「人類進化700万年の物語」チップ・ウォルター

 ストレスがたまるというのは、生物としてその環境や社会に適応できていないということらしいです。
 地球上に初めて人類が出現してから約700万年(サヘラントロプス・チャデンシス)。
 私たち人類(ヒト族?)の1種であるホモ・サピエンスが地球上に現れてから約20万年。
 地球という惑星に生命体が誕生したのは約38億年前ですから、人類の歴史なんてまだまだ僅かです。
 だから、地球の歴史に比べれば、ほんの一瞬前まで私たちはフリチンで走り回っていたということなのですよ。
 それが今や偉そうに石油で出来た服など着て、電波を受信する機械を持ち、自動で動く馬に乗っています。
 それでほんとうに良かったのですかね。
 そりゃフリチンの頃からオスにとっては、メスを巡る争いでストレスはたまったことでしょう。
 孔雀が美しい羽を競うように、現代の人類は腕力に代わって、富や知力、名声で力を得ようとしています。
 おそらく、フリチンで腕力勝負をしていた頃は、争いに敗れれば死んでいたんじゃないですかね。
 死ねばストレスを感じる暇もありません。それに、平均寿命は30歳代であったはずです。
 社会が複雑に、人類が長寿になったことが、あらゆる“悩み”の原因である、とはいえないでしょうか。
 でもね、誕生当初の人類は、大型の肉食獣と生活圏内が重なっていたため、24時間がサバイバルゲームであったのですよ。生きること自体が仕事でした。どっちが楽しいでしょうか?

 私たちホモ・サピエンスは、約7万年前に、絶滅寸前の状態に陥りました。
 インドネシアの火山噴火と、氷河期が重なったのですね。
 このとき、ホモ・サピエンスの個体数は地球全体で1万人以下にまで落ち込み、南アフリカの先端でわずか数百の個体数の集落が、我慢強く苦境に耐えて生き長らえていなければ、私たちはこの世にいなかったかもしれません。
 ミトコンドリア・イヴというのがいるでしょう。現存している人類のすべてのミトコンドリアDNAが経由しているアフリカの女性です。彼女の存在も、ホモ・サピエンスの個体数が激減した時代があったからこそなのですね。
 その滅亡しかけた種族が、なんと今や地球上に、約70億も生息しているというのは、どういうわけなんでしょう。
 これだけでもびっくりですが、それだけではありません。
 ここ180年の研究で、偶然に発見した証拠(笑)によって、27種類の人類が地球上に現れていたことが明らかになっています。有名なアウストラロピテクス・アフリカヌスやネアンデルタール人、アフリカの平原で120万年前まで生息していた頑丈型系統の人類パラントロプス・エチオピクスや、身長1メートルの“ホビット”ホモ・フローレシエンネスなど。
 しかし、彼ら26種類は絶滅し、ホモ・サピエンスという1種類しか残りませんでした。これは事実です。
 もちろん、ホモ・サピエンスの20万年の足跡は95%ほどが謎であり、遺伝学の進歩や放射性炭素年代測定法の革新は、わずか数年でそれまでの人類系統樹の概念を変化せしめたほどで、実はもっとたくさんの種類の人類が地球上に生息していたとして不思議でないにせよ、どうして私たちだけが生き残れたのでしょうか?
 そしてなぜ他の人類と共存できなかったのでしょうか?
 今の地球上には、ライオンやトラ、ヒョウなど同じ種族でも動物は共存できているのに、なぜ人類だけが?
 5万年前にアフリカを出たホモ・サピエンスがヨーロッパで出会ったネアンデルタール人は、けっして棍棒を振り回すような野蛮人ではありませんでした。当初は対等的立場であり、同じような道具を使い、ネアンデルタール人は私たちより早く死者の埋葬の習慣も持っていたことが遺跡から明らかになっているのです。
 しかしネアンデルタール人は、2万8千年前くらいに絶滅しています。そして現存人類の数十億人には、ネアンデルタール人のDNAが数%混じっているのです。これがミステリーでなくて何がミステリーですかね。

