「ダブル・ファンタジー」村山由佳

 もう今さら感が強いんですけどね、改めて読んでみて「やっぱすげえな」と心底思いました。
 ちなみに第22回柴田錬三郎賞の受賞作でもありますが、こんなことを言ってはなんですが、なんだか柴田錬三郎の名前のほうが霞むよね。なんだか、賞のタイトルのほうがこの小説よりちっちゃいって思ってしまう。
 性愛小説であるようで違うんだよなあ。猥褻さを微塵も感じさせない。エッチじゃない。
 それにこういうの書くと、本当に語彙力というか作家の力量が誤魔かせませんね。そのままの力が出ます。
 本作で主人公の奈津が性交渉をもった相手は、・・・6人。
 当然、性行為やその前後の場面が全編を通して多く占められているのに、すべての場面が新鮮です。
 そのたびに、作者が新しい価値観や言葉、単語、雰囲気をセッティングしているからです。
 さらに、性に貪欲で貞操観念が薄い奈津に対して、読み手がネガティブな印象を持ちにくいというのも、作者の力量じゃないでしょうか。読者が奈津に共感してしまうんですよ。一歩引いて見てみればこの女性、とんでもないキャラクターでしょう? こんなのと付き合ったりしたら男、大変ですよ。仕事と性行為しかしてないじゃん(笑)
 それでも、いつのまにか奈津に共感してしまって、入れ替わり立ち替わり現れる男を品定めしようとしてしまいます。
 彼女にとっていい出会いであるようにと願ってしまうんですね。
 不思議だなあ。情痴小説なのに、嫌悪感もわかないし、それほど興奮もしない。
 ある女性の生き方についての真面目な文学を読んだ、みたいな読後感があるというのがね、この物語の凄いところじゃないでしょうか。これ以上のものは村山さん、もう書けないかもね。
 
 じゃあちょっとあらすじ。
 高遠奈津は、「高遠ナツメ」という名前で活躍する、売れっ子の脚本家である。
 35歳の彼女は、3歳上の夫・省吾と埼玉県の郊外に住んでいる。子供はいない。
 省吾は、勤めていたドラマ制作会社を辞め、主夫として奈津のサポートに徹していた。
 そして結婚から十年余、夫婦間に問題が起きつつあった。
 奈津の仕事に対する省吾の干渉が、束縛が、奈津にとって耐えられぬほど鬱陶しくなってきたのだ。
 以前から憧れていた偏屈の天才演出家・志澤一狼太とメールでやりとりするようになり、省吾よりよほど強かった奈津の性欲も爆発してしまう。彼女は、志澤に抱かれ、すべてを捨てて性愛に没頭し、これまで築いてきたものを破壊し尽くすような激しい性愛の極みを知る。そして、夫のもとを離れ、ひとり東京に住むことを決意する。
 奈津のタガははずれ、彼女はまるで生まれ変わったかのように、自由な生活のなかで変貌を遂げた。
 脚の奥、おなかの奥の奥、自分でも手の届かない最奥で、結び目がひとつ、またひとつと、とめどなくほどけていく。火がついたが最後、鎮めることができない、性の発作が彼女を襲う。
 しかし、4回ほど逢瀬を重ねただけで、志澤はあっけなく奈津を捨てた。
 癒やされることのない傷心を抱えたまま仕事で行った香港で、偶然、奈津は大学時代の演劇サークルの先輩である岩井良介に出会う。
 夫の支配から逃れて家を飛び出し、けれど志澤との間は思うようにいかず、以来ずっと姿のない何ものかに対して身構え続けていた奈津は、明るい岩井の性格に癒されるばかりか、思いもよらぬ性の快感にも充たされることになるのだが・・・

 これは小説ですが、人間の性欲というのは難しい個性ですねえ。
 女性と男性では異なった世界でありながら、価値観を同床しなければなりません。
 うまくいくことのほうが奇跡でしょう。どちらかにストレスがたまって当たり前です。
 しかしながら、性欲というのは薄いほうが楽に生きれるのではないか、と私なんかは思います。
 この物語の奈津なんかは、性欲が強すぎるために心が軀に引きずられるという、いったん性欲に火がつくと禁断症状のように止まらない、そりゃその一瞬は天国に行けるのですが、やはり生きにくいと見えますね。
 少なくとも、うらやましいとは思えません。ある意味、サイコでしょ。
 なんでもほどほどがいいんですよ、やっぱり。
 いくらでも深く考えることができるテーマですけどね。この小説はその土台になりえます。
 奈津はきっと大林とは別れるでしょう、あんがい早くに。でも岩井とは戻らないだろうね、きっと。


 
 
 
 
 
 
 
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