「巨大戦艦大和」NHK取材班

 昭和20年4月6日午後3時20分。
 山口県徳山湾沖から、大和以下10隻の艦隊が出撃した。帝国海軍最後の艦隊である。
 片道分の燃料だけを積んで沖縄に突入し、浅瀬に乗り上げ、主砲その他あらゆる兵器を用いて米軍を撃滅するのだ。
 生還は期し難い特攻艦隊である。大和の第2砲塔の壁面には「総員死ニ方用意」と描かれていた。
 別府沖にかかったとき、当直員以外は全員上甲板に集合、整列して東に向かい「宮城遥拝」した後、異例の「故郷遥拝」の号令が出た。ここで各自、自分の故郷に向かって最後の別れの挨拶をすまし、“海ゆかば”を合唱したという。
 「陸では桜が満開でね。風がきついんで艦の上まで花びらが飛んできて。それにはもう感激しましたね。そんなぎょうさんじゃないですが、パラパラパラパラ、風に舞って飛んできて。甲板にも落ちました。私は手で受けて。もうこれで二度と帰られないんだ、これは大事にしとこうと思って、お袋の写真と自分の写真と一緒に胸のポケットに入れました」
 八木理さん(運用科防火防水担当・大和乗艦昭和18年1月~)


 うーん、一気読みでした。さすがNHK取材班、前から戦争物は強い。
 本書は、2012年にNHKで制作放送された番組をもとにまとめられたものです。
 私も少しだけ観ました。あんまり大和は好きではありませんでしたものでね。
 源田実が言ったように、大和1隻で何千機もの飛行機が製造できる資源を使用しています。
 はっきり言って、ムダだったでしょう。そして、大和は敵の艦を1隻も撃沈していません。
 戦艦ならたとえば「比叡」とか、いかにも戦艦らしくソロモンで大暴れして最期を迎えたじゃないですか。
 「伊勢」だって、今も海上自衛隊の艦に名前が引き継がれているくらい、強かった戦艦です。
 別に戦艦じゃなくても、大和や武蔵の何十分の一の大きさの小艦艇でも、大和よりも活躍した艦はいっぱいあります。
 いったい大和とは何だったのでしょうか。シブヤン海で犬死にした武蔵よりはマシですけどね。
 戦艦大和の一生は、明治以来の日本人の努力の結果、アジア唯一の近代工業国家となった日本が無謀な戦争に突入して、無惨に敗北した歴史に重なります。
 大和の46センチ主砲の射程は41キロメートルです。アメリカの戦艦は40センチ砲でしたから、その射程圏外つまりアウトレンジから攻撃できるようにしたわけです。大和の建造が始まったのは、昭和12年7月でした。
 しかし、大和が完成する1週間前の、昭和16年12月8日、真珠湾攻撃で戦場の主役に踊り出たのは航空機でした。
 戦艦の主砲の射程などまったく関係ない長距離から航空機は飛んできます。これが時代の趨勢です。
 国の命運をかけたアメリカ太平洋艦隊との決戦、その来るべき日のために莫大な国費と資源と情熱を傾注して建造された大和と武蔵は、あっという間に無用の長物と成り果てたのです。

 しかし、3000名を超す乗組員には何の罪もありません。
 むしろ、本書を読んでその敢闘ぶりに感動しました。大和の乗組員は優秀でした。
 大和にはハンモックではなく壁掛け式のベッドがあり、ロッカーもあり、冷房が効いていました。
 しかもトイレはすべて洋式水洗、ラムネを作る機械まであり、その快適さは他の艦とは天と地ほど違いました。
 大和ホテルと呼ばれていたそうです。
 しかし、なかなか実戦に恵まれなかったために、艦内の訓練や制裁は大変厳しいものでした。
 ミッドウェーでも役に立たなかった大和は、それから2年間にわたり、いつ訪れるともわからない決戦の機会を待ちながらトラック島と柱島を行ったり来たり無為に過ごしていたのです。
 昭和19年10月にレイテ湾殴り込みが決まったときには、悲惨な戦闘が待っているのにかかわらず、艦内はやっと実戦ができるとワクワクしていたそうです。
 武蔵が沈んだ10月24日の対空戦闘では、長さ2メートルの大和の主砲弾に996個の焼夷弾を詰め込んだ対空用三式弾をぶっ放し、12基24門の高角砲、132梃の3連装25ミリ機銃をフル動員して襲い来る敵機と戦い、5時間の戦闘の末、2発の爆弾を受けたのみでした。

 11月16日にブルネイを出港し呉に帰った大和は、燃料不足から満足に訓練もできないまま、運命の沖縄海上特攻を迎えることになります。
 こんな無謀というかヤケクソな作戦を誰が考えたのかというと、連合艦隊首席参謀の神重徳大佐らしいです。
 大和を旗艦とする第2艦隊司令長官伊藤整一中将は反対していました。当たり前です。
 しかし参謀長である草鹿龍之介中将の「1億総特攻の先駆けとなってほしい」の言葉に説得されたのです。
 神重徳は戦後すぐに海で溺れて死にましたが、おそらく大和他このときの特攻艦隊の戦死者に海の中で足を引っ張られたのでしょう。ざまあみろ、ですな。こんなカスが上にいるんだから、日本は戦争を始めることになり負けたのです。
 4月6日に沖縄に向かった艦隊が襲われたのは、4月7日の昼過ぎ、鹿児島県坊ノ岬から西に200キロの地点でした。
 乗組員の昼飯は竹の皮で包まれた大きな握り飯2個に福神漬け、煮抜きの玉子がひとりにひとつ付きました。
 せめてもの救いは、乗組員が昼飯を食べた後に戦闘が始まったということでしょうか。
 ちなみに前の晩は艦内総出で最後の宴会、洗濯桶に日本酒をブチ込んで酌飲みしましたが、いくら飲んでも酔えなかったそうです。死ぬことがわかっていますからね。そしてこの日の晩には明日は沖縄だということで、ぜんざいが振る舞われる予定でしたが、結局これを口にできた人間はいませんでした。
 このあと本書はクライマックスを迎えます。生存者の死闘です。海中での大和の爆発、漂流する乗組員を笑いながら射撃するアメリカの戦闘機など、「運命の分かれ目」というべき重要なことはこれから始まるのですが、非常に貴重な生存者の方々の証言がありますから、それは本書で読んでいただきたいと思います。
 数波におよぶ敵機の猛攻を受けた大和の転覆は昭和20年4月7日午後2時33分。
 乗員3332名中、3056名が死亡し、帝国海軍の象徴は水深350メートルの海底に沈みました。


 
 
 

 
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