「つばき」山本一力

 「だいこん」という前作の存在を知らないで読んでしまいました(>_<)
 Amazonの商品説明文、もっとどうにかなりませんかね。
 続き物だということを、もっとハッキリと明示してくれなきゃ困るよ、ホント。
 50ページくらい読んだところで、どうもおかしいと思いました。
 登場人物同士が馴れ合いすぎてるし、過去を振り返る場面が多い。これは・・・
 調べて続編だとわかった瞬間、一瞬、太陽フレアが地球を飲み込むかのような怒りが体からほとばしり出た!
 深呼吸を3回(+o+) ここで、少し考えました。
 1・感情にまかせて本を引き裂く
 2・本作はここで読むの置いて前作の「だいこん」を先に読む
 3・前作の存在をとりあえず無視して本作を読む
 結局、私が選んだのは3でした。
 前作でも色々あったようで、特に閻魔堂の弐蔵とつばきの関係など、それを知らないのはとてつもないハンディであろうと思いますが、我慢して読んでいるうちにだんだんと面白くなって来て、中盤では前作の存在などまったく気にならなくなっていました。うん、ふつうに面白かったです。
 山本一力は初めて読む作家ですが、なるほどこういう感じなのかと。
 時代人情小説としては、同じく江戸っ子を描くのがべらぼうに巧い浅田次郎の腕にはとても及びませんが、なにかこう、独特なリズムがあって、スラスラ読ませますね。つばきの人生というマクロ、大河的な視点ではプロットが練り切れていないとは思いますが、一方ミクロである寛政元年(1789)の江戸深川を中心とした風俗や情趣、時代模様の描き方は細かく、読んでいて非常に面白くてためになりました。
 ああ、こんなものを食ってたんだとか、飛脚問屋なんてのがあって手紙を出せば返事まで持って帰ってくれたんだとか。
 深川門前仲町ったら、当時もっとも賑わっているような場所でしょう。こんな感じだったんですねえ。
 わずか200年と少し前のことでありながら、こんなに違うのかと驚くところもあったり、今と変わらない人情があったり、商魂があったり。
 すごいのは、寛政の改革で有名な松平定信が出した棄捐令(貸し金棒引き令)。
 徳川家家臣の俸給、禄米の売却代理人であった札差(百九人)が、禄米を担保にカネを高利で武家に融通し始めたのですが、これで武家の首が回らなくなりました。武家は俸給をもらっても大半は利払いのみで消え、一方の札差は、武家が払う利息で毎夜豪遊を重ねたのです。家臣の窮状を看過できぬと断じた公儀は、札差百九人に対して総額百十八万両超の貸し金棒引きを命じたのです。百十八万両ってどすごいよ、たぶん。1両の価値がが12,3万円くらいだからいくらになるのだろうね。たまらないのは、貸し金を踏み倒された札差のほう。そして、江戸の大尽だった札差の凋落をみてほくそ笑んでいた江戸の町衆も、百九家もの札差が使うカネで江戸の景気は保たれていたのですから、それがなくなったばかりに、街を不景気が襲うようになるのです。

 少しつばきのあらすじを。
 生まれも育ちも浅草並木町のつばき。明和元年(1764)生まれの26歳、女ざかりの独身。
 この年になるまで、商いでは一膳飯屋や弁当屋で大きな成果をあげてきました。奉公人は何人も使っており、妹ふたり(さくら24,かえで20)は確かな相手に嫁がせたし、両親(父・安治50歳大工 母みのぶ46)の世話もしています。
 まあ、いわゆる江戸の女性実業家ですね。しかし、忙しすぎて、恋はままならないという。
 おそらく前作の出来事だと思いますが、土地の材木屋と何かトラブルがあって、ずっと浅草でやっていた一膳飯屋「だいこん」を、つばきは深川に移しました。寛政元年の5月上旬ですね。そこから物語がスタートします。
 開業してみたら、深川は浅草とは空気がずいぶん違う。もともと埋立地なので、井戸水は塩辛く水を買わなければならない。土地柄、職人が多いので揚げ物が好まれます。富岡八幡宮の例祭などは水かけ神輿があって浅草の祭りよりも賑やかで、祭り関係の仕出しにカネは惜しまないが、その反動で日頃は贅沢をしない。そして、深川は出る杭は打たれる、出ない杭は踏んづけられると云われるくらい、新入りの商売に厳しい土地柄でした。
 つばきは、かつて父が賭場で借りたカネを取り立てにきていた伸助、今は深川の地回りの渡世人である閻魔堂の弐蔵親分に、深川の仕来りを教えてもらったりします。このふたりは仲が良いようでいて確執もあり、複雑な関係です。
 そして店もようやく軌道に乗り出した頃の8月、深川の由緒ある大店である廻漕問屋木島屋の普請場から、隠居所の上棟式で仕出し弁当を頼みたいと注文が来ました。一人頭なんと二百文(約6000円)の折詰を百個も!!
 小鯛が1匹30文、二段重ねの折箱代が17文、赤飯と、小鯛以外の惣菜を拵えるのにざっと50文。水引を巻いて、形よく包むのに10文。およその費えでひとつの折詰につき107文。これでも百個の注文をこなせば十貫近い儲けとなります。
 近所の子供まで手伝いに借りだして、豪勢な弁当作りに邁進するつばき。
 しかし、世の中はそう安々とうまいくいかないものでして・・・

 料理屋を営む女性の物語なので、腹が減る小説でもあります。
 そっち方面で、気になったことがふたつ。
 ひとつは、すっぽんに噛みつかれたら、すぐに水につけることという、豆知識ゲット。
 強烈な噛み付き力を持つすっぽんですが、エラがないので、水につけると口を放すそうです。
 もうひとつは、百匹もの小鯛を素早く調理するために、焼き目を付ける前に蒸す場面を読んで思いついたことですが、関東の鰻の蒲焼きが、関西と違って焼く前に蒸すのは、ひょっとしたら客が多くて忙しいために、焼く時間を短くするためだったんではないでしょうか。蒸すのは何匹もの鰻を大量に蒸せますが、焼くことは大量にできませんからね。先に蒸せば焼く時間が短くて済みます。ただのカンですけど、どうでしょうかね。


 
 
 
 
 
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