「栗田艦隊退却す」小島清文

こういう言い方は語弊がありますが、出色の出来の戦記です。
緊迫感あふれる海戦の模様、昭和19年10月のレイテ沖海戦において不明の行動をとったとされる「栗田艦隊」の謎に迫るものです。
そして、私はこの戦艦大和乗組みの暗号士であった小島少尉の言うことを信じます。
そこには私がつい最近読んだ艦隊参謀長であった小柳冨次著「栗田艦隊」(下記関連記事、カテゴリー海軍戦史・戦記参照)のおかしいところ、隠されているところを明らかにしている部分もありますし、批判あるいは同情しているところもあります。

暗号士とは、モールス信号により送受信される電文を敵に傍受されても読解出来ぬよう暗号化、または暗号を平文に解除する特殊な兵職であり、乗組員の中でいち早く電報される機密に触れることが出来るのです。
著者である小島少尉は慶応義塾大学を繰り上げ卒業して、海軍第3期予備学生隊に入隊、横須賀通信学校で術科教育終了後、のちに栗田艦隊旗艦となった超弩級戦艦「大和」乗組暗号士となりました。
本書は、著者が入隊してから、レイテ沖海戦を生き延び、昭和19年12月呉に帰港するまでの記録です。
ちなみに帰港後、フィリピンのルソンに転任され、後任の暗号士は沖縄で撃沈したさいに戦死されたようです。
ともあれ、著者は生き残り、本書を記しました。
原型は昭和53年文芸春秋に発表された「栗田艦隊反転は退却だった」という記事であると思われます。
その後、大きな反響を呼び、昭和54年「栗田艦隊」が刊行されました。そして2009年「栗田艦隊退却す」となってリバイバルされました。
艦隊の反転時刻など戦後編纂された戦史の誤りを指摘したことも驚きでしたが、本書の内容で一番重要であったのは「空母瑞鶴(小沢艦隊旗艦)からの電報は大和に届いていなかった」ということに尽きます。
絶対に目を通すはずだった暗号士のもとにその電報は届かなかったのですから、けっしてもみ消されたわけじゃないのです。そして、小柳参謀長が「栗田艦隊」で書いていた空母瑞鶴の送信機が壊れていたわけでもないのです。
事実は著者が言うとおり、当時大和はアメリカ機の猛攻撃の標的にされており、電波受信状況が極端に悪化していたのだろうと思います。
もし、その電報が届いていたら?
小沢艦隊の囮作戦が成功し敵機動部隊が北に釣りだされそうだという電報が届いていたら?
それは結局、小島暗号士も小柳参謀長も述べているとおり、犠牲者が増えただけだと私もそう思います。
両方の軍のね。
そして本書が刊行されるという歴史も存在しなかったかもしれません。

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