「カレイドスコープの箱庭」海堂尊

 2009年10月19日。東城大を震撼させたAiセンター炎上事件から2ヶ月。
 病院存続の危機の最中、いつものように4Fの病院長室に呼び出された田口公平。
 いや呼び捨てはまずいですね、というのも彼は講師から昇進して神経内科学教室の准教授になりました。
 さらに不定愁訴外来の責任者であり、Aiセンターのセンター長、リスクマネジメント委員会の委員長でもあります。
 すでに、東城大学附属病院の重要人物とも云える地位に就いているのです。自他ともに認めないけど。
 それでありながら、さも便利屋のように高階病院長からまたまた依頼をされてしまいます。
 それも重大案件を2つ(;´Д`)も。
 1つは、今月初めに起きた、誤診の疑いがある患者術後死亡事件についての調査。
 もう1つは、来月に東城大で開催されるAi標準化国際会議を責任者としてお膳立てすること。
 Ai会議は作者のただの趣味(公私混同)ですが、院内事故のほうは深刻です。死亡した患者は70代男性。検診で肺陰影を指摘され、気管支鏡検査にて癌と診断、今月初めに呼吸器外科で手術されましたが、術後一晩ICUに滞在し翌日病棟に戻った2日後の真夜中に突然心停止、蘇生もままならず死亡しました。Ai(死亡時画像診断)にて、遺族に手術の不手際ではないことを説明、了解を得ていましたが、10日前、遺族のもとに匿名で病理の誤診だという内部告発がありました。三船事務長が内偵したところ、誤診ではなく、検体取り違えの可能性もあるというのです。
 術者となった呼吸器外科、検査をした気管支鏡室、そして調査の本丸である病理検査室を尋問する田口。
 その結果、臨床から評判がよく、“牛丼鉄人(うまい、早い、気安い)”と呼ばれる牛崎講師が、結核結節と扁平上皮癌を誤診するという、信じられないような初歩的ミスを犯していたことが明らかになりました。
 ただし、牛崎講師は、鏡検したときは絶対に癌であり、自分は絶対に診断ミスも検体取り違えもしていないと言うのです。外部監査として田口の助っ人をすることになった厚労省の白鳥圭輔は、一発大逆転で彼の無罪を証明するというのですが・・・そんな白鳥の用意したもの、それはカレイドスコープ(万華鏡)でした。

 もう読むつもりはなかったんですけど、ついつい読んでしまいました。
 パラパラとめくると、どうやら活字が多くて、私の嫌いな海堂節が少なくて真面目そうだと思ったんでね。
 この人はね、夜中に酒を喰らいながら書いているのかどうか知りませんが、フザけすぎるところがあります。
 本業は医学博士で日本におけるAi推進の旗頭でもあり、元より小説家ではありませんから、なめてかかっておるわけではないでしょうが、創作初期よりもずいぶん作品の質は落ちました。
 真面目に書きさえすれば、医学者という特殊な経験的立場から、興味深いものを作る才能があるだけに惜しいです。
 でも、本作は、ここ最近のものと比べるとだいぶマシではないでしょうか。
 「ガンコロリン」とかもう、最低でしたからね。出版社にクレームしようかと思いましたよ。

 特に今回良かったのは、シリーズ始まってからのテーマであるAiが、なんとなく「まとめ」られたことでしょうか。
 死の三徴は、呼吸停止、心停止、瞳孔散大ですが、このうち呼吸停止と心停止は機械によって補助することが可能です。現在、機械によって補助できないのは、瞳孔散大に代表される脳機能の停止、つまり脳死です。
 これは医学の発展によって出現した、新しい死の形であり、移植用臓器の提供を生みました。
 すると、Ai(死亡時画像診断)は、何をすることになるでしょうか。実は死因を特定することよりも、「死」を判定することになるのではないですか? これは一瞬、理解し難いのですが実に微妙な問題ですね。
 医学が高度に発展した現代社会においては、生と死の狭間はグレーゾーンの幅広い緩衝帯があるのです。
 未来に、死体を冷凍保存しておけば蘇生できるかもとなると、もはや完全な死体すら死んでいるのか生きているのかわからなくなるでしょう。こんなことは今まで考えたこともなかったので、収穫でしたわ。
 科学技術が発展すればするほど、死というものの正体は見えにくくなるのです。
 また、Aiに日本の各省庁がこれだけ関係するのかということも、流行りモノへの権益といいますかね、行政というのはホントめんどくさいもんだなと改めて思いました。主導官庁の厚生労働省と警察庁はともかく、大学管轄として文部科学省、地域の救急医療に関わる総務省、自衛隊を主管する防衛庁、海上の遺体を扱う海上保安庁、さらには最先端技術を扱うために経済産業省も首を突っ込んでくるとなると・・・

 誤診ミステリーのオチは、まあ、この作家にしてはこんなもんでしょうか。
 「結局、誤診は手術と関係ないよね? 死因は何だったの? 意味無いじゃん」と言わないように。
 犯人は目星がついても、検体取り違えのとこらへんは、わかりにくかったでしょう。
 結局、わかりやすく言うと、牛崎講師が「癌」と診断したサンプルと、「結核」と診断したサンプルを、後からラベルだけを貼りかえたという、単純至極なものです。なのに、どうしてあれほど説明が複雑だったのでしょうね。
 ほんとにこの作者は、大袈裟というか、ふくらし粉というか、下手なのか器用なのかわからないところがあります。
 ただし、ラストは、これまでの全作品を通じて一番の出来と言えるくらいに、カッコよく決まっていました☆


 
 
 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

- 藍色 - 2016年09月06日 11:40:01

安心して読んでいられるっていうか小休止っぽい1冊でした。
緊迫感で読ませる話も好きですが、こういうひと息感もいいですね。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

トラックバック

粋な提案 - 2016年09月06日 11:31

「カレイドスコープの箱庭」海堂尊

なぜか出世してしまう愚痴外来の元窓際講師&厚生労働省の変人役人の凸凹コンビ、最後の事件! 閉鎖を免れた東城大学医学部付属病院。相変わらず病院長の手足となって働く田口医師への今回の依頼は、誤診疑惑の調査。 検体取り違えか、それとも診断ミスか!? エーアイ国際会議の開催に向けて、アメリカ出張も控えるなか、田口&白鳥コンビが調査に乗り出した――。 巻末には、「登場人物リスト&桜宮市年表...

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