「終戦史」吉見直人

 真珠湾攻撃の1941年からわずか4年、日中戦争から数えればわずか8年の間に、日本のおもだった都市のほとんどが空襲で焦土と化し、この国は有史以来初めての「敗戦」という事態に至りました。
 降伏です。終戦なんてキレイな言葉で誤魔化してはいけません。どうにでもしてくれという無条件で降参したのです。
 支那の部隊が日本全土に進駐し、略奪簒奪を繰り返しながら民衆を抑圧するという可能性も存在しえたのです。
 戦争中、空襲で全焼した家屋は約240万戸、日本人だけで約310万人が亡くなりました。
 無謀な開戦も間違っていましたし、その後の戦線拡大も間違っていましたが、では“終わり方”はどうだったのか?
 結論から言えば、終戦の仕方も間違っていました。
 戦争末期の3ヶ月間だけで、60万人を超える方が亡くなりましたが、それ以前にも戦争を終結するチャンスはありました。ソ連が参戦する前、原爆を落とされる前に、戦争を終わらせることは出来たのです。
 ソ連が参戦したのは8月9日でしたが、仮にそれ以前に降伏しておれば、北方領土の形は変わっていたでしょう。
 終戦前の昭和20年6,7月頃の実相として、敵のわずか30分の1程度の戦力しか残っていませんでした。
 もう戦う力は残されていなかったのに、なぜ、戦争指導者たちは、決断をすることができなかったのか?
 よく言われているように、強硬派の陸軍が最後まで1億総玉砕を唱えて譲らなかったのでしょうか?
 違うのですねえ、非常に難解というか複雑怪奇なので一概には私もまとめきれませんし、昭和天皇関連とソ連の対日参戦史料など永久に公開されないキーもあるんですが、はっきり言って陸軍は悪者にされただけです。
 いや、悪者は悪者で間違いないのですが、陸軍を格別にスケープゴートにすることによって、終戦後に功労者面したり、責任回避した人間がいるということです。
 現に最高戦争指導会議のメンバーで陸軍のツートップのひとりだった梅津美治郎参謀総長は、昭和19年7月に就任して以来の“終戦派”であり、強硬派を左遷していました。
 8月15日の早朝に自決したツートップのもうひとりである阿南惟幾陸軍大臣は、独自の考えで支那との講和を画策していました。陸軍ばかりが悪いのではないのです。
 では、日本という国がまさに滅亡に瀕しているあのとき、その中央で何が起こっていたのか?
 100%敗戦が決定していながら、グダグダと終戦が引き伸ばされたのはなぜか?
 本書は2012年8月15日に放送されたNHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったか」の内容を基に、さらに取材を重ねた著者による、終戦の真相の解明です。 

 まぁ、なんと言いますか、悔しいというか、情けないというか・・・
 私は後から歴史を見ているわけですからなんとでもいえますし、当時に実在しておれば旭日旗を振り回して威勢のいいことを言っているかもしれませんが、本書に登場する元戦争指導班長の松谷誠陸軍大佐のように、開戦も反対だったなら終戦工作も積極的、しかも戦後に資本主義社会が繁栄することを読んで、英米に占領してもらって傷んだ日本に資本を投下してもらおうとまで論を展開していたというのを知ると、日本の舵を取っていたメンバーの責任感の無さと顔だけがでかくて力量の伴わないバカ揃いが目について仕方ありません。
 スターリン率いるソ連が対日参戦を決めたのは、昭和20年6月26,27日と言われていますが、それが過ぎてから堂々と日本は英米に対する和平をソ連に頼もうとしていました。大恥といえるでしょう。
 もっとも、ヤルタ密約の後、英米に卓越した情報将校であると認識されていた駐スェーデン陸軍武官の小野寺信大佐のように、ドイツ降伏後にソ連は対日参戦を準備するという情報は日本に送られていたのですが、それが活かされることはありませんでした。統帥側(軍)と国務側(外務省など)にコミュニケーションエラーがあったのです。
 無条件降伏が嫌だったので、有利な条件で降伏するために一撃をかまそうとしたりも考えていました。
 最後っ屁ですな。でも、海軍はもう船腹が壊滅し、師団を次々と南方に引き抜かれた満州の関東軍はカカシ同然
、張子の虎でした。たちまち米軍に本土上陸されたり、ソ連に満州侵攻されたりすればたちまち実情はモロバレし、さらに不利な条件で降伏しなければなりません。だから、6月8日の御前会議では誰もがもう勝てないとわかっていながら「戦争を完遂」を採択したのです。本土決戦構想とは、掛け声こそ勇ましいですが中味のまったくない作文にすぎませんでした。敵に講和してもらいたくて、強がって、思いきり背伸びしていたのです。
 ところが、これが裏目に出ました。
 英米は日本に余力ありと見て、ややこしいことになると思いながらもソ連の参戦を促し、広島と長崎に原爆を落としました。7,8月の本土空襲回数は112回を数え、延べ約3万機の敵機がこれでもかと国土を焼き尽くしたのです。
 遅くとも、昭和20年の6月に終戦はできました。ソ連参戦決定と原爆の前に。これが本書の結論です。

 当時の日本には目指すべき「大日本帝国」の理想像がありました。
 指導者たちは、敗色濃厚となりながらもその理想像の理念を捨て切れず、そして軍人たちは一貫して依拠してきた組織の崩壊を恐れました。当時の国家予算の9割は軍事費でしたから!膨大な既得権益もありました。
 そして彼らは日本の国民を人的資源という、まるで物品のように勘定していたからこそ、いくら殺されようがのほほんと終戦を先延ばしにできたのです。
 そりゃ人間はいつか死にますから、国のために死なねばならないときも命もあるでしょう。
 しかし、彼らが国のためを思って行動していたとはとても思えません。己の保身に尽きるんじゃないでしょうか。
 あのとき日本という国のことを考えることができたのは、昭和天皇ただひとりだったんじゃないですか?
 彼らひとりなら人間に帰ることができる、しかし組織という団体決議になると彼らは人間を離れました。
 心のなかでは開戦などもってのほかと思いながら対米開戦を決議し、終戦を待ち望みながら昭和天皇の聖断までみんなで本土決戦1億総玉砕を唱えたのです。
 これが集団的無意識無責任という、日本型官僚のDNAなのですね。
 まったくもって、もったいない戦争でした。


 
 
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