「春の庭」柴崎友香

 第151回(2014年度上半期)芥川賞受賞作です。
 柴崎友香(しばさきともか)さん。
 小学校の先生みたいな柔らかい雰囲気の方ですね。
 先日、思いがけないところと言ってもテレビなんですが、見かけました。
 BSプレミアムで、ハゲのおっさんが「とうちゃこ!」と叫びながら自転車で日本全国を走り回る番組があるんですが、それの総集編というか前夜祭に、出てらっしゃいました。火野正平というか番組のファンみたいですね。
 この物語も季節の花々がたくさん登場しますが、火野正平も見かけによらず草花に精通しています。
 白木蓮とか海棠(かいどう)とか、わかるんですよ、あのハゲのオッサン。
 さすが作家、けっこう面白い着眼点からのお話だったように思いましたよ。
 ぜひ、これをネタにまた新しい小説を書いてもらいたいですね。

 さて、肝心の本編。
 最近の芥川賞受賞作の本にしては珍しく、カップリングはありません。1本の作品のみです。
 つまり、ふつうの受賞作より長い(中編)ということだと思うんですが、長さをまったく感じさせない仕上がりです。
 全体的に淡白というか、あっさりしています。内容も、極々軽いので非常に読みやすいです。
 引っかかるところがありません。
 最後、一瞬だけドキッとさせられる作者のイタズラみたいな場面がありますが、押しなべて平坦です。
 ある意味、非常に安心して読める作品だと思います。
 でもまあ、それなりに作者の工夫というか、読み手によって捉え方が異なるかもしれませんが、テーマがあります。
 ネコアシ、トックリバチの徳利、父の散骨、不発弾、やって来ては去っていく人々・・・
 これらは何を意味しているのでしょうか、おそらく、「形は常に変わる」「世の中は常に動いている」「残されたものには何かが抜けている」「動と静は対比ではなく3次元+時間でリンクしている」的なことなんでしょうね。181ページで突然語り手が変わったのも、「変わらないものはない」というテーマの一環でしょうね。小説の視点でさえ永久不変のものではない。ま、これが世の習いということです。当たり前のことです。だからこんなに読んでいて心地が良かったのかもしれません。
 他にも、西がアパートを引っ越して出て行ったとき、そこはかとない淋しさといいますか、喪失感を覚えました。
 あれは作者の腕なのか偶然なのか、“祭りのあと”のような寂寥感を小説のなかで感じることができる、これは素晴らしい作品であることの証左なのではないでしょうか。
 ちなみに私の頭のなかは、なぜか西がイメージ的に津村記久子になっていました。どうしてでしょうか。

 では、少しあらすじ。
 世田谷区にある築31年の木造アパート「ビューパレス サエキⅢ」は、2階建て8部屋。
 ある日、1階の端の部屋に住んでいる太郎がふと空を見上げて見つけたもの、それは2階の対角線上の部屋のベランダから身を乗り出して、アパートの向こうにある水色の邸宅を熱心に見ているオンナの姿だった。
 黒縁眼鏡のオカッパ頭でお洒落っ気はなく、おそらく30歳過ぎで太郎の少し上くらい。
 オンナは、やおらスケッチブックを取り出して何やら描き始めたが、太郎がこちらを見ていることに気づいて、スッと見えなくなった。彼女は2月に引っ越してきたことは知っているが、話をしたことはなかった。
 物語はここからはじまる。
 ベランダから水色の家を覗いてスケッチしていた2階の部屋の女性は、西という。
 西がどうして水色の家にこだわっているかというと、彼女が大事に持っている「春の庭」という写真集は、水色の家で撮られたものだからだ。「春の庭」は20年前のもので、水色の家に住んでいた夫婦の日常生活やこの家の庭に咲く花々が撮影されたものだった。当時、夫は35歳のCMディレクター、妻は27歳で小劇団の女優だった。
 もちろん、撮影当時の夫婦は、もうこの家にいない。
 それどころか、離婚したという話もある。
 西は、イラストや漫画を描いて仕事にしていた。子供のときから大規模団地のような画一的な住居にばかり住んでいた彼女は、写真集に載っていた水色の家に憧れていたのだ。そして引っ越す時にネットで偶然その家の画像を見つけて、この家の近くのアパートを見つけて住み着いたのである。家ストーカーみたい?である。
 しかし、西がアパートに越してきたときには、空き家だった水色の家は、いつのまにか「森尾」という表札がかかっていた。人が住めば、家はガラッと変わる。森尾家は、4人家族で雰囲気のいい家庭のようである。
 家の中や庭が見たいがために、偶然を利用してするするっと森尾家の奥さんと仲良くなった西。しかし、風呂場だけは覗く理由がなかった。写真集では、壁も床も、黄緑から緑色のモザイクタイルがグラデーションになった風呂場はまるで森みたいで、西の一番気になる場所だった。
 西がなんとか風呂場を覗けるように、太郎は協力することになるのだが・・・


 
 
 
 
 
 
 
 
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