「生物と無生物のあいだ」福岡伸一

意外に文学的表現が多く、著者自身が研究生活をしたニューヨーク、ボストンの情景描写は詩的でさえあります。
どうしてでしょうか。
分子生物学者である著者はこれまで何冊かの本を出しており、私はそれらを知らないのですが、あえて勘ぐるなら、本書のテーマは「生命」とは何か?であるからで、その真実が現代科学では解き明かせていないからだと思います。つまり、それは評論文ではなく曖昧で混沌としたポエムの域を未だ脱していないのです。

ですが、著者はその輪郭を捉えてはいるのです。本書にあるそれを列挙すると、
「生命とは自己複製するシステムである」(DNAは二重らせん構造で複写ができる。とかげのしっぽ)
「生命の根幹をなす遺伝子の本体、DNA分子の発見と構造の解明は生命をそう定義づけた。そして動的な秩序。ここに生命を定義するもうひとつの規準がある」(貝と石の違い。生命は美しい秩序があり、それは動的である)
「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力を持っている」
「生命とは要素が集合してできた構成物ではなく、要素の流れがもたらすところの効果なのである。生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)である」
つまりですね、本書で著者はその「動的平衡」を砂浜の楼閣にたとえていますが、わたしたちの体は常にタンパク質が代謝して入れ替わっているわけです。老廃物は捨てられ、飲み食いしたものは体の隅々にまで行き渡るのです。そこでナノレベルでの交換が常時行われており、昨日会った友達はすでに分子レベルで言えば同一個体ではないのです。
でも見た目、同じですよね?
人間の眼の解像能力は直径0.2ミリが限界らしいですから。
でも一カ月たてば、「あ、太ったな」とかわかるわけです。でも、友達は友達ですよね、別の何者かになったわけじゃない、これが私なりの動的平衡の解釈。大きな枠は守られているということです。
難しいんですが、わかりやすい話なんです。
あと、詳しくは説明よくできませんが、著者のいう面白いこと、「生命と機械の違いは時間」
機械はどの部品からでも組み立てることができ、出来上がりに時間は関係ありません。
生命は遡ることのできない折り紙のようなもので、発生から時間をかけてDNAの情報のもとある程度の神秘的な融通を持ってダイナミックに生まれてくるのです。
そして、「ウイルス」。著者はこれを生物と無生物のあいだを漂う何者かと表現しています。
それが読み始めで出てきたので私はてっきりこの本はウイルスがテーマかと、勘違いしました。
もちろん、いきなり野口英世が実績もともなわない山師扱いで登場してきたのが一番びっくりしましたが。
渡辺淳一の「遠き落日」、読んでみなくてはなりません。

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