「月の欠片」浮穴みみ

 明治9年。
 築地外国人居留地の近く、木々に囲まれた瀟洒な2階建ての洋館「西洋喫茶都鳥」を見上げて佇むひとりの青年。
 女物の浴衣にくたびれた袴をつけて、小さな行李を背負った姿は、滑稽なほどみすぼらしい身なりだというのに、不敵に胸を張り背筋を伸ばし、まっすぐに凛々しい顔を上げている。その腰には、見事に黒光りする木太刀があった。
 青年の名は、佐々木琢磨16歳。元会津藩士である。
 6歳の時(明治元年)に会津若松城が落城、主を失くし家族も失くした琢磨は、学問を修めて立身出世を果たし、学問で敵討ちせよと言い聞かせられて、13歳になって単身で東京に出てきた。
 しかし、少々気が短くできている琢磨は、書生や下働きをしながらも、なかなかひところに落ち着けず流浪の身の上であった。今回、紹介された「西洋喫茶都鳥」を寄宿先として、外国人居留地で医師兼宣教師をしている異人の学問所で勉学に励む予定であったが、ここを追い出されるようだと、もういけない。琢磨にとって最期の機会である。
 「都鳥」の主人は、外国に密航した経験もある、片桐祐三郎という30歳前の元旗本だという。
 琢磨は緊張しながら、店に入った。なんと、はからずも気に入られた琢磨だったが、主人の異能力によって思わぬ事件の渦中に巻き込まれる。
 祐三郎の異能力は、知らずうちに他人の強い感情、記憶を見てしまうというものであった。
 祐三郎が見た“記憶”は、3人の輩に討たれて無残に死んだ武士の仇を討とうとしている男の感情だった。
 匕首を持った輩に、武士が刀を抜いた瞬間、急に夜空が、星屑でも撒いたようにきらきら光って、まるで月の欠片が降ってきたかのようだったという。
 やがて築地界隈で、切腹を装った謎の変死事件が起きるのだが・・・

 うーん、ストレスもなくサクッと読めるのはいいんですが、面白いかどうかはわかりません。
 少なくとも、時代ミステリー小説として読むのであれば落第であろうかと思います。
 片桐祐三郎の人間性は面白いのですが、発端となる彼の異能力の存在は果たして必要だったでしょうか。
 要らなかったでしょう。なんとなく、全般的に作りが浅いですよね。
 書き下ろしのやっつけ仕事がバレバレというか。
 でもまあ、いいところの片鱗もありましたよ。
 明治維新というのは、武士にとって生活基盤の底が抜ける驚天動地の大変動でした。
 多くの武士は、藩士や旗本という地位を失ったまま、それでも武士としての誇りを持って、明治という新しい時代を生きていかなければなりませんでした。
 琢磨が木刀を持っているように、刀が差せなくなりました。明治6年には、敵討ち禁止のお触れも出ています。
 耶蘇教の布教が解禁されて外国人が続々とやって来、明治5年には太陽暦が採用され、12月3日が明治6年元旦になりました。明治9年には日曜日をもって休日とする、太政官の布告も出ています。
 この小説には、刀をもぎ取られた武士の苦悩と、新しい時代に順応するべく前を向く若きサムライの姿が案外、うまく描かれていると思います。
 そう、唯一それがこの本の読みどころと言っても過言ではありませんね。
 極寒の世界で日本刀が粉々になるのがホントなのかは知りませんが、抜き放った刀身が“月の欠片”になってしまうのは、あたかも明治という新時代に身一つで放りだされた、旧来の武士そのものを暗示していたようです。


 
 

 
 
 
 
 
 
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