「劣化ウラン弾」嘉指信雄・振津かつみ・小出裕章ほか

 「劣化ウラン弾」という単語を聞いたことがある方は多いと思いますが、それがいったい何であるのか? どうして存在しているのか? ということを知っている方はそれほどいないんじゃないでしょうか。
 私もそうです。テレビニュースや新聞なんかで、何度となく耳にし、目にしながらも、それとなく聞き流していました。
 今回、この岩波ブックレットという、ペラペラながらも重要なポイントが抑えれている効率のいい小冊子が目に止まり、ようやく「劣化ウラン弾」というものに対して正面から向き合って考えることができました。
 これが分厚い専門書だったら、とてもでないですが、読む気にはならなかったと思います。
 64ページ2段組という、数時間あれば読みきれるボリュームの本書であったからこそ、私の知識となりました。
 本書がなければ、おそらく私は「劣化ウラン弾」というものに対して何ら知識を持つことなく、死んでいたでしょう。

 私が「劣化ウラン弾」に対して大きく興味を持ったことは2つ。
 1つは、劣化ウランとは何か? ということです。
 2つ目は、じゃあ、劣化ウランがどうして砲弾、弾丸という兵器になっているのか? ということですね。
 1つ目からいきましょう。
 原子力発電の燃料はウランです。しかしウランといっても全てのウランが使用できるわけではなく、ウラン235という核分裂性のあるウランが原発に用いられます。しかし、このウラン235は、天然ウラン鉱石にわずか0.7%しか入っていません。残りはほぼウラン238という、いわば“燃料にならないカス”なのです。
 一般的な原子力発電の主力である軽水炉型の原発では、3~5%の濃縮ウランが用いられます。
 100万キロワットの発電能力をもつ原発で毎年燃料として使用される濃縮ウランは30トン。
 すると、非核分裂性であるカスのウラン238が160トン生じることを意味します。
 これが“放射性廃棄物”、つまり「劣化ウラン」と呼ばれているものなのです。
 そして2つ目。
 このどうしようもない核のゴミをなんとか利用できないかと、アメリカでは1950年代から研究されてきました。
 そこで考えだされたひとつのアイディアが、兵器への利用だったのです。
 といっても、砲弾のなかにこれを詰めて放射性核廃棄物を敵地に撒き散らす、という使用法ではありません(結果的にはそうなって、現在世界で議論されているわけですが)。
 劣化ウランは実は、鉄の2.5倍、鉛の1.7倍の比重があるため、劣化ウランを用いた砲弾は貫通力が高く、射程も長く、命中精度がいいのです。
 なんと貫通力は普通弾の2.4倍にも達し、その革命的な破壊力は従来の戦車の存在を無意味にしました。
 劣化ウランを砲弾の先端の貫通体として用いると、対象に衝突したとき「自己先鋭化現象」を起こし、貫通力が一層高まるのみならず、対象内部において高熱で燃焼するのです。
 そして、核の廃棄物で厄介者ですから、タダ同然で手に入ります。
 弾丸革命とも云える劣化ウラン弾は、M-1戦車の砲弾、ハリアー攻撃機の機関砲弾などに使われ、なかでもA-10攻撃機の30ミリ機関砲は劣化ウラン弾を1分間に4000発撃つことができました。
 A-10の場合、1発の30ミリ砲弾に、300グラムの劣化ウランが使用されています。
 1991年の湾岸戦争ではおよそ100万発もの劣化ウラン弾が使用されました。さらに、1995年のボスニア・ヘルツェゴヴィナへのNATO介入、1999年のコソボへのNATO介入、2003年のイラク戦争にも劣化ウラン弾は使用されています。現在、劣化ウラン弾は、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、イスラエル、インド、パキスタンなど世界20ヶ国が保有していると云われています。

 それでは、「劣化ウラン弾」の何が問題なのでしょうか。
 劣化ウラン弾は、対象に当たって燃焼した際、その何割かは金属蒸気の微粒子となって大気中に拡散します。
 そして、対象を外れた弾丸は、地中深く入りこみ、腐食して大地を汚染することになります。
 劣化ウランは、重金属として化学的毒性が極めて高く、放射線毒性に関しても天然ウランの約60%の放射能を有するのです。
 アメリカ、イギリスはその危険性を否定、WHOやIAEAなどでさえ科学的に実証されていないとの理由から結果的に劣化ウラン弾の使用を黙認していますが、劣化ウラン弾が使用された地域の住民は元より、アメリカやイギリスの帰還兵にも重篤な症状が現れた例もあります。
 劣化ウランの金属蒸気は、PM2.5という2.5ミクロン以下の微粒子となって拡散し、呼吸によって人間の肺に取り込まれると、様々な臓器や組織に沈着し、局所にアルファ線を放射し続け、強いダメージを与えるのです。
 さらには紛争地域だけではなく、射爆訓練場の付近の住民や兵器製造工場の工場員にも健康被害が出ています。
 それでも、2005年に米陸軍省を相手取って、イラク帰還兵が起こした劣化ウラン被曝被害訴訟は、棄却されたのです・・・

 現在、世界で「劣化ウラン弾」を禁止している国はベルギーと、コスタリカの2国だけです。
 日本には2001年の時点で、米軍嘉手納基地に30万発の劣化ウラン弾が貯蔵されていたことが確認されています。
 まあ問題は、増え続ける核のゴミをどうするか、という人類の切実な問題にもリンクしてくるようです。
 一度その手に入れたものは、なかなか手放すことができないんですよね、人間は。

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