「指揮官空戦記」小福田皓文

 零戦は傑作機といわれるが、専門的にいうと、使い方によって、はじめて傑作機となるのである。
 下手な使い方をした場合の零戦は、極端にいえば、欠陥弱体機といってもいい。
 零戦は空戦性能がよいということになっているが、これは操縦者が、空中格闘戦の優秀な技倆、経験があってはじめて、零戦の特長をフルに生かし、その空戦威力を発揮できるのである。
 未熟な操縦者が、この零戦で、なまじっか敵に空戦を挑んだら、かならず逆に、叩き落とされる。
 下手な操縦者には、むしろ、空戦旋回性能などより、速度と上昇力にたよったダイブ・ズーム戦法が無難である。
 零戦は、いわば「正宗の名刀」なのである。
 名刀さえ持って、これを振り回して敵を倒せるかというと、そうはいかない。
 名刀の威力を発揮できる腕があってこそはじめて、名刀の切れ味が出ようというものだ。


 著者は、支那事変からソロモン攻防戦を戦闘機隊長として戦い、海軍航空技術の総本山である海軍航空技術廠では戦闘機担当の実験主務者を長く務めた、小福田皓文(こふくだてるふみ)さん。海軍戦闘機のテストパイロットとして、零戦以降全部の戦闘機の開発実験にたずさわってきた方なので、本書には面白いエピソードが溢れており、普通の航空隊戦記とは違った感があります。
 戦前にドイツから輸入した戦闘機He112uと技術指導に来ていたニチケ君(芸者さんに惚れてしまった)との思い出や、零戦の真の意味での後継機となるはずであった堀越技師の傑作戦闘機「烈風」のこと、昭和14年から著者が開発にたずさわってきた「雷電」は、著者が戦地に出た後、後任の帆足大尉がテスト中に事故死、再び後任の後任として著者が実験担当者になったことなど、時系列よりも興味深いエピソード中心に、読み易くキレのある文章で書かれています。
 戦後も航空自衛隊で大空に関わっただけに、パイロットの適正や酸欠など航空機事故にまつわる事柄についても、これほど著者の見識で詳しく書かれたものを読んだことがありません。
 また経歴中に海上を含む4度の不時着を経験しており、その様の記述も精妙で真に迫っています。
 堅苦しいだけでもありません。酒に酔って操縦したことや、ポートモレスビー攻撃の帰りに腹の調子が悪くなり、首のマフラーをオムツ代わりにウンコをくるんで風防を開けて投げ捨てると、指揮官機の様子がおかしいと近づいてきていた僚機が慌てて遠ざかったことなど、面白く書かれていてユーモアもありました。
 孤軍奮闘ならぬ孤軍糞闘(笑)だった、とのことです。

 著者は岡山県出身、昭和3年4月海軍兵学校入学(海兵59期)。
 ちなみに、これは横山保さんと同期かな。ふたりともソロモンの204空に関係した戦闘機隊長ですね。
 海兵59期は、卒業後練習艦隊8ヶ月、ついで第一線の連合艦隊各艦に配属され、見習修業4ヶ月、そのつぎはまた陸上に上がって各学校(砲術、水雷、通信、航空)の術科講習4ヶ月、それが終わったところでもう一度、艦隊各艦に配属されて二期目の見習。ようやく江田島の門をくぐって8年目、金筋1本星1つの海軍少尉ができあがるという、正規の過程を経験した最後のクラスです。
 横山さんは自分の本で潜水艦に1年乗っていたと書いてますが、小福田さんはその辺りの話はありません。
 著者は当初、航空は自分に向いてないと思ったそうです。それがなんと、海軍航空隊を代表するような指揮官に・・・
 第一線の12空、空母龍驤での攻撃支援、援蒋ルート遮断のためのハノイ(このとき零戦。フランス旅客機撃墜事件あり)駐在と、支那事変に従軍3度。空技廠でのテストパイロット中に昭和17年7月ラバウルへ。204空の戦闘機隊長と書かれていますが飛行隊長のことかもしれません。ソロモンは昭和18年3月までいました。その後は再び空技廠です。
 そうそう、空技廠に勤務するようになって、海軍に入って12,3年目にしてはじめて女の子のいる職場で働くようになったとうれしそうに書いていましたが、考えてみればその通りで、そこを読んで私、ちょっと衝撃を受けました。
 今の自衛隊ならともかく、当時の軍隊は基地といえど空母といえど女性が勤務しているわけはないのですね。
 そうかそうか。考えてみれば、そうなんだよなあ。
 そういう独特の視点も含めて、経験者としての海軍航空機の開発エピソードも盛りだくさんな本書は、ちょっと他の戦記では読めないと思います。似たようなのは攻撃機のほうの開発をした大多和さんの本が、少し同じ雰囲気でしたね。
 ちなみに小福田さんが日本はアメリカに敵わないと技術的にショックを受けたのは、昭和19年撃墜されたB29に装備されていた機上レーダーと防弾燃料タンクを調べたときだったそうです。



 

 
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