターテインメント。
 貧しい農家から身を起こして6年前に銀河連邦政府を樹立したオライアダンの野望は宇宙征服だった。
 宗教と政治が一体化した精神現象主義者を駆逐する彼の戦いは勝利目前だった。
 しかし、のどかな惑星シエル・ブルーに突如出現したジャンヌ・ダルクばりの少女に、精強を誇る軍団が惑わされる。妖精の森の乙女と呼ばれるこの少女はジャンヌ・マリーといい、黒馬にまたがり神秘の力をもつ弓を携えていた。少女の謎を突き止めるために拉致を計画したオライアダンは、ひとりの男を派遣する。

 気に入った作品を選ぶなら「河を下る旅」「荒寥の地より」「ジャンヌの弓」「たんぽぽ娘」でしょうか。
 中でも語るべき内容があるのは、やはり「たんぽぽ娘」かなあ。
 後から考えるとものすごく複雑な展開ですよね。
 彼女(アン)にとっては丘の上で彼女が21歳、彼が44歳で出会ったのが初めてだったはずです。
 その後、アンの父が亡くなり、タイムマシンの残量がわずかとなった彼女が選んだのは、最後に一回だけマークと逢うことよりも、それよりも前に飛んでマークの秘書となって結婚することでした。
 当然マークにとっては、アンを初めて見たのは秘書になったとき(おずおずとデスクの前に立っていた)だったということになります。
 だからそれから20年後に、丘の上でアンを見た時に気づきませんでした。
 アンのほうは20年も若い自分がマークに出会うことに、まるで自分自身が他人のように気になっていました。
 あなたの決められた未来は、私にとってのかけがえのない過去。
 鳥肌が立つほどにロマンティックですね。


 
 
 
 
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