 どうして私たちだけが残ったのか。どこまでが事実か著者の推測かはわかりません。
 著者が重要視しているのは、脳の進化。
 ホモ・サピエンスは、ネオテニー(成体に幼体の特徴が保存されていること)、つまり幼形進化の特性がありました。
 猫や犬は生まれて数年で大人になりますが、ホモ・サピエンスは子供の期間が異様に長いのです。
 つまり、進化の過程で、母親の胎内から早産するシステムは母体の負担を減らすと共に、脳が色々なことを学習する子供の期間が長いということで、それだけ脳が大きくなる余地があったということです。
 その結果、個人の経験によって形作られる「心」が次第に創りだされていきました。
 脳が爆発的に成長する子供期間が長いことによって、「心」が生まれ、道徳が芽生え、共同社会を可能にしたのです。
 一方、ネアンデルタール人は15歳で成人になっていました。ホモ・サピエンスの平均初産年齢は19歳であり、この数年間が運命の分かれ目となったのです。ヨーロッパや西アジアが拠点のネアンデルタール人は、地球上に最大でも個体数7万であり、小さな社会単位で生活していたと考えられています。
 5万年前にアフリカから一挙に旅立ったホモ・サピエンス(アフリカ起源説)は、瞬く間に地球上を席巻していきました。
 このとき、地球上にはデニソワ人など190万年前にアフリカを出たホモ・エレクトスの子孫もいましたが、おそらくホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人を飲み込んだように、進化した脳が生んだ社会特性で少数帯を同化していったのではないでしょうか。闘争の形跡は見つかっていないだけもしれませんが、見当たらないのですね、今のところ。

 もっとも、「わしはホモ・サピエンスになった!」とかいう瞬間がそのときわかったものではありません。
 ひょっとしたら、現生人類も次の種族に変化しつつあるのかもしれませんが、きっと誰にもわからないでしょう。






関連記事
スポンサーサイト

この記事へのコメント

- なし - 2014年07月08日 17:06:29

てすと

トラックバック

URL :

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新記事
カテゴリ
ミステリー (92)
ミステリー短編集 (17)
歴史ロマン・ミステリー (17)
冒険ロマン・ミステリー (14)
サイコホラー・ミステリー (15)
学園ホラー・ミステリー (14)
民俗ホラー・ミステリー (10)
政経・金融ミステリー (18)
ファンタジックミステリー (22)
近代・昭和ミステリー (14)
オカルティックミステリー (7)
青春・恋愛ミステリー (21)
医療小説・ミステリー (22)
伝奇小説・ミステリー (14)
時代人情小説・ミステリー (18)
時代冒険小説・ミステリー (19)
社会小説・ミステリー (15)
スポーツ小説・ミステリー (10)
アーティスティックミステリー (12)
海外ミステリー (28)
海外冒険小説・スリラー (17)
SF・FT・ホラー (26)
SF・FT・ホラー短編集 (13)
海外SF・FT・ホラー (17)
クライシス・パニックサスペンス (12)
警察・諜報サスペンス (29)
悪漢・犯罪サスペンス (30)
中間小説 (24)
青春・恋愛小説 (32)
家族小説・ヒューマンドラマ (31)
背徳小説・情痴文学 (14)
戦記小説・戦争文学 (19)
政経・金融小説 (14)
歴史・伝記小説 (23)
芥川賞受賞作 (19)
直木賞受賞作 (19)
文学文芸・私小説 (24)
海外小説・文学 (12)
文学アンソロジー (54)
歴史・伝記 (30)
戦史・戦記 (31)
海軍戦史・戦記 (150)
物理・宇宙 (26)
生命・生物 (37)
アンダーグラウンド (46)
事件・事故 (38)
世界情勢・国際関係 (25)
スポーツ・武術 (24)
探検・旅行記 (22)
随筆・エッセイ (30)
月別アーカイブ
プロフィール

焼酎太郎

Author:焼酎太郎
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム
最新トラックバック
リンク
QRコード
QR
RSSリンクの表示