「伊号第366潜水艦奮戦記」池田勝武

 太平洋戦争末期に竣工した伊366号潜水艦の元乗員による戦記と関係者の寄稿。
 著者が攻撃型の潜水艦ではないと書いているように、規準排水量は1440トンと日本海軍の主力潜水艦と比べると小さめです。魚雷発射菅も2門しかありませんし、実際に当初は魚雷を積まないで輸送作戦に従事していました。
img014_convert_20131025171309.jpg 真ん中に2隻並んでいるうちの1隻が伊366

 昭和19年12月3日に初出撃をした伊366は、終戦までに3回の作戦出撃をしましたが、2回めの昭和20年1月30日のときには、広島へ落されることになる原爆の部品を運んでいたアメリカの重巡インディアナポリス(原爆輸送後伊58により撃沈『伊58潜帰投せり』カテゴリー海軍戦史・戦記参照)を発見するのですが、このときは1トンでも多くの輸送物資を積載するために魚雷を積んでいませんでした。
 速力も低いので一概には言えませんが、もしも魚雷を持っていてインディアナポリスを攻撃できていれば、8月6日に広島に原爆が落とされた歴史は変わっているに違いありません。うーん。
 日本に敗戦の色濃いこの時期、戦線を拡大し過ぎたために補給線が伸びきった状態で、南方の基地は孤立していました。といっても制海権も制空権もすでにないわけですから、飢餓状態にあって戦闘能力もなくなっている味方部隊への命綱の輸送は、海中に身を隠して行動する潜水艦を利用した輸送しか出来なくなっていました。
 だから伊366のように、輸送型潜水艦という魚雷を積まないケッタイなタイプがでてきたのです。
 もっとも、伊366が参加した輸送作戦自体の、目的の価値やミッションの難易度は非常に高いものですけどね。
 
 伊366の初出撃は昭和19年12月3日、マリアナ諸島パガン島への食料弾薬輸送任務でした。
 著者は細かくは書いていませんが(まあ潜水艦の乗員は2役も3役もこなすのですが)、戦闘見張員と潜舵を操作していたとのことです。著者はこの時点で兵曹で、伊366の初出撃が19歳の著者にとっても初の実戦でした。
 艦長はこのとき正田啓治大佐。12月14日に到着した伊366は荷揚げ後、陸軍飛行機乗員含む40名の負傷者を内地に還送しています。このときの搬送者の方の寄稿が載せられていますが、手足のない方やアメーバ赤痢の方が便所に閉じこもるなど、艦内は地獄絵図だったようです。
 2回目の出撃は昭和20年1月30日、すでに機能していなかったトラック島とメレオン島(パラオの西。オレアイ環礁)への輸送作戦でした。著者は艦長(二代目、時岡隆美大尉)に冷やかされながら挺身隊の彼女に別れを告げて出撃。トラック島では漁船の燃料もなくて伊366の燃料をわけたなんて話もありますが、このときの帰りのエピソードは注目です。メレオン島から42名の内地還送者を乗せて出発したのですが、途中で点呼を取ると、なんと一人多い43名! 島からの脱走者がいたらしいのです。誰がそうなのかみんな口を閉ざしていますし、今更ほっぽり出せるものでもありません。結局、艦長が機転を利かして書類の四二という漢字に線を一本足して四三に書き変えたらしいですが・・・
 はじめて聞くミステリーですね。どういう事情があったのでしょうか。本でも書けそうな謎ですな。
 
 三回目の出撃は、終戦直前の昭和20年8月1日となりましたが、どうしてこれほど間隔が空いたかというと、4月に呉軍港で人間魚雷回天を5機搭載できるように改造工事をしたのと、回天作戦の訓練基地である徳山の光基地の港外で、アメリカの機雷に触雷しエンジンが壊れたために修理を要したのです。
 最後の出撃は、ウルシー沖縄間通商破壊任務でした。回天多聞隊(隊長・成瀬謙治中尉)5機と、初めて魚雷を積んでの航海となりました。
 回天はねえ・・・魚雷を改造した特攻兵器ですが、飛行機のように窓があるわけでもなく、走行前こそ潜望鏡で海上が見えますが、いったん発射されると金属の菅の中で何も見えないまま突っ込んでいくわけですから。とてつもなく怖いと思いますよ。当たれば自爆、目標に当たらなければ海底に失速着底するので100%生還できません。
 結局、伊366は終戦のわずか4日前の8月11日に敵の大規模輸送船団を発見してしまうのです。
 けれどもいつ終戦になるのか知らない状態ですからね。回天戦用意、となって2機が故障したので成瀬隊長含む3機の回天は敵に向かって潔く特攻していったのです。

 本書には著者の戦記の他にも、成瀬中尉の遺族の方や、回天が故障したために生き残った多聞隊隊員の寄稿もあります。生き残った方は、「助かったという喜びは心のどこかにあり、それを誰かに見抜かれてはならぬ思い、精神的に孤独な毎日だった」と書かれていますが、その通りだと思います。一方で、従兵にも極めて優しく(たとえばご飯の用意への感謝など)、なんの不平も悩乱もなく颯爽と死んでいった成瀬謙治中尉もまた格別、偉人です。
 終戦後、伊366は五島列島沖で米軍により爆破処分されました。
 
 大君の御稜威かしこみ微笑みて 今ぞ散るらん若桜花 (海兵73期 成瀬謙治)

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