「大空の決戦」羽切松雄

 羽切松雄。非常に有名な海軍戦闘機隊のパイロットです。
 この方の武勇伝は数多くありますが、中でも凄いのは、昭和15年10月4日、成都上空で空戦後、敵飛行場に強行着陸し、列線に並んでいる敵機を焼き払ったというもの。
 「これが戦争よ」当時の新聞を賑わしたというこの出来事は、多くの戦記に逸話として語られており、私は何度か読んでいましたから、いつのまにかあのランバ・ラルはこの人がモデルなのではないかと思うようになっていました。
 立派なヒゲを生やしていましたし、顔もいかついですしね。白兵戦も辞さない戦争屋かと思っていました。
 ところが本書を読んでみて、こんなに心優しく、我慢強く、大空の紳士であったのかと印象が全く変わりました。
 自身も2度ほど空戦中に重症を負い、死線を彷徨われているばかりか、大戦中に病気で長女と奥さんを亡くされています。昼に本土空襲にやってくる敵機と空戦し、夜は看病という生活がいかほど辛かったでしょうか。
 また、零戦が登場するはるか以前からの古参の搭乗員であり海軍の中でも有名な存在でありながら、戦歴を誇ることない謙虚な姿勢で、むしろ本書の中でも自分のミスや失敗を多く書いておられました。
 布張り複葉の三式艦戦から紫電改までの、11年近い操縦歴。 
 ソ連製のSB双発爆撃機から地獄猫F6Fヘルキャット、空の要塞B-29までを相手にした空戦歴。
 人間性豊かな海軍戦闘機隊の至宝・羽切松雄が駆け抜けた大空の記録です。

 簡単に、事績。
 羽切松雄は大正2年静岡県田子浦生まれ。
 昭和7年、両親に無断で海軍志願兵に応募、機関兵として重巡「摩耶」に乗組みました。
 2年後、第28期操縦練習生に合格(卒業32名戦16攻16)。
 館山空、大湊空を経て、昭和12年10月新装の空母「蒼龍」の戦闘機隊に配属されます。
 初撃墜は昭和13年6月末?安慶上空で相手はソ連製のSB双発爆撃機。おそらく95式艦戦だと思われます。
 内地帰還後、横須賀空付となり12試艦戦(零戦)の試験飛行も担当。
 無線電話実験飛行では、広島県福山市上空と横須賀との交信が最長距離だったとのこと。
 昭和15年8月、12空付となり(先任搭乗員)、零戦ととも漢口基地へ進出。
 12空では、シェパードのマスコット犬ジローがおり、零戦のコックピットに乗せられ空戦に参加していたそうです!初めて読んだ(;一_一)。南方ではサルを飼っていたパイロットの話はよく読みましたが・・・
 昭和16年7月、筑波空の先任教員に。このときの次席教員は角田和男。
 昭和17年8月再び横空へ、飛曹長、分隊士。J2M1(雷電)の試験飛行、3号爆弾、反跳爆弾のテストを担当。
 本書にはその性能試験の数値なんかも詳しく掲載されています。あんがい理論家ですよね。
 そして昭和18年7月、南方ソロモン最前線のブインを基地とする204空へ。
 このときラバウルで会った玉井浅一中佐は「羽切君、君が横空から出てくるようでは、内地には古い搭乗員はもういないだろうなァ」としんみりと言ったそうです。着任早々、テストパイロットをしていた経験を生かし、南方の気温によって不具合を起こしていた零戦の原因を突き止めました。
 ブインでは昭和18年9月23日にP-40など2機撃墜後被弾、背後から右肩甲骨を撃ち抜かれて病院送りになるまで、出撃回数97回に及ぶ飛行機隊の指揮をとりました。
 戦闘機搭乗員としては再起不能と思われたケガでしたが、懸命のリハビリを重ね昭和19年3月に横須賀海軍病院を退院すると、三たび、横空に。ここで坂井三郎や武藤金義と一緒になります。終戦後、坂井三郎は著者が暮らしていた借家で新婚生活を送ったそうです。
 昭和20年2月16日には紫電改でヘルキャットを撃墜。しかしこのとき列機だった山崎卓飛曹は被弾して落下傘降下したところ木に引っかかり、土地の警防団に米兵と間違われて撲殺されました。以後、パイロットは飛行服に日の丸を縫い付けるようになりました。
 3月には初めてBー29を撃墜。そして4月12日、新式の60キロロケット弾(27号爆弾)を装備した紫電改で空戦中、被弾。右膝に重症を負い、これが著者の最後の戦闘となりました。
 ちなみにロケット弾は照準器に満点の要領で敵機を捉えながら、発射ボタンを押すと不発だったそうです。
 
 そのほか、桜花隊で有名な野中五郎少佐に関する体験談があったので載せておきましょう。
 著者と野中少佐は空母「蒼龍」で一緒になったそうです。
 当初は、少佐は(当時は中尉・分隊士)厳格で口やかましく、誰からも敬遠されていたそうです。
 それが分隊長になって責任が増したことによって、性格が180度変わってしまったのだとか。
 毛嫌いされていたのが、出撃以外のときは搭乗員の昼寝も許すという親分肌の人間になっていったそうです。
 ほかにも興味深いエピソードや登場人物が書かれていますが、キリがないので・・・
 もっと早く読んでいけばよかったと思うくらい、勉強になる本でした。


 
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