「平蔵の首」逢坂剛

 火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)、略して「火盗改」の長谷川平蔵の活躍を描いた連作小説集。
 6篇の物語は小粒ながらも隠し味でピリリとミステリー風味も効いており、時代冒険ミステリーと云えると思います。

 長谷川平蔵は、天明7年、老中松平越中守(定信)の登用により、火盗改を務めることになりました。
 火盗改とは、江戸時代の重罪である火付け、盗賊、賭博を取り締まる役職です。奉行所とは組織が違います。
 今でいうと何ですかね。奉行所を警視庁捜査一課とすると、火盗改は読んでいるとどこか公安のような雰囲気もありますし、まあ、Gメンみたいな感じ? どうかなあ。組織内部のことはあまり詳しく説明された箇所がないんですよね。
 平蔵の部下には、召捕り廻り方とか内詰め与力とかの職分があるようですが、イマイチよくわかりません。
 そして、実は読んだ後まで知らなかったんですが、実在の人物なんですよね。
 「鬼平犯科帳」というドラマや小説の存在は知っていますが、観たことも読んだこともありません。
 池波正太郎は、剣客商売だけはほぼ完読してるんですが、鬼平や藤枝梅安はまったく手を付けていません。
 だから、他の媒体や読み物に出てくる平蔵と、本作との比較が出来ないのが残念でしたね。
 本作の冒頭では、江戸の盗賊を一掃したという良い評判の一方で、無理な金策をしているという悪い評判もあり、なかなかつかみどころがない人物のように描かれていました。つかみどころがないといえば、本作の6篇を通じて共通しているのは、平蔵には顔がないということです。平蔵はその任務柄、見回りに出るときも深編笠をかぶったままで、人目があるかぎり笠を取りません。捕物に出るときも、目だけ出た革頭巾をつけっぱなしで顔を見せません。
 捕えた盗賊の詮議は素顔をさらして自ら行う場合もありますが、平蔵の顔を見て生き残った盗人はいません。すべて死罪に値する罪人だからです。生きて娑婆にもどる見込みのある者には、平蔵が顔を晒して詮議はしません。
 ただ、例外がありましてね。これも本作の6篇通してのことなんですが、平蔵がこれと見込んだ盗人は、火盗改の手先、つまりスパイですな、押し込み強盗をするような盗賊の一味に潜入したり、様々なその筋の情報を集めてくるのですが、彼ら彼女らは平蔵の顔を見ながら罪一等を減じられ、娑婆に復帰した数少ない例外です。
 6篇通して、彼ら“手先”の活躍と顔のない平蔵のトリックで占められていますから、そういう意味では、この小説は時代諜報ミステリーとでも云ったほうがいいかもしれませんね。ちょっと独特だと思います。

「平蔵の顔」
 盗人稼業から足を洗い、一流の料理屋「清澄楼」で働いている美於は、かつての自分の親分だった黒蝦蟇の麓蔵から頼み事をされる。平蔵の屋敷に出入りしている美於に、誰も知るものがない平蔵の顔を見分けてくれというのだ。麓蔵の弟は荒くたい盗賊で、平蔵に斬り殺された。麓蔵は敵わぬまでもせめて一太刀、弟の仇討ちをしたいという。

「平蔵の首」
 これまで一度も押し込みにあったことがないと豪語する江戸でも十指にはいる薬種問屋・美原屋宗八に、大銅鑼の十九八(とくはち)一味が押し入った。半年前から引き込み(強盗当日に手引する)の友次郎を手代として潜入させ、腕の立つ浪人も連れており抜かりはない、はずであったが・・・先頭を切って押し入った歌吉は様子がおかしいと感じる。

「お役者菊松」
 牢抜けした(ということになった)歌吉は、思わぬところで「兄貴」と声をかけられ飛び上がるほど驚いた。声の主は、大銅鑼の一味で弟分だった伊佐三だった。遠島になったはずの伊佐三がどうしてここにいるのか? 聞けば伊佐三は、牢屋の近所で火事が発生したために移動する途中、あまりの混乱ぶりに神田川に落ちてしまい、捕縛が解けたのだが、馬鹿正直に逃げずに帰ったところ、罪一等を減じられたという。伊佐三は、鉄床の鉄五郎という売り出し中の盗人の仲間になっており、歌吉にも一緒に仕事をしないかと誘う。平蔵の顔を知っている伊佐三。そして面変わりの名人である菊松。思った以上に悪知恵の働く鉄五郎。珍しく平蔵に危機が迫る。

