「背の眼」道尾秀介

 道尾秀介のデビュー作で、2004年のホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
 「向日葵の咲かない夏」がデビュー作じゃなかったんですねえ。
 あれはある意味、衝撃的な作品でしたから、それ以前の作品は忘れ去られがちかもしれませんが・・・
 巻末の選考評を読むと、ちなみにこの時の大賞は沼田まほかるの「9月が永遠に続けば」なんですが、けっこう圧倒的な差をつけられていたように感じられます。選考委員の綾辻行人なんかは、一生懸命に書いているのは結構だけど拙い、と断言していますし、京極夏彦の有名シリーズのマネであるとも言っています。また冗長であるとし、1200枚にも及ぶ原稿の贅肉の部分を削ることを条件に、特別賞の受賞が決まったらしいです。
 しかし、一方で綾辻行人(この人もデビュー作の~の殺人は思い切り下手だったが笑)も言っているように、本作には確固たる物語構築の意志が感じられます。これは、現在のもう、有名作家となった道尾秀介の作品にも感じられることで、“確固たる物語構築”は、道尾秀介という作家のトレードマークとでも云えるんじゃないでしょうか。
 それがたまにはあざとく見えたり、こじんまりとまとまり過ぎていたり、といったマイナス面にも映るんでしょうがね。
 どうだかなぁ。
 私は個人的には、ジャンルに関係なくこの人は貧乏を書かかせたら日本で1,2を争う名手と思っているので、本作にその萌芽がうかがえて嬉しかったです。1円玉や5円玉をかき集めて、昼から末期の焼酎を飲む自殺前の無職の中年男なんて、なかなかこういったミステリーでお目にかかることはできませんから。
 道尾さんは雰囲気も顔がシュッとした今風の男性でありながら、泥臭く書いたものや暗い雰囲気のもののほうが、筆が立つんですよね。デビュー作のときからそういう傾向にあったと知れただけで、本作を読んだ価値があったと思っています。もちろん、物語的にも、霊魂の存在を信じない私にとって非常に興味深いものであったことは言うまでもありません。高品質のオカルティック・ミステリーです。

 少しあらすじを載せておきましょうか。
 大学を出て就職もせずに六畳一間でバイト生活をしながら、食うので精一杯のホラー小説作家・道尾秀介。
 作者と同姓同名のキャラクターですが、人格経歴ともに別人です。
 その道尾秀介が福島県の山奥に旅行したことから物語は始まる。
 季節外れのこの時季に、あきよし荘という民宿に泊まった彼は、そこで不可思議な事件の概要を聞く。
 ここ白峠村では1年と少しの間に、4人の少年が次々と行方不明になっているというのだ。
 最初に行方不明になった糠沢耕一という8歳の少年だけは、死亡が確認された・・・が、それは村を流れる白早川で少年の頭部のみが発見されるという、酷たらしいものだった。あとの3人は何の形跡も見つかっていない。
 天狗伝説のあるこの村では、天狗による神隠しだと信じる者もいた。
 現に糠沢耕一がいなくなったのは、天狗祭りという観光客も来るような村祭りの夜だった。
 そして道尾は、少年の頭部が見つかったという川辺で、レエ・・・オグロアラダ・・・ロゴ・・・という謎の声を聴く。
 東京に帰った道尾は、大学時代の友人である真備庄介の元を10年ぶりに訪ねた。
 真備庄介は、真備霊現象探究所を開設している、ちょっと有名なイケメン・ゴーストハンターである。
 「霊現象研究所」ではなく「探究所」としているところがミソで、真備は世の中の霊現象のほとんどをニセモノと断定しており、真実本当の霊現象をのみ探究、捜しているのである。
 さっそく、真備に福島の白峠村での体験を語った道尾は、逆にとんでもないものを見せられる。
 それは、真備の元に送られてきたという4枚の心霊写真だった。OL、会社員、高校生、老人という4人の被写体の背中に人間の眼のようなものが写り込んでいるという気色の悪いもので、驚くべきことに、わずか1年の間にこれら被写体になった4人の人間は、兆候も見せずに謎の自殺を遂げたというのだ。
 しかも、4枚の写真は撮られた場所が福島県の白峠村か、隣の愛染町だというのだ!
 あの山深い、福島の寒村にいったいなにが潜んでいるのか!?
 道尾と真備、そして真備の助手である北見凛の3人は、真相を解明すべく白峠村に向かう。

 精神病理と霊の憑依現象の解説は面白かったです。
 キリスト教のエクソシズム(悪魔祓い)もそうですが、霊の憑依というのは憑依された人間の別の人格なんでしょうね、たぶん。だから、十字架とか聖水とかのアイテムが効くんですよ。憑依されたことになっている本人がそういうのが効くと信じているからなんでしょうね。だいぶ前に観たテレビ番組で面白かったのは、日本の霊能者が悪霊を払うのですが、取り憑かれたという人間はキツネや蛇に姿を変えていくんですよ。これたぶん、人間の潜在意識というか、意識の深層にはそういった動物時代のDNAというか記憶が残っているからではないでしょうか。
 生霊とかも、「あの人に恨まれている」という被害妄想が生んだ人格であるような気がします。
 だとすると、呪いの藁人形だって姿を見られては効果がなくなると言われているのはブラフであって、逆にそのおぞましい姿を見られて、呪いの対象となっている人間にその事実が伝わることこそ絶大な効果を産むかもしれません。
 エクソシストも、そういった意味では精神医療行為であり、宗教上層部はそういうことは一切承知の上なのかもしれませんね。
 ただ、自殺はそのまた一歩段階が上でしょうか。霊魂憑依現象が現実逃避や自己防衛反応と思われるのに対し、人間にとって本来なら死ぬことが一番危険なはずなのに、自殺するということは、死ぬことよりも危険なことがその人間に起きたということですよね。死ぬことよりも危険なこととは、言い換えて見ると人間は本来は死後の世界を信じていないということの証左なのではないかと私なんかは思うのですが・・・
 死のうと思っている人間には霊魂が集まりやすい、なんて話もあります。
 本作の解釈は、どうだったでしょうか。
 100%霊魂の存在を否定しなかったところが逆によかったと思いましたよ。
 天狗が実は「アマのキツネ」と呼ばれる流星が元祖だったこと、金毘羅さんがサンスクリット語でクンピーラというガンジス川のワニを神格化した水神だったことも勉強になりました。


 
 
 
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