「満願」米澤穂信

 第27回山本周五郎賞受賞作『満願』を読みました。
 表題作含む6篇の、味のあるミステリー短篇集。連作ではなくてそれぞれ独立したお話です。
 だいたい1篇が40~50ページくらいなので、区切りをつけて読みやすいですね。この話読んだら寝よか、とか。
 直木賞候補にもなりました。奥付を見ると、なんと11刷。すんげえ売れてる・・・
 だから云うわけではないですが、巧いんですよねえ。筆力があるのはもちろんですが、すごく読みやすいです。
 プロットも結構練られてるんですが、短編なので複雑過ぎずスパッと切れ味があってわかりやすい。
 最後のオチはいったいどうなるんだろう、と気になって読み進むうちに読み終わるという感じですか。
 もちろん、6篇すべて面白いわけではありません。個人の嗜好もありますからね。
 私が押すのはダントツで、冒頭の「夜警」でしょうか。
 ミステリーとしても抜群だし、これは特に物語に人間性というか深みがありました。
 わずか50ページでこれだけ完成している作品というのは、滅多にお目にかかれません。

「夜警」
 交番に配属されてわずか1ヶ月、23歳の新人巡査が凶悪犯を射殺後死亡した。
 交番長である柳岡巡査部長は、この新人に対して言葉では説明できない危うさを感じていたが、以前刑事課に配属されていたとき、どうみても警察に向かない新人をいじめて不測の事態を招いて左遷されたため、強く当たることができなかった。しかし、警察官に絶対に向いていない人間がいるのは確かなことであり、そういう人間が警察官になっても一般市民が不利益を被るのは確かである。たとえば、臆病者は成りようによっては警察組織に順応できるが、小心者は確実に役に立たないのだ。殉職した新人巡査に何が起きたのか? 警察には、警官には言えないことがあるのである。

「死人宿」
 2年前、上司によるパワハラで仕事を辞めたまま行方不明になっていた佐和子が、栃木の山奥の温泉宿で仲居をしていたことがわかり、かつての恋人はもう一度彼女とやり直したいとばかり、その人知れぬ秘境に向かう。
 しかし実はその宿は、噂の名湯だった。毎年火山性ガスで1人か2人亡くなっている。楽に死ねるために、自殺願望者のあいだでは評判になっていたのだ。佐和子に再会したのも束の間、元恋人は彼女から脱衣所に残されていたという遺書について相談を受ける。現在、宿泊している客は他に3人。このなかに自殺を決行するものがいるはずだが・・・
 胡桃の部屋にだけあった別の浴衣。最期にそれを着るために化粧していたということなんでしょう。
 そして、佐和子はそのことに気付いていましたね。


「柘榴」
 佐原成海という人間は、美男子ではないのに誰もが彼を好きにならずにはいられないという男だった。
 大学のゼミで彼と知り合ったさおりは、並み居るライバルたちとの競争に勝ち、在学中から婚約にこぎつける。
 母は賛成、父は反対だったこの結婚、夕子と月子というふたりの娘が生まれてのち、やっとさおりは成海と暮らす人生に疑問を覚える。彼はいくら待っても定職に就くということがなく、いつもフラフラしていた。
 長女の夕子が高校受験を控えた年、ついにさおりは離婚を決意する。
 色々な意味合いがあるでしょうが、少なくとも夕子と成海にとって柘榴とは「禁断の果実」でしたね。
 後味が悪い作品で私は嫌いです。


「万灯」
 15年前の昭和41年、商社に入社した伊丹は10年後、インドネシアの資源開発で成功をおさめ開発チームのサブリーダーになった。そして2年前、次なる命令が彼に下る。行き先はバングラデシュだった。肩書は開発室長。部長待遇である。
 バングラデシュは厳しい土地だ。役人は賄賂なしでは動かず、雨季になれば国土の4分の1が水没し、50度の熱風が吹き荒れる。しかし、伊丹にとって本当に開発の障壁になるのは地元住民の反対だった。
 まだどこも手をつけていないバングラデシュ北東部の村落で、伊丹は開発に断固反対するマタボール(地元の長老)に突如呼ばれる。その場には、フランスのエネルギー企業に勤める日本人がいた。

「関守」
 伊豆半島の天城連山を越える道のひとつ、桂谷峠。明応2年(1493)伊豆堀越を本拠地とする足利茶々丸は、北条氏を恐れ、これを抑えるために峠に桂谷の関を設けて、通行を試みる人間をことごとく斬ったという。。近年、死亡事故が続発し、“交通系都市伝説”としてフリーライターがこの峠の調査に訪れた。事故現場近くの峠には、駐車場の隅にお堂があるボロボロのドライブインがあり、話を聞くために店に入ったライターを、小さな小さなおばあさんが出迎えた。
 崖から転落して死んだ人間はみんなこの店に寄っていたという。

「満願」
 藤井が弁護士として独り立ちしてから初めて取り扱った殺人事件の被告が、刑期を満了し今朝出所した。
 彼女、元殺人犯鵜川妙子は、藤井の人生の恩人だった。
 昭和46年、司法試験合格を目指す20歳の藤井は、火事でそれまでの下宿を失った。
 困っていた藤井に、先輩が紹介してくれたのが、下宿人を募集し始めたばかりの鵜川家だった。
 鵜川家は夫婦ふたりきりで畳屋を営んでおり、その2階を日々勉強漬けの藤井に貸してくれた。
 夫の重治は口数が少なく無愛想で藤井にいい顔はしなかったが、苦学生の藤井に妙子はなにかと力になってくれた。
 藤井が忘れられないのが、勉強に行き詰まった息抜きに、妙子に誘われ出掛けた調布深大寺の達磨市である。満願成就して用の済んだ達磨が境内の端にある供養所に投げ込まれていた。藤井と妙子は、達磨を買って願を掛けた。
 藤井はもちろん司法試験の合格を祈願したが、妙子が何を願掛けしたのかは知らない。
 それからしばらくして藤井の達磨は見事ご利益をもたらしたが、妙子の達磨はその真っ赤な背中にドス黒い血痕を付着させることになる。あの日あの時、彼女の身に何が起こったのか・・・


 
 
 
 
 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

- 藍色 - 2017年02月17日 12:36:09

いずれも暗示的な短い漢字のタイトル。
良く練られて無駄のない文章。
どれも素晴らしかったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

トラックバック

粋な提案 - 2017年02月17日 12:23

「満願」米澤穂信

第27回山本周五郎賞受賞 2015年版「このミステリーがすごい! 」第1位 2014「週刊文春ミステリーベスト10」 第1位 2015年版「ミステリーが読みたい! 」 第1位 2014年のミステリー年間ランキングで3冠に輝いた、米澤ワールドの新たなる最高峰! 人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。人を殺め、静かに刑期を終えた 妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で...

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