「繭玉おりん」
 油問屋に押し入った親方が無体で火を付けようとしたのを阻止して寝返り、火盗改の手先となって3年になる小平次。今では平蔵の供をして外回りをするほど信頼されている。ある日、小僧と姉貴分の二人組に、平蔵がスリにあった。一部始終を小平次は見ていた。手練のスリである。小平次はその女を知っていた。それは彼が油問屋に押し入ったときに、引き込み役をしていた十郎兵衛の一味、“繭玉おりん”と呼ばれる美形の女賊だった。その事件でおりんはただ一人逃げのびていた。彼女は何を企んでいるのか。

「風雷小僧」
 本所の呉服問屋・江馬屋伝右衛門の店に強盗が入り、現金四百両と上装の反物が盗まれたうえ、小女がひとり顔を膾にされて惨殺された。床の間の掛け軸に裏には〈風雷小僧見参〉と書かれた紙が残されていた。風雷小僧とは、最近江戸を賑わしている盗賊一味で、必ず床の間に推参の紙を貼り残す習性があった。しかし今まで風雷小僧は流血と無縁であった。それがどうして今回は人を殺めたのか? 火盗改の捜査により、殺された小女おせいは身許を偽って働いていたことが明らかになった。さらに、手先の友次郎が、この女の顔を見たことがあるという。おせいは、実は八下がりのおりくという名うての引き込み役だったというのだ。そして米問屋に押し入った如夜叉の鬼五郎という荒くたい盗人が何者かに殺されるにあたり、それぞれの事件の関連から、過去の忌まわしい出来事が姿を現して・・・

「野火止」
 前話の続き。この2篇を通したものが一番おもしろいです。
 押し込み強盗に惨殺された浜松屋おつたの許嫁で、彼女の仇をとるため、盗賊に身をやつし、仇3人のうち2人まで復讐を果たした六三郎。平蔵の策略により彼は捕縛されましたが、なんと平蔵が目論んだ通りのことを、最後の1人である野火止矢左衛門も企んでいたのです。つまり、殺される前にこっちから網を張っておびき寄せるという。そして4年前に上方に飛んでいた矢左衛門は、六三郎を仕留めるために江戸に舞い戻ってくるのです。無論、六三郎が実はもう捕まっているなんて知りません。矢左衛門を捕らえるために、平蔵は風雷小僧捕縛の件を公表していませんでした。矢左衛門は副頭目格で情婦でもある丑松に申し付け、つなぎ屋(盗賊間の連絡係。人集めなど)を通してできるだけ六三郎の人体に似た盗人を集めます。
 矢左衛門の動きを注視し、裏をかいて、先手を送り込もうとする平蔵ら火盗改。
 そして集まった4人の六三郎。彼らは何者か・・・
 ちょっとわかりにくいですが、弁之助がそうです。





 
 
 
 
 
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この記事へのコメント

サエコです - サエコ - 2014年09月30日 01:35:49

はじめまして。
サエコと申します。

逢坂剛さんの「平蔵の首」
まだ読んだことないです。
鬼平犯科帳が好きなので
参考にさせていただきます。

あと
私も本とお酒の組み合わせ
大好きです!

ありがとうございます💛

Re - 焼酎太郎 - 2014年09月30日 16:49:00

サエコさんこんにちはヽ(=´▽`=)ノ

でしょう? 本にはお酒が最高の肴ですよね。
おまけに太らないし。

「鬼平」は池波先生の小説がドラマその他の大本だと思いますが、
残念ながら読んでいません。機会があれば読みたいですね。そしたら比較できますし。

コメントありがとうございました☆

- Sima - 2014年09月30日 20:20:07

はじめまして。
時代冒険ミステリー
そそる感じですね。
池波正太郎はわたしも読んでないんですが、
TVシリーズは見た事あります。
どちらかというと、高橋克彦の小説の方で
鬼平の印象が強いです。

今から探して読むのが楽しみになってきました。

Re - 焼酎太郎 - 2014年10月01日 15:14:53

Simaさんこんにちは(*^_^*)

高橋克彦が鬼平書いてたとは知りませんでした!
これは活字中毒の看板を下ろさなければいけませんなあ・・・
そうだったんですね、平蔵ってそんなに有名だったんですね。
読むまでは、火消しのようなおっさんだと思ってましたから。

勉強になりました。ありがとうございました☆

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海へ出るつもりじゃなかった - 2014年10月06日 19:13

「平蔵の首」読みました

ブログ、第二級活字中毒者の遊読記様で紹介されてて 面白そうだと思った 逢坂剛の「平蔵の首」 書店に行ったら文庫があったので さっそくゲット。 この平蔵ってアレですよ。 長谷川平蔵、イワユル鬼平。 連作短編集です。 最初の話で、いきなり「鬼平の顔」というタイトル。 「残念だが、おれのまわりに長谷川平蔵の顔を見た者は、だれもいねえのよ」 という盗人の親分のセリ...

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