「推定脅威」未須本有生

 本年度(2014)の第21回松本清張賞受賞作「推定脅威」を読みました。
 作者の未須本有生(みすもとゆうき)さんは、1963年長崎県出身、東大工学部卒業後に航空機メーカーに勤められ、現在はフリーのデザイナー。本作が小説家としてデビュー作になります。
 新聞の広告では、けっこう派手に宣伝されていましたね。
 広告で絶賛されている小説は、最近よく出てくる嘘ばかり云う書店員もいることですし、あまり信用はできないと思うのですが、本作の場合は事情が少し特殊でして、というのもテーマが珍しく、誰でも書ける内容ではありません。
 医者が書く医療ミステリーや、弁護士が書く法曹ミステリーもこれに当たりますが、私が思うにそれらよりも特殊ではないでしょうか。
 
 本作のテーマは、理系ミステリと形容されているのを見かけましたが、ズバリ航空機。自衛隊の戦闘機。
 そう、航空機メーカーに勤めていた作者だからこそ書ける、航空機にかかわるミステリーなのです。
 もうね、専門的なカタカナ用語がたくさん。自衛隊の業界用語というのかな、それも難しい。
 たとえば「機体の制御は、オーソドックスな、デジタル四重のFBW(フライ・バイ・ワイヤ)が採用された」とか言われても、どこらへんがオーソドックスなのかどこからが変態的なのかもう、意味不明(笑)
 まあでも、そんな細かいことは気にせず読んで問題ないんですけどね。
 それが理解できる人間は多くありません。ミサイルやアフターバーナーなどの感覚的な意味さえわかればいいのです。
 作者だって航空の専門家ですが、経歴を見るとメーカーを退職したのは十数年前のことです。
 当時も今も航空自衛隊の主力要撃戦闘機はF-15ですが(息が長すぎる!)、IT関連の発達もあって、航空機の最新技術はずいぶん様変わりしているのではないでしょうか。それなのに、本作の内容はこちらが素人だからかもしれませんが、最新のものに感じます。コックピットだって、タッチ式の液晶パネルが2枚あるだけって書いてあります。飛行機の操縦席って計器がごちゃごちゃしている印象しかないんですが、タッチパネルつうんだから、時代だわなあ。
 まあ、いかに専門家とはいえど、技術は日進月歩なので難しいところもあっただろうということです。
 ちなみに、作者はフリーのデザイナーを今はしているらしいですが、本作の登場人物に同じような経歴の人間が出てきます。この人間がミステリーの謎を解くキーマンなのですが、自身を投影しているのかもしれません。
 だとすれば、実はその人間が恋愛をするのですが、その部分が妙に生臭いというか、リアルにイカ臭く感じられるのもうなずけます。

 では、少しあらすじ。
 12月10日、防空識別圏に侵入した国籍不明機に対するスクランブルで、航空自衛隊小松基地から発進した、戦闘機TF-1が冬の日本海に墜落した。パイロットである蒲原雅人一尉は、機体共々行方不明である。
 事故機であるTF-1は、現状の主力戦闘機F-15が旧式となったものの次期主力戦闘機F-35の導入が難航しているため、それまでのつなぎとして通常はパイロットの訓練に供し、有事には防空任務の作戦が可能である航空機を国内で開発する、というTF構想から生まれた機体で、戦闘機として実戦に適用するが、主眼はあくまでも練習機である。
 設計製造の主契約者は、浜松に本社がある後発の航空機メーカー・四星工業で、現時点で20機が運用されている。
 開発のコスト低減や期間短縮のため、主力の要撃戦闘機と比べ、要求レベルが緩和されたTF-1の諸元は、最高速度は外装物がないクリーン状態でマッハ1.6、フル装備でマッハ1.2、最低速度は120ノット。最高高度は6万フィート。
 搭載武装はMRM(中距離対空ミサイル)2発、SRM(短距離対空ミサイル)2発、20ミリガンというシンプルなもの。
 外見上最大の特徴は、垂直尾翼がないということ。水平尾翼を上向きにすることで機能を兼ねている。
 レーダー能力も従来機以下にとどめられ、電子戦能力やステルス性もない。
 問題となった事故であるが、自衛隊と四星工業による解析では、アラートの対象となった領空侵犯機は小型の双発プロペラ機で、蒲原機は低速の相手機を追ううちに、低高度、低速という条件下で突風等なんらかの気流の影響で飛行のバランスを失い失速、操縦不能になったと見られた。
 ところが、である。また、事故が起きた。
 12月の蒲原機の事故から半年後、後任として4月に小松基地に着任したばかりの波江一尉が、領空侵犯機に対するスクランブル時に、TF-1のエンジンが突然停止、波江一尉は脱出し無事だったものの、機体は墜落したのだ。
 相次ぐTF-1の事故の裏に潜むものはなにか?
 TF-1は実は欠陥機だったのか? プライムコントラクターの座を奪われた国内屈指のメーカー三友工業の陰謀か?
 それとも、敵対する東アジア国家の新兵器に撃墜されたのか・・・
 製造者である四星工業に入社して3年目、技術管理室の好奇心旺盛な女性技術者・沢本由佳が事故の謎を追う。


 
 
 
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