「清須会議」三谷幸喜

 最近メディアでキャンペーンがうたれている映画の原作で、三谷幸喜にとっては17年ぶりの小説です。
 清須会議。“清洲”という漢字ではなく、清須を使っています。現在地も愛知県清須市ということで、私なんかは清洲という漢字しか知りませんでしたが、実は清須のほうが正しいのでしょうね。
 で、清須といえば清須城、言わずと知れた織田家の本拠地です。信長は桶狭間の戦いにもここから出撃しました。
 天正10年6月2日、その信長は本能寺の変で倒れます。
 運の悪いことに、嫡男の信忠も明智勢に包囲されて二条城で憤死しました。
 天下統一目前だった織田家の、よもやの挫折でした。
 叛臣の光秀は藤吉郎(秀吉)に討たれたものの、これまで織田信長という存在に押さえつけられてきた諸国の大名たちが、いつ一斉に立ち上がらないとも限りません。
 織田家中としては、一刻も早く後継者を立て、織田家が少しも揺るぎのないことを日本中に知らしめなければなりませんでした。
 そして行われたのが、清須会議です。後世の我々だからこそ云えることなのですが、歴史の節目となりました。
 時は天正10年(1582)6月27日。場所は織田家発祥の地・清須城。
 参加者は、織田家筆頭家老・柴田勝家、丹羽長秀、羽柴藤吉郎秀吉、池田恒興の4人。
 議題は、1・本能寺で討たれた信長と信忠亡き後の織田家継嗣問題
      2・秀吉によって討たれた元宿老・光秀と信長、信忠の領地再配分
 
 清須会議というイベントは有名でも、それ自体にスポットを当てた小説というのを初めて読みました。
 池田恒興なんて渋いというか、言っちゃ悪いが場違いな感もする武将が出席してたことも知りませんでした。
 日本の歴史の節目となった会議なのに、こんなに知らないことだらけというか、気にしてなかったのだなあ、と。
 映画では役所広司が演じるようですが、仮に柴田勝家がこの会議で勝ってたとしたら、日本の歴史は大幅に変わったことでしょう。さすが、三谷幸喜、目の付け所が違いますわ。
 それぞれ会議関係者たちのモノローグ(独白)形式で物語は進行しますが、文章セリフとも現代語です。
 外来のカタカナ語を戦国武将が喋ることにはじめはかなり違和感がありましたが、馴染みの深い現代語を使用することによって、それぞれの心の機微がわかりやすくなっていて、すぐ慣れます。
 まあ、作者が書こうと思っても昔の言葉で書けなかったことが理由なんでしょうけども。
 しかし肝心の歴史洞察はあんがい鋭く出来ています。本当にこの通りだったかもしれませんよ。

 冒頭、本能寺の燃えさかる炎の中で信長のモノローグでは、
 信忠(嫡男)がいるかぎり、織田家は安泰だ。しかし、信忠は苦労知らずなために粘るということを知らず、諦めが早い。明智の軍勢に囲まれて早々と腹など切らねばよいが・・・(危惧通り信忠は憤死)。
 信雄(次男)ははっきり言って馬鹿だし、信孝(三男)はまだましだが、器が小さい。
 ということでした。
 で、会議では次男の信雄を担ごうとする秀吉と、三男の信孝を担ぐ勝家が対立するのです。これが基本的な構図。
 関東で北条に敗戦した宿老のひとり、勝家派の滝川一益は会議に間に合いませんでした。
 五宿老(勝家、一益、長秀、光秀、秀吉)の光秀のところに入ったのは、信長の乳兄弟だった池田恒興。
 池田恒興は、己の利のみ考える輩とここでは書かれていますが、すでに秀吉によって調略されていました。
 会議の議長を務めたのは、勝家と並んで織田家ツートップの丹羽長秀ですが、彼は当初は勝家側だったものの、しだいに秀吉に丸め込まれていきます。これで形勢は逆転するのです。
 結局は、主君信長のかたきを直接に討ったのは、秀吉ですからね。
 越中で上杉軍と対峙していた勝家が変を聞いて京都に帰ってきたのは、6月13日。とっくに光秀は首になっていました。また、長秀は信孝とともに堺で四国討伐の準備をしていましたが、距離的には一番反乱軍に近かったにもかかわらず、麾下3千という軍勢が心細かったのか傍観し、秀吉軍3万に合流しました。秀吉軍は動きを止めなかったので、そうなると必然的に総大将は秀吉という形になったのです。
 いかに宿老の末席だろうと、勝家が藤吉郎如きと蔑んでも、秀吉の発言力は一番大きかったことでしょう。
 そして秀吉には黒田官兵衛という卓抜した参謀がいました。勝家には前田利家が付いていましたが、彼は謀将ではありません、侍武者です。会議という戦争は、戦う前に勝負は着いていたのです。
 
 秀吉は、馬鹿の信雄を見限って信忠の嫡男である2歳の三法師を立てます。
 三法師の母は松姫、武田信玄の娘ですので、三法師は織田信長と武田信玄の血を持つという、超サラブレッド。
 実は、この織田家継嗣問題、安土城が建てられたときに信長は家督を信忠に譲っていたので、三法師を立てるのが一番理に適っているのです。すでに織田家の家督は信忠であって、その息子が嗣ぐのは当たり前でしょう。
 ただ三法師が幼かったので、それが問題となったのですね。
 これも貢献に信孝が付くとなれば、一日で終わったように、会議自体はそれほど揉めなかったんじゃないでしょうか。
 たとえ、後にしこりが残ったとしても、それは参加者の感情の問題じゃないでしょうかね。
 領地の再配分は、信忠の支配地である尾張、美濃、光秀の丹波、近江の一部、信長の治めていた摂津の一部他の直轄領が、新たに割り振られたわけですが、秀吉は山城を取りました。これで天下にまた一歩近づいたのです。
 物語のハイライトでありクライマックスは、秀吉と勝家の2人だけの語りでしょう。
 ここで、勝家は自分が織田家の差配をとると1年持たないという、己の能力の限界を悟るのです。いい話でした。
 自分のことだけ考えているのは池田恒興、その上の織田家のことを考えているのは柴田勝家と丹羽長秀、そしてそのまた上の“天下”のことを考えていたのは羽柴秀吉だったというオチ。
 秀吉がこの会議で勝たなければ、日本の戦国時代はあと100年続いていた、これは本当だと思いますよ。


 
 
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