「『紫電改』戦闘機隊サムライ戦記」角田高喜・堀知良・田中悦太郎ほか

 太平洋戦争末期、本土防空に命を懸けた決戦航空隊松山343空を、整備員の立場から見つめた表題作「紫電改戦闘機隊サムライ戦記」ほか、秋水など海軍航空隊にまつわる異色作も含めた全5篇。
 どれも非常に興味深いです。
 戦後30年以内の昭和40~50年代に軍事雑誌「丸」に掲載されたものだけに、生々しくもあります。
 全部に共通しているのは、基地への空襲ですが、たいへん迫力がありましたし、身につまされました。
 なんかこう、今まで読んできた物とはまた違いますね。
 零戦などに搭載されていた7・7ミリ固定機銃は実はイギリスが手放した欠陥品だったとか、日本最初のロケット戦闘機『秋水』の事故を実際に見た証言など、とても貴重な証言もありましたし。簡単に5篇にタグを付ければ、
 1・整備員の目からみた紫電改戦闘機隊の基地は、敵に攻撃されっぱなし
 2・南方最前線ラバウルで終戦時まで籠城した航空隊責任者
 3・日本海軍戦闘機武装のスペシャリストの証言
 4・特攻に飛び立つ目前、転勤になった雷撃機搭乗員
 5・最後の局地戦闘機・秋水の最期を見届けた、海軍飛行予備学生の秘話

 というふうになります。

「『紫電改』戦闘機隊サムライ戦記」角田高喜(松山343空整備員)
 毎日のように本土が爆撃される大戦末期、四国松山に開隊された第343航空隊。
 司令には源田実大佐、「301」「407」「701」の3飛行隊と整備分隊で構成され、搭乗員には南方帰りの百戦錬磨のエースたち、機体には特有の空戦能力(空戦フラップ)を持ち、4門の20ミリ機関銃を誇る新鋭戦闘機「紫電改」が90機採用されました。著者の角田高喜は、昭和19年11月の開隊準備前から所属するベテラン整備員。
 新鋭機の基地ということで、松山基地は敵から目の敵にされ、連日の攻撃を受けました。
 日本最強といわれる紫電改の留守中に基地を襲われる様子が、生々しく描かれています。
 これは華やかなパイロットには決して書くことのできない、縁の下の力持ち的な、リアル戦記です。
「さらばラバウル航空隊」堀知良(151空飛行長)
 南方最前線、海軍航空隊の大根拠地であったラバウル。前線に憧れる著者は、偵察飛行隊の飛行長として昭和18年の真夏に赴任してきますが・・・まさか、終戦後しばらくまで捕虜として勾留されるとは思いもしなかったことでしょう。
 まだ赴任当初こそ劣勢になりながらも航空戦で踏みとどまり、著者の偵察隊も敵基地や港湾の高々度写真偵察など地味ながらも活躍しましたが、昭和19年2月、ついに航空隊はラバウルを捨て、トラックに移動になったのです。
 著者はラバウル居残り部隊の指揮官を任されました。残留したのは7個航空隊の搭乗員2百余名と、約3千5百名の航空部隊員。そして水上機10機足らず。しかし、終戦の前日まで空爆されながら、彼らと共についに最後まで著者はラバウルを死守しました。特筆すべきは、部品をつなぎあわせて作ったラバウル製零戦7機と九七艦攻2機の活躍。
 これらや水上機は、まるで幽霊飛行機のように、アドミラルティ泊地など敵に思わぬ痛撃を与え続けたのです。
「横須賀航空隊興亡記」田中悦太郎(横空戦闘機武装主務担当)
 著者は大戦中の日本海軍戦闘機武装の第一人者で、日支事変開戦前から戦闘機の武装と機銃の実験に従事。
 所属は横須賀航空隊のままで、隣接する航空技術廠に勤務していました。空技廠は終戦時、職員1700名,工員3万1700名を抱えた世界最高水準の航空技術の殿堂であり、著者に言わせれば、敗戦は日本全般の工業技術がこれについていけず、さらに総工業力においてアメリカの足元にも及ばなかったことが原因であると述べています。
 ほぼ無傷で墜落したB29を見たときに、その高々度性能や完全防備タンクなど日本の技術者では想像もできぬ画期的設計に驚愕したそうです。この章は著者の海軍での貴重な立場と同じく、興味深いネタにあふれていますが、特に意外だったのは、昭和19年には航空用30ミリ機銃が実用可能であったということと、日支事変開戦前に日本がイギリスから輸入していたビンカース7・7ミリ機銃が欠陥品だったということです。欠陥品だから、これから敵国になりそうな日本への輸出が認められたのです。それを著者が必死の思いで、ほぼ国産品といえるくらいに改良したのでした。
「沖縄『天山』雷撃隊出動始末」内海米吉(251空搭乗員)
 昭和19年5月、著者は沖縄本島南部西海岸にある小禄飛行場の哨戒部隊へ転勤となりました。
 のちの沖縄航空隊、951空です。対潜哨戒攻撃の要領は、まず磁探機が低空で海面を飛行する。磁気反応があると赤ランプがつくので、すかさず航空目標弾を投下する。目標弾の弾体はボール紙でできており、中には銀粉がつまっていて、接水と同時に割れて水面に銀の円ができる。潜航潜水艦の上を通過したとき、機上から投下すると目標より先の方に落ちるので、これを3方向から進入航過して投下すると、銀の三角形ができる。この三角形の重心点に潜水艦がいるわけで、ここを待機していた爆撃隊が攻撃するのです。実際に著者の部隊は敵潜水艦を撃沈しており、中央から潜水艦撃沈のバッジをもらったパイロットもいたそうです。
 著者はこの後沖縄を離れ、一時特攻待機するなど数奇な運命を辿るのですが、特攻出撃直前での偵察員との別れなど、とても読み応えのある場面が、昨日のことのように切実に書かれており感動しました。
「最後の局戦『秋水』は大空に在りや」松本豊次(312空搭乗員)
 著者は13期海軍飛行予備学生。配属先は、Me163。なんのことか?と思ったそうですが、ドイツのメッサーシュミット戦闘機のことで、日本初となるロケット戦闘機『秋水』の搭乗員として16名の予備学生が実験隊の横空へ配属されたのです。
 最初はモルモットでした。秋水は過酸化水素を主燃料とし、高度1万~1万2千メートルまで1分30秒で上昇し、逆に降下は30秒で行います。気圧の急激な変化で人体はどうなるのか、著者らは大島正光軍医少佐(戦後、日本における航空宇宙医学の権威者となる)をはじめとする医師たちに食事や排泄までコントロールされたそうです。
 ふつう、局地戦闘機には「電」が付くのが海軍の伝統ですが、秋水と命名されたのは、隊員が「秋水(秋剣)三尺露を払う」、すなわちMe163がB29を駆逐し、戦局の不利を挽回するという意味の短歌を披露したからだとか。
 人体実験的なテストに合格して晴れて秋水の搭乗員候補となった著者らは、滑空機の訓練を繰り返しました。
 秋水は、上昇はロケット噴射ですが、降下はグライダーのように滑空なのです。
 そして有名な、秋水の初試験飛行での犬塚豊彦大尉の事故。著者は一部始終を見ていました。
 どうやら事故は必然ではなく、こういう結果になったのは、ちょっとしたタイミングだったようです。
 この他にも、グライダーの記録を持っていたというベテランパイロット沢田兼吉飛曹長が隊にいたように、百里原で繰り返された滑空機の技術や訓練の模様などが大変詳しく載せられており、これほどの体験談はなかなか目にすることができないと思われます。


 
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