「百年文庫 窓」遠藤周作・ピランデルロ・神西清

 百年文庫第26作目のテーマは『窓』。
 「窓」で何が思いつくでしょうか?
 あまりピンときませんが、なんとなくそれらしいのは、内と外の境界だということですよね。
 だからこの「内」と「外」を、自分と社会に例えたり、真実と虚飾に例えたりすれば、メタファーの応用はけっこう広がるのです。
 本作は26作目にして初めて、3つではなく4つの短編が収められていますが、いずれも基本的に「窓」を「境界」として捉えて、これらの物語が選ばれた、そういう気がしますね。
 ただ、私は個人的にこの選抜は気に食いませんでした。
 百年文庫にありがちなことなんですが、ポプラ社の選者が深く考えすぎていますね。
 特に4作目の話なんて、面白いかどうかはともかくとして、どうしてこれが「窓」というテーマに選ばれたのかまったくわかりません。よくよく考えてみれば、わかったような気がするだけでね、こういうのがアリならば、巻末の解説をもっとちゃんとしてくれなければ、不親切なアンソロジーということになってしまいますね。
 アンソロジーですからね、編集部が勝手に作品を選んでるわけですから。
 26作目にして、最低の出来だったと思います。

「シラノ・ド・ベルジュラック」遠藤周作(1923~1996)
 その中でも、これはずいぶん面白かった作品でした。
 戦後フランスに留学していた遠藤周作の、実体験が色濃く反映されているのかな?
 「愛しのロクサーヌ」という映画の元にもなっている、ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の実在したモデルの手記の原本を主人公(遠藤周作)が読んだというお話です。
 原本は創作された戯曲と違って、恐ろしい苦悩と悪魔的な叫びの告白でした。真実はグロいということですね。
 遠藤はこれを週一回フランス語を教わっている、元リヨン大学の修辞学教授ウイ先生のアパートで見つけたのです。
 ウイ先生は、修辞学の先生ですし、実は個人的に問題を抱えていることもあって、真実が記された原本をつまらないものだと思っていました(いや、思い込もうとしていた)。文学とは結局、修辞学ですよ、と。
 かたや遠藤は、若さゆえか、文学とは人間の真実を追求するものだと思っていますから、ウイ先生の考えに反発するんですね。窓は境界線なのです。修辞と真実、いや、真実と事実との。
 事実を覗ける、覗こうとするのは、若いうちだけかもしれませんねえ。知らないほうが幸せなことも多いのが人生です。けど、修辞だけではつまらないような気もします・・・
 今回の百年文庫は、忙しい方はこの一作を読んで次を読まれてもいいと思います。これは私の真実です。
 事実ではありません。

「よその家のあかり」ピランデルロ(1867~1936)
 ニーニ母娘の真っ暗で小さな貸し部屋に、2ヶ月前から入っているトゥリオ・ブーティ。
 彼は法務省に勤める弁護士だが、一家離散を経験する悲惨な幼児期を送っていたこともあり、職場では誰とも口を利かず、社会から距離を置いて生きていた。
 ある時、風も光も入らない部屋の窓から、向かいの家のあかりが射し込んでくることに気づいたかれは、そこで見た一家団欒に喜びと慰めを得られるとともに、3人の子どもの母親でもある美しい人妻に恋心を抱いてしまう。

「訪問」ピランデルロ(1867~1936)
 召使が取り次いだのは、昨日死んだと聞いたアンナ・ヴァイル夫人だった。
 彼女は、私に思い起こしていただきたいことがあると言う。
 彼女はたった一度だけ逢った女性である。それは3年前、仲間の別荘で行われた園遊会だった。
 私は20歳以上歳上である、美しいヴァイル夫人に惹かれた。そしてその豊かな“胸元”を凝視したのだ。
 ここでの「窓」は、女性の谷間という意味です。
 これぞ社会の窓ですね。ついつい目がいってしまうのは女性の胸。

「恢復期」神西清(1903~1957)
 よくわからない作品。
 母の突然の死、そして自らは謎の熱病に取り憑かれ、6ヶ月間の記憶を失った18歳の少女の恢復の物語。
 少女は意識が戻りかけたときから、薬包紙に1928年6月7日からの日記をつけていました。
 熱海で療養をしていて、父は画家のようですし、軽井沢に別荘があるし、裕福な令嬢っぽいのですがね。
 病状が安定してから、仏蘭西窓の外が海が見えるヴェランダになっている2階に移った彼女。
 そこで外の風景、船などを目にしてから、曖昧だった記憶が定着してゆくのです。
 色彩だけだったものが、線で囲われるように、ですね。自分を取り戻していくのです。
 この作品における「窓」とは、画家のいうデッサンの線描に囲まれた世界と、囲まれない世界の境界という意味ではないでしょうか。それはつまり、確固たる意識のある世界と、病気などで意識のない世界の違いだと思うのですね。



 
 
 
 
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