「戻り川心中」連城三紀彦

連城三紀彦という作家、だいぶ昔に「恋文」という小説を読んだきりでしたが、なんとなく昭和の文壇の格調を感じさせる文学家だと思っていました。
大変失礼な話ですが、川端康成や志賀直哉らと同時期の方だと思っていました。
本当に申し訳ない話ですが、生きていらっしゃれば140歳くらいになるような方だとばかり思っていました。
私の無知と勘違いでした。
連城三紀彦氏は昭和23年の生まれであり、平成23年現在60歳余というバリバリの現役作家であります。
この本の著者略歴をふと目に留めなければ、永遠に勘違いしておったかもしれません。
真実は知らなければ、わからないのです。
奇しくも五つの花で彩られたこの物語もそれぞれに真実がひっそりと隠されていました。

表題作「戻り川心中」以下五つの短編で構成されたミステリー短編集です。
それぞれの物語は昭和53年から55年にかけてのもので、小説現代に掲載された「戻り川心中」以外は既に廃刊となった「幻影城」という雑誌に掲載されたものです。それぞれの作品に関係はありませんが、いずれも大正末期から昭和初期が物語の時代背景となっています。
そして、いずれの作品も「花」が重要なポイントとして使われています。
第1話「藤の香」はただひと房、風雨にも散らず残った白藤を命にたとえ、
第2話「桔梗の宿」は濁らずに白いまま逝った女郎の短い生涯を桔梗に反映し、
第3話「桐の棺」はうかがえない人間の心の漆黒の深さを伝える符号として桐がつかわれ、
第4話「白蓮の寺」は人間の記憶の奥底に潜む謎を解く鍵として白蓮が少年の夢に舞い、
第5話「戻り川心中」では主人公である歌人の生き様として菖蒲が象徴的に2回目の花をつけるのです。

ミステリーなので、あまり詳しいことは書きたくありませんが、
この短編集は、不思議なことに、あとにいくほど面白くなります。
私のイチ押しは、「白蓮の寺」でしょうか。
意外な人物が意外なことをしている、という感じがどの話にもあるのですが、この「白蓮の寺」は特に、主人公の母親の妖しさが美しく、思いもよらなかった展開と結末に驚くと同時に感心しました。
それぞれ50ページほどの短編なんですが、そうとは思えないくらい物語は深いです。

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