「これを食べなきゃ」渡辺淳一

 晩年はエロ爺化してましたし、それほど好きだったわけでもありませんが、いざいなくなってみると寂しいですね。
 やっぱり、その存在は大きかったんだなあ。渡辺淳一。うーん。
 作家としてももちろん、この方はもしそのまま医学界にいれば、骨移植を専門にして日本の整形外科をリードしていたかもしれない人ですからねえ。非常に優秀な人ですよ。めったに出ない文理両道の達人です。
 晩年はもっぱらエロティック街道をひた走ってらっしゃいましたが、そりゃ女性にはモテるでしょうよ。わかります。
 ただ、スケベなのはわかっていましたが、食いしん坊だったとは知りませんでした。
 
 で、本書は、文理両道かつエロの達人が贈る、食のエッセイ。
 ところどころ、女性の話へと脱線するのもまた一興。
 1985年から87年(50歳代前半)にかけて雑誌で連載されたものを、1995年に手直しを経て刊行されています。
 たとえば石狩のラーメン屋の値段が新しいものに直されたり、エッセイには生きて出てくる氏のお母さんが1994年に87歳で亡くなったことなどが改めて記されたりしています。
 思えば、渡辺淳一さん、長生きの家系だったのかな。刊行された1995年時点で62歳ということになりますね。
 そこから20年近く生きてることになります。残念なのは、あとがきではこの本では書ききれなかった食関係のエッセイをまた書きたいと言っているのに、それが実現しなかったことですね。うん、たぶん出てないと思う。
 なかなか、普通のオッサンらしき面ものぞけてよいエッセイでした。
 たとえば、東京のN駅の立ち食いそばが好きだったのに、ある日突然、店のおばさんに「渡辺淳一さんですよね?」とサインをせがまれて、恥ずかしくてそれ以来行けなくなっとかね。
 また、サブタイトルに食物史とあるように、気の向くまま書かれた随筆ではなく、けっこう研究熱心に調べてウンチク語られていましたよ。「日本人は獲りだすと前後の見境がなく無闇矢鱈と獲りすぎる」なんて今の鰻のこと考えてみると、さすがですよ。20年前の本ですが、逆に今と比較ができて面白いんです。納豆なんて特に今とは浸透度が違うんですね。
 しかし、読んで一番心に残ったのは、この本が小説ではなく生の声に近いエッセイだけに、なおさら「ああ、ここでこうして蕎麦食ってた人は死んだんだ」という切ない気持ちが湧き上がってくることでしょうか。
 これを読んで初めて実感しました。渡辺淳一はもう、いないんですね・・・

「イクラ」関西はおろか東京の寿司屋でもイクラを食べることはない。なぜか? 北海道の母の作ったイクラが絶品だからである。イクラは、よく洗うことが大事。いずれ小説が書けなくなったら、銀座でイクラ丼屋の主人になることを真剣に空想していたという。
「カニ」数あるカニの中でも最も旨いと思ってたのは毛ガニだったが、丹後で松葉ガニを生のまま炭火で焼いて食べると、これが一番だった。
「サケ」淡白で何にでも合うサケは魚の王様だが、初夏のころ三陸以北の太平洋で穫れるトキシラズ(別名バカシャケ)は、王様の中の王様である。
「松茸」土地ブームに乗って地価が馬鹿げた値段に釣り上げられていくように、松茸は貴重だという声にあおられて、必要以上に高価になっているのが、松茸である。
「とうもろこし」北海道ではトウキビという。母に教わったトウキビの茹で上がるのを見極める方法。途中で箸を突っ込み、つまみあげられたら煮えていて、重くて落とすようなら煮えていない。
「ラーメン」昭和23年にススキノで初めてラーメンを食べたとき、こんな旨いものが世の中にあったのかと思ったという。ここに出てくる著者御用達の石狩のラーメン屋なかむらは、今もある。一杯650円から780円になっているようだ。
「飯寿司」魚を麹とともに乳酸発酵させた北海道一部地域の独特の食物。サケとハタハタとニシンとホッケの4種類があり、軽い酸味と塩味が絶妙。
「すっぽん」かつて医者だった私は、精力剤なるものすべてを信じてない。
「漬物」漬物の東西比較考。漬物の宝庫である北海道と東北は、冬のあいだ極端に野菜が不足する。それを補うために考えられたのが漬物である。だが関東以西では、野菜の代替えではなく、ご飯のおかず、あるいはお茶のつまみといった感じで漬物が発達した。
「豆腐」豆が腐ると書いて豆腐だが、豆腐作りに腐らす工程はない。むしろ、非常に高い栄養価といい、豆富という字のほうが正しい気がする。
「雑煮」雑煮の夫婦別れとは、それだけ地域によってお雑煮が違うということを表している。なかでも香川では、雑煮の餅になかにあんこが入っている。これは私もケンミンショーで見ました・・・(・_・;)
「フグ」松坂慶子と築地のフグ料理屋で対談したとき、彼女はフグの黒皮ばかり食べてた。後からわかったところによれば、近眼のためにフグの薄作りをつまめる自信がなかったからだという。
「ウニ」泳ぐことはできても潜ることができない海底恐怖症だったため、ウニを捕まえることができなかった少年時代。これ、わかります。私も海底は恐ろしく怖いです。
「蕎麦」蕎麦の香りと酒の匂いは馴染む。蕎麦屋で飲む酒は最高。タモリも同じこと言っていましたね。
「鱧」鰻や穴子など長いものがまったくダメだったが、厄年を境に全然平気になったという。
「ジンギスカン」昭和27年の春、大学に入った私は入学祝いを兼ねて仲間4人で酒を飲み、一晩に15キロの羊肉を平らげた!次の日、母が起こしにくると、ヒツジの匂いが充満していたという。




 
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