「天才たちの値段」門井慶喜

 美というのは快い目の錯覚である、か。
 なるほどそうかもしれませんね。美の価値の高低(たかひく)は、あくまでも鑑賞者に委ねられます。
 鑑賞者の目を騙したものが美の創造者ならば、創造者とは一概に正直者とは言えないのでしょうね。
 初めて読みました門井慶喜(かどいよしのぶ)の、美術品を題材にしたアーティスティックミステリー。
 世界的に有名なイタリアの画家ボッティチェッリと思われる作品の真贋を究める表題作「天才たちの値段」ほか4篇。
 共通しているのは、語り手でもある女子短大の美術講師・佐々木昭友と、神の名に相応しい鑑定力を持つ美術コンサルタント・神永美有の存在。この2人がいなけりゃ、物語は進みません。
 そして、どの作品も最後にどんでん返しがあることが特徴です。
 もちろん殺人ミステリではありませんから、要は、神永美有が美術探偵みたいな存在なんですよね。
 様々な美術工芸品の真贋や製作者を巡る謎を解いていきながら、最後の最後であっと驚く真相を導き出すのが神永の役目です。
 まあ、正直言いましてねえ、プロット自体はそれほど引き込まれるものではありませんわ。
 3番目の仏涅槃図(お釈迦様の臨終図)をひっくり返したら隠れキリシタンの・・・はなかなか良かったですけど。
 美術用語というか、そういった専門知識も解説はしてくれていますが、難解ですしねえ。
 小説という文章形態で、美術品を形容するのは非常に難しいと改めて思いました。
 普通の方なら殺人現場の死体の模様はなんとなく想像がついても、イタリア・ルネサンスの画法がどうだとか、正倉院宝物のガラス細工の雰囲気だとか、頭のなかでイメージしにくいんじゃないでしょうか。
 まあこれは作家が悪いのではなくて、純粋に作品の謎を解く美術ミステリーというジャンルの難しさでしょうがね。
 
「天才たちの値段」
 一枚の絵が本物か偽物か、見た瞬間、味覚で(甘く感じたら本物、苦く感じたら偽物)鑑定するという天才・神永美有。
 彼は某国立美術館の特別展で、展示品を本物の複製であることを見破り、学芸員をクビに追い込んだこともある。
 そしてある洋館の地下室、うさんくさい画商に伴われて観た一枚の絵を前に彼は「これは本物です」と言い切った。
 絵はイタリア・ルネサンスの一級画家ボッティチェッリ作で、最高傑作「春」と対をなすと思われる『秋』。
 収穫を終えたぶどう畑で狂宴を織りなす古代ギリシャの神々が描かれていた。
 神永はさらにこの絵を、亡き父が遺した遺産のほとんどを費やして8500万で買い取ってしまうのだが・・・
 その裏でほくそ笑む画商。そして神永は作品を精密に理論づけて誰かを説得するべく、アカデミックな研究者である佐々木昭友に話を持っていく。思わぬどんでん返しが待ち受ける、美術探偵・神永美有のデビュー作。

「紙の上の島」
 女子短大の美術講師である佐々木昭友には、イヴォンヌと自らを呼ぶ風変わりな教え子がいる。
 イヴォンヌの本名は高野さくら。そして今回のお題は、さくらと一卵性双生児で姉の高野かえでが故郷の徳島から持ってきた古地図。羊皮紙に描かれた正体不明の地図には、1590年に作成されたものであること、作図者はヨハネス・Wなる者であることが記されていた。かえでによると、曽祖父がかのモラエスから譲り受けたものだという。
 ヴェンセスラウ・デ・モラエス。元ポルトガル軍人にしてポルトガル在神戸領事、亡くなった妻よねの故郷である徳島に移り住み、母国の政変もあって不遇のまま亡くなった。
 前作から2ヶ月後、ようやく念願の美術コンサルタントとして事務所を開いた神永美有が古地図の謎を解き明かす。

「早朝ねはん」
 着想というか、これが一番面白いと思いました。
 真言宗の名刹から大改修の際に漏れ出た、仏涅槃図。仏涅槃図とは、釈迦の死を描いた絵のこと。死因はキノコか豚肉の食中毒と言われてる。宝生台(ベッド)に横たわる釈迦の周りで弟子や動物が嘆き悲しむ様子が描かれてることが多いが、この絵は周りにバラバラの七福神が描かれていた。
 自衛隊上がりの風変わりな画商の勧めもあって、この涅槃図を14万円で買おうとした佐々木だったが、その倍近くの値段でこれを買いたいという、ある女性が現れる。さらに絵が漏れ出た当の真言宗の名刹からも、この絵を是非にも買い戻したいという申し出があり・・・。
 事務所を開いて1ヶ月、初めて依頼人がきた美術コンサルタント・神永美有による、圧巻! 絵の謎解き。

「論点はフェルメール」
 フェルメールは名前や作品こそ有名だが、どこで誰に絵を学んだのか、絵だけで暮らしが成り立ったのか、そんな基本的なことさえわからない謎多き画家だという。
 佐々木に突然届いた手紙。送り主は、衆議院議員・長原耕三郎の息子で、当家所属の絵画に関して相談があるという。
 出向いた佐々木が目にしたのは、フェルメールの代表作「天秤を持つ女」の稚拙な複写と思われる絵だった。
 そして佐々木が彼に頼まれたのは、「この絵がフェルメールより上であることを証明する」ことだった!
 同じように、神永は父である衆議院議員・耕三郎から「この絵がフェルメールより下であることを証明する」ことを頼まれていたのである。政治とは弁が立たなければ話にならない。父と息子が一枚の絵を挟んで繰り広げる白熱したディベート。真実より肝心なのは真実への道筋である。

「遺言の色」
 京都市内の大学の造形学科助教授になることが決まった佐々木。後2ヶ月で都内の女子短大を去ることになる。
 しかしそれを待たずに、京都まで赴く用事ができた。しかも神永を伴って。
 1ヶ月前、長岡京に住む母方の祖母が亡くなった。祖母は39点に及ぶ貴著なガラス工芸品を遺していた。
 そして祖母の遺産を分配するにあたって、彼女は“試験問題”を弁護士に託していたのである。
 病に伏せる母に代わって参上した佐々木と、助っ人の神永。対するは、遺産を独り占めしようと企む母の姉と、かつて神永がきっかけとなって某国立美術館を追い出された元学芸員の清水純太郎。
 古今東西の美術工芸学識を総動員した、異例の学術勝負の幕が開く!


 

 
 
 

 
 
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